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クラスの女子全員+俺だけの異世界帰還  作者: うなぎ
魔王編

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かつての敵


 すさまじい光の渦だった。

 ただ一つの(真解)でも圧倒されるのに、それを同時使用したのだ。

 その威力は言葉で表現できないほどだった。

 だが……。


「う……ぐ……」

 

 当然ながら俺の消耗も激しい。

 かつて聖剣・魔剣を同時使用とした時と同じ。

 乃蒼のハイルングで己を回復しながら、〈真解〉を連続で放ち続ける大技。


 しかしその荒業は俺はもとより聖剣たちにも多大な負担を強いるものだった。

 数本の聖剣・魔剣が壊れた。

 数百本の聖剣・魔剣にひびが入り、壊れてはいないが力を使えない状況。

 そして頼みの綱の乃蒼すらも気絶してしまっている。

 そして――


「人間でここまでの力を生み出せるとは、見事、という他ない」


 そこまでしても、魔王は倒せなかった。

 やはりそれなりに効いているようには見える。体中のあちこちに細かい傷が入り、特に左足の傷は骨にまで達してはいないものの人間であれば縫うのが必要なほど。

 頭に生えていた角のようなものも折れていた。


 でも、それだけだ。


「しかしそれだけでこの魔王を倒せると思われていたとするなら、いささか甘く見すぎであったようだな」


 まだ、魔王には十分余裕があるようだ。


「ふんっ」


 魔王が手を構えると、そこから巨大な魔方陣が出現した。

 すでに満身創痍を俺はそれを防ぐことも避けることも難しい。

 

「がはっ……」


 俺は魔方陣から出現した巨大な槍を回避した。

 だが回避は不十分であり、槍の周囲に発生した衝撃波をもろに食らってしまった。


「匠っ!」

「匠君っ!」

 

 吹き飛ばされた俺は妻たちのもとへと舞い戻ってしまったようだ。

 薄れゆく意識の中、妻たちの顔をぼんやりと眺めることしかできなかった。




 ……。

 …………。

 ………………。


 俺……は。


 やっぱり……勝てないのか?

 変な正義感なんて出さないで、さっさと異世界に戻ったほうがよかったのか?

 そうすれば、向こうの世界で家族に囲まれて、平穏な日常を享受できたはずなんだ。

 

 ゆっくりと目を覚ます。

 下を見ると俺が倒れていた。小鳥やつぐみたちが必死に叫んでいる。さらにその遠くでは魔王が冷たい目線で俺たちを見つめている。

 いわゆる幽体離脱とか臨死体験に近いものなのかもしれない。

 

 俺は……死んだのか?


〝よう〟


 『そいつ』は、どうやら俺の近くにいたらしい。声をかけられるまで全く気が付かなかった。

 

「お前は……」


 振り返ると、そこには記憶にある男がいた。

 黒い着物を着た青年。


 魔剣ベーゼ。

 かつて異世界で俺と敵対することとなった恐るべき呪いの魔剣だ。この餌食になった小鳥は『黒き災厄』と恐れられるほどに暴れまわって各地に傷跡を残した。


「お前も、転生したのか……」

〝はっ、バカ言ってんじゃねーよ。どうして魔族でもねぇ俺様が転生する必要がある〟

「じゃあ一体どうして……」

〝あの日、お前らに挑んで敗れたあの時の話だ。俺様は確かに消滅して、存在そのものがなくなっちまった〟

「ああ……そうだな」

 

 あれは忘れもしない、激戦だった。

 当時の俺、一紗たちはもちろんのこと、グラウス共和国の兵士たち、そして非戦闘員であるはずのつぐみまで全力で戦い、そして勝利した。


〝死んだ俺様の力と……そして意思の一部は元宿主の公爵のおっさんに残った〟

「フェリクス公爵はお前に操られてたのか?」

〝そんなことができるならもうとっくにやってるぜ。意識を奪うなんてとんでもない、心の片隅で自我を保つのが精いっぱいっつーだけの力だ〟


 だろうな。

 話した感じでは、公爵は公爵のままだった。悪人には違いないんだけど、こいつみたいに無意味にが残虐で快楽主義的なところはない。


〝そして似たような力と魂の残り香が、同じく元宿主のあの女にも残った〟

「こ、小鳥に?」

〝おうよ。二つの欠片が混ざり合って、こうして俺様が話のできるほどに回復したってわけよ〟

「…………」


 フェリクス公爵と小鳥。

 二人が近づいたことにより、魔剣ベーゼの意思が復活した?

 理屈は分かった。

 だがそれでも、理解できないことがある。


「お前は結局、何をしたいんだ? もう暴れまわる力もないんだろ? 俺と話がしたかった、ただそれだけなのか?」

〝まぁ、話がしたかっただけってのは間違いねぇな。今の俺様にはその程度しか力が残っていない。ただ……〟

「ただ?」

〝苦戦してるようだからな、助言ができるかと思ってよぉ〟


 助言? こいつが?

 昔の悪逆非道ぶりを覚えているせいか、その胡散臭い言葉に嫌悪感しか持てなかった。


〝そう怖い顔すんなって。お前にとっても悪くねぇ話だ。助っ人を紹介してやるぜ〟


 そう言って、ベーゼは空を指さした。


「そ、空?」


 なんだ、これは?

 幽霊のようになったからなのだろうか、空が異様に見える。

 黒い煙のような物体がものすごい勢いで渦巻いている。時々放電している様子は、まるで誰かの怒りを表しているかのようだった。


「あの中に誰かがいるのか? そいつが俺を助けてくれるのか?」

〝くくく……けけけけ、お前みてぇな光の英雄にはわかんねぇだろうな。無残に死んで、そして魂だけで怒り狂っている状態がよぉ〟

「魂だけ? 死んだ? お前みたいにこの世界に来た異世界人がいるのか? 俺たちの味方なのか? それとも……」

〝安心しろや。俺様とは違って、『あいつ』は魔王に殺された。お前のことも好きじゃねぇだろうが、まあ、魔王への恨みが一番よ〟


 魔王の犠牲者?

 誰なんだ? 心当たりがありすぎてはっきりとしない。


〝奇跡の聖剣ヴンダーを使って魔王の異世界召喚を再現しろ。そうすりゃ魔族と同じように『あいつ』はよみがえり、お前に力を貸してくれる〟


 意味が分からない。

 うまくいくかもわからない。

 だけど、手詰まりだから試してみる価値はある……か?


「どうして俺にそんな話をするんだ? お前を殺したのは俺だ。俺のことを憎んでいるんじゃないのか?」

〝このまま魔王様に負けましたじゃあつまんねぇー話だろうがよ。だったらよぉ、お前に肩入れしてこの戦いを盛り上げた方がいいじゃねぇか〟

「何……」

〝俺を楽しませろや勇者様っ! 簡単に死ぬんじゃねぇ! もっと足掻いて、もっと苦しんで、死んだつもりになって戦えや! 俺はお前の必死な姿を杯に、残り短い最後の余生を費やす!〟


 考え方が……言うまでもなく邪悪だ。平時であれば聞く耳持たず切り伏せていたほどに。

 でも……と俺は思う。

 嘘をついている様子はない。奴の言葉に従えば、多少は魔王に対抗できるかもしれない。


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