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クラスの女子全員+俺だけの異世界帰還  作者: うなぎ
帰還編

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16/120

クルーズ軍曹の疑問

 

 太平洋沿岸、アメリカ軍仮設キャンプにて。

 俺の放った〈白刃〉が、ものすごい勢いでコンクリートをぶっ壊した。

 大騒ぎになってしまった。


 なんで? 俺、ちゃんと空気を読んで手加減したつもりだったのに。


〝当然です〟


 え?

 聖剣から、声が。



〝あのような者たちに私が使われることなど、あってはならないです〟


 俺には〈同調者〉という能力がある。

 こいつは感情が高ぶったときに聖剣・魔剣の声を聴くことができる能力だ。

 この剣はもともと俺たちと同じ人間。魔族によって兵器にされてしまった人々だ。一応、癒しの力を使えばもとに戻すことはできるのだが……聖剣ヴァイスはそれを望まなかった。もう何百年も剣として生きてしまったため、知り合いも死んでしまってわざわざもとに戻る必要性を感じていないらしい。


「……ちょっと、やりすぎだろ」

 

 俺は小声で剣にささやいた。


 俺には全くその気がなかったのだが、どうやら聖剣の中の人が怒っているらしい。さっきの暴発もそのせいかもしれない。

 確かに、クルーズ軍曹は剣を無理やり奪ったりと横暴が目立っていた。おまけにあの適性の低さだ。あいつに使われたくない、という気持ちは理解できなくもない。

 だけどもうちょっと空気を読んでほしい。このままじゃあ俺が……チート能力をアメリカ軍に見せつけてイキってるみたいじゃないか。そりゃ心の中ではそんなこと考えてたかもしれないが、実際口に出してなかったからセーフ……だよな?


 ……は、恥ずかしい。

 ちゃんと手加減するつもりだったのに、本当に申し訳ない。


「と、とにかく俺の実力は分かっただろ? これでもういいよな? 俺は帰らせてもらう」

「ま、待ちなさいっ!」


 強引に引き上げようとしたけど、やっぱり無理だったようだ。引き止められてしまった。


「希望していた避難民の受け入れは構わない。しかし事情を説明してもらう必要がある。君たちも一度、こちらの船に来てもらいたい」

「話をするってことか?」

「半日、いや六時間程度で済む話だ。都合が悪ければ泊まってくれても構わない」

「…………」


 どうやら俺たちに話を聞きたいらしい。聖剣のことか、これまでの経緯のことか魔族のことかは分からないけど、目立つことをしてしまったから仕方のない流れだと思う。

 俺の一存だけでは決められない。


「いいよな?」

「……仕方あるまい。それが条件というのなら」

「可能なら日が昇っているうちに帰りたいけど。夜道の車は不安だからね。運転の努力はするけどね」


 うーん、鈴菜が不安そうだけど、やむを得ないかな。

 校舎には妻たちを待たせている状態。日帰り、と明言したわけじゃないけど、さすがに夜が明けるまであの場に俺がいないのは少し不安だ。あの場にいる戦闘要員はエリナと璃々とりんご。普通ならエリナの聖剣で頑張ってもらいたいところなんだけど、あの子は猪武者なところがあるからすごく不安だ。お腹に子供がいるのも気になる。


「分かった。でも俺たちも田舎に家族を待たせてるから、手短にしてくれ」

「もちろんだ」


 こうして、俺たちは避難する人たちと一緒に小型船に乗って……沖合いの船まで移動することになった。


 

 **********


 下条匠たちを乗せた船が、海岸から遠ざかっていく。

 その姿を、ぼんやりと眺めているものがいた。


 アメリカ海軍所属、クルーズ軍曹である。


「…………」


 その表情は険しい。

 下条匠に聖剣勝負で負けてしまったから悔しい……というわけではない。


 クルーズ軍曹は疑問に思っていた。

 下条匠と、彼が連れてきた避難民たちの扱いについてだ。

 

 そもそも魔族は人間と見分けがつきにくい者もいる。そのため避難民の中に魔族が紛れ込んでいる可能性も否定できない。

 そのためここに来た人間に対しては身分証明や避難カードの記入が求められる。証明は後日でも可能だが、船に入る前には必ず求められる作業だ。

 だが先ほど、下条匠や避難民たちにはその作業が行われなかった。本来ならあの聖剣勝負の話が出る前に行われていなければならない作業だ。


 そして協力者が避難民を連れてくる事例は、何も下条匠の話だけではない。魔剣ザンドの使い手である園田優もまた、正義の担い手として多くの人々を連れてきた実績がある。

 しかし彼が船に呼び出されたことは一度もない。誰かを助けたいから、とこの地域に残ることは……自由意志として認められているのだ。


 ここは戦地であり紛争地域だ。確かに日本国から避難指示が出てはいるが、それでも様々な理由からこの地に残ることを選んだ人々も多い。

 そもそも自分たちアメリカ軍は、国連を介した人道支援の目的でこの地に来ている。内乱・・の片棒を担ぐようなことをしているわけではなく、基本的には中立・・に近い。したがって日本の避難指示に従う義務もない。

 

 なぜ、下条匠だけが船に向かうことになったのか? 確かにその聖剣の適正は異常なほどだったが、避難民まで特別扱いする必要があるのか?

 

「…………糞っ!」


 クルーズ軍曹は自らの聖剣を振り回した。

 キナ悪い臭いがする。


 そもそもあの下条匠たちと話していた避難の担当者。平時の担当者ではなく、クルーズ軍曹の上官に当たる人物であった。本来彼は沖合いの軍艦に乗っており、今は現場を視察するためにこの場を訪れている。それ自体はよくある話ではあるが、わざわざ一介の日本人に話をする必要はない。


 不意に、サイレンが鳴った。


 兵士の集合、整列を告げる合図だ。すぐにフェンス内の集合場所へ集まる必要がある。

 訓練、の時間ではない。このサイレンは魔族が攻めてきたときなど緊急事態に発せられるものだ。

 もちろん……非常時を想定した訓練である可能性もある。だがクルーズ軍曹の心に芽生えた疑念は深まるばかりだった。


 聖剣の使い手、下条匠。

 彼の出現と、非常事態を告げる音。


 何かが……始まろうとしている。


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