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クラスの女子全員+俺だけの異世界帰還  作者: うなぎ
魔王編

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全力の千刃翼



 魔王。

 それはあらゆる魔族の頂点に立つ最強の存在。

 俺がこれまで倒してきたどんな敵よりも強い、最後にして最大の実力者。


「…………」


 俺は……とうとうこいつを相手にすることになってしまった。

 かつて優が殺したと言っていた魔王。しかしこの地に転生を果たすという奴の目的を考えるなら、あの時の死は自殺同然だったということ。

 そして今、奴が死に急ぐ理由はない。

 つまり全力を出せるということだ。


「どうした、勇者よ? 来ないのか? 怖気づいていては何も始まらないぞ?」

「…………」


 そう、だよな。

 なら……。


「――〈真解〉っ!」

 

 出し惜しみをして勝てるような敵じゃない。

 聖剣・魔剣の奥義……〈真解〉。ここで使わなければ意味がない。


 すさまじい力の奔流が、聖剣ヴァイスからあふれ出した。

 白い光が巨大な柱となり、天高く上っている。かつてこれをまともに受けたゼオンを、瀕死の状態まで追い込むことができた技だ。

  魔王は防御も回避もしようとしていなかった。俺の初手をその手で受け止める、という記念みたいな感覚だったのかもしれないが……その舐めた考えが命取りだ。

 

 しばらくすると、光が収まっていった。

 周囲に散っていた土埃が降りていき、不透明だった視界が徐々に戻ってくる。


「ふむ……」


 そこには、魔王が立っていた。

 

 ……さすがにこの攻撃で致命傷を与えられるとは思っていなかったが、あまりにも効いていない。全身が焦げることもなく大きく傷つくこともなく、五体満足といった状態だ。それでも肩のあたりに少しだけ小さな傷のようなものが見えるのは、〈真解〉の微々たる影響なのだろうか。


 あまりにも頑丈な体。 

 効いていないわけではないが、百回当てても倒せそうにない。


「〈真解〉、か」


 魔王が肩の傷をさすりながらそう言った。痛がっているようには見えない。むしろその傷を見て喜んでいるようですらある。


「刀神ゼオンが生み出した聖剣・魔剣。その力を極限まで解放し、強大な力を生み出す必殺技」

「…………」

「しかし聖剣・魔剣は元をたどればただの人間。人ひとりが生み出せる力などたかが知れている。そういう意味では……さして脅威にならないということ」


 言われなくても、分かっていた。

 所詮は魔王より格下であるゼオンが生み出した技術。親玉である魔王を倒しきるには力が足りないのだ。


「だからこそゼオンは〈千刃翼〉と呼ばれる剣の翼を身にまとい、多くの剣を同時に扱っていた。そうすれば、たとえ脆弱な人間でも何倍何十倍もの力を発揮できるからだ」


 一人よりも二人。あるいは百人千人と軍隊規模になればその力は跳ね上がる。


「ゼオンの力を受け継いだのなら、せめてゼオンと同じ力を示してもらわねばな。我を失望させるな勇者よ」

「……別にお前に認められるために戦ってるわけじゃないんだけどな」


 とはいえ、助言に関しては全くその通りか。


「匠っ!」


 後ろの雫がそう叫んだ。

 背後に控えている妻たち。戦闘要員とも呼べる雫たちは武器を構えているが、加勢してくる気配はない。

 現状、俺の〈真解〉に勝る技などないのだ。だから支援してもらっても無駄になるかもしれないし、何より彼女たちを危険にさらしてしまうかもしれない。


「少し下がっててくれ」


 これから放つ技は危険だ。 

 だから俺は彼女たちを後方へと下がらせる。


「…………」


 〈千刃翼〉……起動。

 

 千に近い聖剣・魔剣が一斉に出現し、背後の地面へと突き刺さった。

 

 俺が今放てる技の中で最強の技――〈真解〉。

 そしてここに召喚された千の剣。

 これだけ条件がそろえば、答えは自ずと見えてくる。


 千の聖剣・魔剣による〈真解〉の同時発動だ。


 現状、これ以外に魔王へ通用しそうな技はない。

 だがその負担はあまりにでかい。俺自身はもとより、聖剣・魔剣にも負担がかかってしまうこの技は、剣自身の合意なくして使えない。

 

 これが最後の戦いなんだ。

 俺が多少傷ついたとしても、倒れてしまったとしてもそれでいい。こいつさえ倒せばすべてが終わるんだ……。

 

 かつて俺は奇跡の正天使エリックという男と戦った。奴はあらゆる攻撃を跳ね返す恐ろしい実力者だった。

 あの時、奴を倒すために俺は聖剣の同時使用をした。かつてのゼオンと同じように、〈千刃翼〉をすべて操り攻撃を行ったのだ。

 しかしそれでもエリックは倒せなかった。そして魔王はエリックよりも格上だ。同じ攻撃をして倒せるとは思えない。


 ……ならば、答えは一つだ。

 あの時やらなかった、否、できなかった方法で戦うしかない。

 エリックの時は聖剣・魔剣を同時使用しただけだが、今回は〈真解〉を同時使用するんだ。


「みんな、力を貸してくれるか?」


 俺はそう聖剣たちに問いかけた。

 命を賭けるに等しいこの技に、みんなは賛同してくれるのあろうか?


〝俺たちは、魔族によって虐げられ、魔族によってこの姿に変えられました。あなたと……気持ちは同じです〟


 ゼオンによって聖剣にされた異世界人がそう答えた。


〝何もできねぇなんて悲しすぎる。こんな俺でも、あんたの力になれるなら……〟


 ゼオンによって魔剣にされた日本人がそう答えた。


〝みんな思いは一つです。さあ、最後の戦いを始めましょう〟


 そして……ヴァイス。


 みんな……。

 ありがとう……。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」


 俺は駆け出した。


「――〈真解〉っ!」


 剣から迸る、光の中で。


 嗤う魔王の顔を……見た気がした。


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