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クラスの女子全員+俺だけの異世界帰還  作者: うなぎ
帰還編

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二本目の剣


 異世界で俺が殺したはずの魔族、祭司ミゲル。

 彼と再会は、俺を大いに困惑させた。

 あの時死んだ魔族が、俺たちの世界に来ているのか?


 今だからこそわかるが、このミゲルという魔族の強さは全体でいうとちょうど真ん中あたりだ。上位の魔族には一瞬で建物を破壊したり都市一つを丸ごと更地にできるほどの実力者もいる。

 そんな奴らまで、この地に蘇って……いるのか?


 分からない。

 だが……とても放置しておいていい話じゃない。それに奴は宗教儀式で供物とか生贄とかを扱っていたはずだ。

 このままでは、儀式で子猫が殺される。


「それで、その子は生贄か何かか?」

「その通り。われらが神、魔王様は生贄を欲しています。美しき妊婦の血は極上の供物となることでしょう」

「その女の子と俺が知り合いってわけじゃないけど、意味もなく人間を殺すような行為には賛成できない」


 このミゲルという魔族は俺と面識があるが、それほどかかわりがあったわけではない。直接会ったのは俺と雫とりんごだけ。子猫のことは知らないはず。

 奴を殺したのは俺であり、恨まれている様子。俺と子猫が知り合い、なんて話をすればどんなことに利用されるか分かったものではない。

 ここは俺と子猫の関係性は伏せておこう。


「信仰とは犠牲を礎に成り立つのです。聖人が修行するように、わたくしもまた神に仕えるこの身なれば……」

「さすがに悪魔王の配下は変人が多いな。お前の同僚、俺の国で怪しげな宗教使って観光大使やってたぞ」

「おやおや、なかなかの事情通のようですね。わが主がイグナート様であると知っていたのですか?」

「俺もあれからいろいろあったからな」


 祭司ミゲルと戦ったのは、俺の長い長い異世界転移冒険の前半だ。その時点では魔族なんてよくわからない強敵ぐらいの位置づけだった。誰が幹部でどんな能力なのかなんて知らず、魔王とその配下ぐらいのイメージだったはずだ。


「いいからさっさとその子を放せ。死にたくなればな」

「……血の気が多いですね。ですが怒りに震えているのはあなたではなくこのわたくし。生前の恨み……今こそ晴らして見せましょうぞっ!」


 俺は聖剣ヴァイスを構えた。

 ミゲルはその体に翼と長い爪を出現させた。以前戦った時もこんな感じで悪魔風の容姿に変化していた。


 ――来る。


 瞬間、ミゲルの姿が消えた。

 四方から建物のきしむ音が聞こえる。このミゲルとかいう魔族が、この広い部屋の中を高速で移動しているのだ。


 超高速で広い部屋を飛び回り、不意を突いて俺に襲い掛かる。

 元の世界と同じ攻撃パターンだ。


「みんな、逃げろっ!」


 俺は周囲で怯えている信者の男女に呼びかけた。

 彼らは人間だ。戦いに巻き込まれたら死んでしまう。


「ああミゲル様、どうか勝利を」

「魔王陛下こそわれらの光。ただの人間などに敗れるはずがない」

「逃げる不信者は地獄に落ちるでしょう。私たちは信仰を捨てたりしません」


 俺の呼びかけに全く応じず、彼らは逃げ出そうとしない。

 くそっ、洗脳済みか。


 魔族とか不審者が暴れまくって人間不信。そりゃ魔王にも縋りたくなるよな。だけで自分の命だけは大切にしてほしい。


「おやおや、頭上がガラ空きですよ」

「――〈白刃〉」

 

 即座に頭上へ攻撃を放つ。


「はははは、外れです」


 だが俺の反応速度よりも奴の方が上らしい。さっきの攻撃を回避されてしまうとは。


「…………」

 

 ひゅん、と風の切る音が聞こえる。ミゲルが周囲を滑空している音だろう。壁や天井の障害物があるのに、速度を殺さずこれだけのスピードを出せるのは大したものだ。


 まずいな。目で追えなくなってきた。

 このままではやられてしまうのは俺だ。

 敵を眺めているだけでは……勝てない。

 だが、いったいどうすればいい?


 前回奴を倒すのに使ったのは――〈白炎〉という技。


 だが位置がまずい。後ろには信者、前には子猫がいるこの状況で〈白炎〉を使えば、どちらかに当たる。

 何よりこれは奴のリターンマッチ。前回殺された技に対して対策を練っていないとも限らない。安易な攻撃は控えた方がいい。

 ここは……。


解放リリース、魔剣ドルン」

「な……に……」


 ……二本目の剣。

 これは、異世界での戦いで存在しなかった展開だ。俺はあの時ヴァイス以外の剣を持っていなかったからな。


「言っただろう、ミゲル。あの時とはもう……違うんだよ」


 魔剣ドルンはいばらをつかさどる魔剣だ。


 バラのツタのような植物が部屋の中を占領した。天井も、壁際も、この部屋のいたるところにだ。

 どれだけミゲルが高速で移動できるといっても、助走なしにそれをすることは難しい。これだけ極太のツタが邪魔する環境では、空を飛んでも全く意味がない。


 俺の予想通り、ミゲルは翼をたたんで聖書台の前に降り立った。


「あなたは……その剣、どこから出したのですかな? そんな剣は持っていなかったはずですよ」

「さあな。服の中にでも隠してたんじゃないか?」


 わざわざ種明かしをする必要はない。

 あの時持っていなかった、俺の新たな力を。


「さあ、これでお得意の翼も封じられたな。おとなしくしていれば、痛みを感じる間もなく首を跳ねてやる」


 魔族にもいい人がいることは知っている。

 だけど俺はこいつを殺す。長い異世界生活の中で学んだことだが、悪人の命を助けてもろくなことが起きないのだ。

 うちの嫁は大統領で、貴族を死刑にして安定した政権を樹立した。俺も彼女に見習って敵対者を処刑するようにしよう。


「……おやおや、勝機はなさそうですね。ならば諦めることも肝心でしょうか。大変悲しいことですが……」

 

 そう言って、ミゲルは項垂れるように目線を下に落とし、聖書台にその手を置いて――

 

 何か・・を取り出した。


「……っ!」


 瞬間、轟音が周囲に鳴り響く。

 その轟音に、俺は咄嗟に後ろに下がった。 奴が何をしたか、頭で理解したわけじゃない。ただ……何かまずいことが置いているのだとう……直観だった。


「ぐ……」


 ……なんだ? 何が起きた? 

 左足に血が滲んでいる。俺は攻撃されたのか? 魔法か? いや魔法陣はなかったと思うが……。


 ミゲルに目線を移すと彼は武器をその手に持っていた。


 じ、銃?


 ミゲルは銃を持っていた。魔族が銃というそのミスマッチな光景に、俺は一瞬だけ混乱してしまうが、すぐに冷静さを取り戻す。 

 普通の拳銃より大きいな。


「いかがですか元勇者殿。これぞ我が主イグナート殿よりいただいた、サブマシンガンですよ」


 誇らしげに、ミゲルがそう言った。


「……は、反則だろ? お前の神もそれ……気に入らないんじゃないのか?」

「死ねえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ。神の生贄になるのです」

 

 ミゲルは銃を乱射し始めた。


ストックが切れました。

これからの更新は一週間に二回程度の予定です。

よろしくお願いします。

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