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クラスの女子全員+俺だけの異世界帰還  作者: うなぎ
捜索編

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26/120

大統領の側近


 ホテルの一室で、俺たちは話を聞くことにした。

 クルーズ軍曹が説明してくれる、俺たち異世界にいた頃の……この世界で起こった出来事だ。

 もちろん、異世界の話を出したりはしない。魔族のせいでニュースが見れない、とか言い訳ができる状況なのは助かった。


 まず、つぐみが挨拶をする。


「こんにちはクルーズ軍曹。ここのホテルでは快適に過ごせましたか?」

「ああ、その点は感謝してるぜ」


 俺が一紗と一夜を過ごしてる間、つぐみとクルーズ軍曹は多少話をしたらしい。ある程度の信頼関係を感じる。


「じゃあ、話を聞いていいか?」

「おう、何から聞きてぇんだ。つっても俺は専門家じゃねーから、一般常識レベルでしか話せねーけどな」


 さすがにそこまでは期待していない。


「ずっと疑問に思ってたんだけど、どうしてアメリカ軍は魔族たちと戦争してないんだ? いや、日本人の俺が言うのも変かもしれないけどさ、もっと助けてくれてもいいだろ? アメリカなら」


 日米同盟、とかいうのがあるんだよな? 


「ちっ、そこからかよ」


 機嫌が悪いというよりは、あきれているといったところだろうか。クルーズ軍曹は俺たちの世間知らずさを察してくれたらしい。

 

「一度、アメリカ軍は日本を助けるために戦った。太平洋に艦隊を集めて、地上を爆撃。だがそれはゼオンという魔族によって完全に防がれちまった」

「…………」


 ゼオン。

 奴の名前はアメリカまで轟いているらしい。


「負けたからあきらめたのか?」

「それもあるが、決定的だったのは大統領選挙だ。大統領が変わって国の方針が変わっちまった。アメリカは魔族と敵対したりはしない」

「なるほどな。じゃああんたたちは、魔族から日本を解放するためにここにいるんじゃないんだな……」 

「俺たちは国連を介して人道支援でここに来ている。日本を救うためじゃねーな。片方の民族に肩入れしたりはしねーよ」


 お……おいおい、なんだか俺が想像してたのと違うぞ?

 異世界からの侵略者魔族と、日本。その構図だと思ってたのが、こんなにもこじれているだなんて……。


「……呆れるほどに何もしらねーんだな。お前、引きこもって生活してたのか?」

「うっ……ま、まあ外国の話だからな。難しい話はよく分からないってことだ」

「いくらニュースを見ていないお前でも、大統領の顔ぐらいは見れば思い出すだろう? こいつだ。どうだ思い出したか?」


 クルーズ軍曹はスマートフォンで画像を開いた。相変わらずこの辺りはネットにつながっていないようだが、画像自体は以前に保存されたものらしい。


 そこには、白髪の白人男性が映っていた。

 なるほど、この男が大統領なのか。全く記憶にないけどな。いや、つぐみとかだったら覚えてるかもしれないけど。

 

 などとぼんやりと考え事をしながら、画像を見ていた俺は……あることに気が付いた。

 大統領の背後に立っている顔色の悪い男。ワカメのようにべっとりとした黒髪が特徴的だ。


「こ……この男は……」


 俺はこの男に見覚えがあった。

 かつて、異世界で俺が戦ったことのある……魔族。

 迷宮宰相ゲオルク。


「…………」


 俺は異世界での出来事を思い出す。

 奴は決して好戦的な魔族ではなかった。しかしなりゆきからどうしても戦わざるを得なかった。

 俺たちは戦った。

 なかなか苦しい戦いで、第三者の介入もあった。しかし混乱の果てに生き残ったのは……俺だった。

 

 他の魔族たちは好戦的で、戦いで負けたことにある程度理解は示しているはずだ。だがこのゲオルクという魔族は武人とは程遠く、宰相という二つ名にふさわしい陰謀をめぐらすタイプの魔族だった。


 不本意な戦いで死んでしまったこの魔族。中でも直接死因を作ってしまった俺への恨みは相当なものだろう。なぜ手加減してくれなかったのか、お前さえいなければ……と思っていてもおかしくない。


「こいつ、魔族だ」

 

 気が付けば、俺はそう呟いていた。


「そういう誹謗中傷はSNSでよく目にするな。まっ、定番の悪口だ。お前もツイッターか何かで書き込んでみたらどうだ?」

「違う。冗談なんかじゃない。俺は本気で言ってるんだ!」

「分かった分かった。信じるよ俺は……」


 などと言っているが、本気で信じているわけがない。これほどの事態に、こんなに冷静で言えられるはずがないからだ。


 クルーズ軍曹は知らずとも、異世界で一緒に過ごしてきたつぐみなら俺の言葉を理解してくれるはずだ。


 俺は一旦クルーズ軍曹から離れて、つぐみと話をすることにした。


「迷宮宰相ゲオルク。俺が昔殺した魔族だ」

「ゲオルク? 確か園田君の偽物を生み出した魔族だったな」


 ゲオルクに面識があるのは、俺と一紗だけ。ミゲルと戦った後に出会った魔族だ。雫やりんごはその時点で地上に戻っている。

 一紗がダウンした今、この男の正体を看過できるのは俺だけだったということだ。


「あいつも生き返っているとは思っていたけど、政治家になってるなんて……。それも大統領のそばに……。どんな手を使ったのか知らないけど、権力に結びついているとしたら厄介だ。あいつ自体はそれほど強い奴じゃなかったけどな」

「この魔族は洗脳魔法でも使えるのか? あるいは幻覚で誰かを惑わしたり?」

「優の偽物は幻覚や洗脳みたいな感じじゃなかった。たぶん人形を生み出す魔法なんじゃないかな?」

「この新しい大統領が、そのゲオルクの生み出した偽物の人形であるという可能性は?」

「…………」

 

 俺は、思わず息をするのも忘れていた。

 そこまでは……考えていなかった。


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