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クラスの女子全員+俺だけの異世界帰還  作者: うなぎ
エピローグ

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120/120

二つの物語

 勇者下条匠の帰還。

 その報はすぐに全世界へと知れ渡り、人々は盛大に祝った。この日は記念日となり今後も何十年にわたって祭りが催されるだろう。

 そしてそれは、人類だけでなく魔族や天使たちの間でも同様だった。


 ここは天界。


 人類と種族も住む場所も違う天使たちが住まうこの場所も、下界の例にもれず少々盛り上がっていた。

 下条匠は彼らにとって英雄ではないものの、かつての創世神であるエリクシエルを倒した一目置かれる人物なのだ。その帰還は彼らにとって興味の引かれるニュースであり、祝うほどではないものの話題性は十分にある。


 下条匠帰還の報に興奮する天使たち。

 そんな彼らを高い山の神殿から見下ろしているのは、同族である一人の天使だった。 


 未来の正天使――クリストファーである。


「トゥー、トゥー、トゥトゥ」


 彼は言葉を話せない。

 かつてエリクシエルより賜った強大な力――未来の聖術。この代償によって言葉を失った彼は、しゃべることができない。

 だが常人と同じように言葉を思い浮かべ、考えることは可能だった。

 

 未来の聖術は未来予知の予言書バイブルを生み出す。この本にはこれから起こる未来が描かれている。

 クリストファーは過去の予言書バイブルを読み直すことによって、これまでで起こった出来事を考察していた。

 その手にある予言書バイブルは……二冊。


 ――不幸を呼ぶ四人編。

 召喚された御影新は貴族たちに唆され、下条匠を強襲。当時魔王の魂が宿っていた島原乃蒼の子――『空』の身体とともに異世界帰還を果たす。


 ――エンジェル・フェザー編。

 創世神エリクシエルは〈バイブル〉による未来予知を参考に勝利を確信していた。しかし彼女が見ていたのは『空がいた未来』であり、『空がいない未来』である現実とは異なるものだった。

 自らの勝利を確信したエリクシエルは〈孵化〉を使用した。しかしカードを選んだ『リンカ』は二十分の一という奇跡的な確率で希望のカードを引き当て、エリクシエルに勝利を果たす。


 ――やり直し編。

 匠の子供――リンカとエドワードは御影新たちによって攫われた。しかし下条匠の活躍によって、見事二人は救出される。

 追い詰められた御影新は、〈時間操作クロノス〉を使用し時間を巻き戻した。



 これが正しい歴史……そのはずだった。

 だがこの歴史の真実を知る者はクリストファーを除いて存在しない。

 規格外の異世界人スキルーー〈時間操作クロノス〉はすべての歴史を塗り替え、新たな歴史を現実のものとした。

 

 それはほとんどすべてのことが変化前と同じであった。ただ、異物である御影新の行動とそれに関する事象が、細部で歪められた物語だった。

 御影新が異世界召喚されない物語は、下条匠に大きな変化をもたらした。


 ――不幸を呼ぶ四人編。

 召喚された加藤達也は魔王と結託し、下条匠を強襲するが失敗。腹いせに孕ませた『異世界人の娘』とともに異世界帰還を果たす。この子供には魔王の魂が宿っていた。


 ――エンジェル・フェザー編。

 創世神エリクシエルは〈バイブル〉による未来予知を参考に勝利を確信していた。しかし彼女が見ていたのは『空がいない未来』であり、『空がいた未来』である現実とは異なるものだった。

 そのまま話が進めば敗北してしまうため、エリクシエルは〈孵化〉の使用時、下条匠の娘によるカード選択を禁止する。その数手先には勝利するはずであった。

 しかし空の存在が下条匠の心理に影響を与えたのか、彼が選んだカードは勝利へと繋がる〈鏡〉のカードであった。


 ――やり直し編。

 匠の子供――リンカとエドワードが加藤達也によって攫われた。彼はその途中で御影新を殺害し、そして自身も下条匠によって殺されてしまう。


 と、いうのがこれまで起こった出来事であった。

 

(エリクシエル様は間違った歴史を参考にして、戦いに敗北した)

 

 元の歴史、そして今の歴史両方で、エリクシエルは間違った歴史を参考にして敗北している。

 最初の歴史では、勝利するはずの歴史を見たまま敗北した。

 次の歴史では、勝利しない未来を変えようとしたが、結果として敗北してしまった。

 前者はともかく、後者はあまりにも出来すぎた話だ。娘である空にもリンカにもカードを選ばせていないのだから、そのままエリクシエルが勝利してもおかしくなかったはずだ。

 だがエリクシエルはこの世界でも敗北した。


 まるで下条匠の愛娘の存在が奇跡を呼び起こしたかのように……。


(エリック殿には申し訳ないが、これが真の『奇跡』といったところか)


 クリストファーは予言書バイブルを閉じた。

 たとえ二つの歴史が生まれようと、今ある歴史はただ一つ。こんなものは現実ではなくただの物語だ。少なくとも、クリストファー以外の全員にとって。

 

 これはもはや必要ない。


 クリストファーは予言書バイブルを投げ捨てた。


 エリクシエルが死に、魔王が死んだこの世界。英雄下条匠とその親族たちによって、これからの世界は動かされていくだろう。

 彼らがどんな世界を、どんな未来を生み出していくか。クリストファーはそれに興味があった。無粋なネタバレなど必要ないのだ。


 神も魔王も死したこの世界に祝福を。

 やがて紡がれる新しい未来への希望を。


これで完結です。

皆さん今までありがとうございました。


活動報告の方に完結の報告等いろいろ書いておきたいと思います。

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