幼女の黄金像
突如としてサブマシンガンを乱射し始めたミゲル。
銃を使うなんて、異世界ではありえなかった光景だ。
俺はすぐに 腰を落として初撃を回避する。
ミゲル自身も銃を撃つことに慣れていないように見える。その隙をついての回避だった。
だがミゲル攻撃をやめることなく、再び銃口を俺に向けた。後ろにいる信者たちを犠牲にしてでも……俺を殺すつもりらしい。
精度は高くないが、あの数だ。
部屋の中では避けるのにも限度がある。
普通に考えれば……絶体絶命。
「……」
あの時の俺なら、負けていたかもしれない。
だが……。
「死ねえええええええええええっ!」
ミゲルが再び銃撃を始めた。
その狙いは正確――とまではいかないまでも銃口は確実に俺をむいている。銃弾のいくつかは……当たってしまうコースだろう。
「……舐めるなよ」
俺は秘策を発動された。
この状況を覆すことのできる、聖剣の力。俺はそれに心当たりがあったのだ。
ミゲルの銃。
俺の秘策。
二つの力が、激突する。
「な……なぜ……」
床に手をついたのは、ミゲルだった。
「なぜわたくしが……撃たれているのですか?」
銃弾は……すべてミゲルに跳ね返ったのだ。手、足、脇腹、そして首と頭に銃弾。人間であればほぼ即死に近い状況であるが、魔族という肉体が彼の命を生かしてしまったらしい。
だがいかに魔族といえど、このケガは重傷だ。もう……長くない。
種明かし、というわけではないが、俺は勝利の要因となった剣をミゲルに見せつけた。
三本目の剣――聖剣だ。
「これは聖剣ヴンダーという剣だ。確率操作で奇跡を引き起こし、相手の攻撃を跳ね返したりできる」
「バカな。あなたは……そんなもの、持って……いなかっ……た」
「そうだな、俺が今ここに呼び出した」
〈籠ノ鞘〉というマジックアイテムがある。
俺のポケットに収納されたこいつは、異空間にものを収納できる優れた能力を持つ。こいつで千に近い聖剣・魔剣を収納し、必要な時に必要な剣を取り出すようにしている。
一紗のグリューエンも、俺のヴァイスもドルンもヴンダーも、みんなこの中に保管されていた。
「奇跡を操る聖剣? 異空間から聖剣を取り出す? そ、その力は、あの方の……」
「いつまでも同じ強さじゃない。俺だってあれからいろいろあったんだ。昔倒せた敵に……負けることなんてない」
「む……無念……です」
銃はすさまじい威力を持つ武器だ。聖剣や魔法もそれはそれですごい力だが、単純な物理的貫通力の話となれば銃弾もかなりのもの。
速度もおそらくミゲルの動きを完全に凌駕していたのだろう。しかもある程度連射の効くサブマシンガンだ。本来であればそれだけで人間を殺してしまうことのできる代物だ。
だが、その強さが仇となったな。
このミゲルという魔族、体の硬さはそれほどではなかったらしい。中には銃も効かない魔族だっていると思うが、こいつに関しては致命傷を与えてしまったようだ。
「わたくしは、また……死んでしまうのですね。ああ……魔王陛下、信仰至らなかったこのわたくしを、どうか……どうかお許しください……」
それが、祭司ミゲルの最後だった。
終わった。
強敵だった。
一歩間違えれば、俺は死んでいたかもしれない。途中から銃を使い始めるなんて完全に予想外だった。もし俺が今の聖剣・魔剣を手に入れる前だったら、間違いなく殺されていただろう。
「子猫! 子猫大丈夫か!」
俺はすぐさま子猫へと駆け寄った。彼女は意識を失って縛られていたが、それ以外にはほとんど健康に見える。ケガもなさそうだ。
脈も息もある。このまましばらくすれば目を覚ますと思うが、早く学校まで連れて行こう。
「おお……ミゲル様」
「我々はいったいどうすれば?」
信者たちが一斉に嘆き始めた。彼らは本当にミゲルの魔王教に帰依していたらしい。
困ったな。
うまくいくかどうかは分からないが……説得するしかないよな?
「あんたたち、この世界の……日本人なんだろ? 魔王とか魔族とか……そんなわけの分からないものを信じてどうするんだ!」
「…………」
「俺を見ただろ? 人間だって魔族を倒せるんだ! 恐れなくてもいい! 早くここから逃げ出して、元の生活を取り戻そう!」
異世界へ戻る予定の俺だから、この言葉は心からのものではない。しかし今は説得が最優先だ。
絶望にその身を震わせていた信者たちだったが、俺の言葉に少しでも心を動かされたのだろうか? 瞳に光が宿っているように見える。
「とりあえず、俺たちの学園に来てくれ。誰もいないよりは安心だろ? この剣や魔法を使える人材が何人かいるから、きっと安全に過ごせる。そこで帰る方法を探して、安全な場所まで連れて行ってやるから」
「信じて……よいのですか?」
やがて、一人の女性が俺に語り掛けてきた。
どうやら、やっと信じてくれる気になったらしい。
「ああ、任せとけ! 俺は強いからな」
その言葉に、何人かの元信者たちが立ち上がった。俺についてきてくれる気になったようだ。
俺は気を失ったままの子猫をおんぶした。
こうして、俺は保護した人々と一緒に、学園へと戻ることに……。
「おっと」
などと考えていたら、足元に転がっていた杖に躓きそうになっていた。
ミゲルの投げ捨てたものだ。先端にはこの部屋の奥に飾られているものと同じ……黄金像が彫られている。
それにしてもこの黄金像、幼女になってるぞ? しかも相当にかわいい。像が魔王で神なんじゃなかったのか?
日本にきて、偉人の美少女化に目覚めてしまったのだろうか? オタク文化が魔族にまで浸透してたりして?
ううーん、それにしてもこの女の子の顔。誰かに似てるような……。
気のせいか?
一瞬だけ気を取られてしまったものの、俺は黄金像のことはすぐに忘れ……岐路についたのだった。




