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クラスの女子全員+俺だけの異世界帰還  作者: うなぎ
やり直し編

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御影新のやり直し⑲


 力を取り戻し、スキルで三度目のやり直しを果たした僕。

 加藤君も下条君も、スキルを持つ僕の前では無力。僕は見事に二人を圧倒し、クラスの女子たちを手に入れた……はずだった。

 だけど……。


「……いい夢見れたかよぉ? 新ちゃん」


 その下条君らしくない台詞を聞いた瞬間、世界が爆ぜた。

 すべてが消えた。

 下条君も、妊娠していた僕の嫁たちも、そして下条君の家も、道路も、電柱もすべてが白い光に包めた。

 まばゆい光に、僕は目を閉じずにはいられなかった。

 

 そして次に目を開いたとき、そこには……。


「へへっ!」


 加藤君がいた。


「え……あ……あれ?」


 僕は混乱した。

 あ……ありえない。僕は確かにあの時、スキルの力を取り戻して加藤君を殺したはずだ。しかもそのあと時間を巻き戻して、もう一度殺しなおした。

 二度も殺したのに、どうして加藤君がここに? まさか僕は無意識のうちにもう一度時間を巻き戻してしまったのか?


「へへへ、へはははははははっ!」


 そもそもどうして加藤君は笑ってるんだ? 僕がスキルを取り戻した時、彼はにやにやしていたけど笑い声は上げていなかったはずだ。

 一体……なんで?


「あ……」


 それを見つけたのは、必然だったのかもしれない。

 目線を落とした僕が見つけたのは、道路に落ちた薬瓶だった。加藤君がよく薬を保存するのに使う容器だった。

 空になっているってことは、ここで使った? 誰に?

 決まってる、僕にだ。

 なら……この薬の効果は……きっと……。


「好き~。大好き御影君~」

「……止めてよ」

「あたしもう我慢できない~♡」 

「分かった、もう分かったから何も言わないでよっ!」


 からかうような加藤君の声に、僕は思わず耳を塞いでしまった。

 

 理解したくなかった。

 目をそらしていたかった。

 でもこの状況は、一つの事実を物語っている。


「……僕は、幻覚を見てたんだね」

「……ああ、正解だぜ新ちゃん」


 僕が加藤君からバッジを手に入れ、スキルを取り戻した後の出来事はすべて非現実の幻だったんだ。

 加藤君は始めから僕にバッジを渡すつもりはなかったんだ。頭では警戒していたはずなのに、気づかず調子に乗っていたのはこの薬の影響なのかもしれない。


 加藤君は空の薬瓶を拾い上げて、僕に見せつけた。


「うちの組織の人気商品だぜ。つらい現実を忘れて望む夢を見せてくれる。トリップ中は無防備になっちまうから、俺はあまり使わねぇがな。まっ、このご時世じゃあ需要は高いだろうよ」

「……ひどいじゃないか」

「あ……?」


 僕は……気が付けば泣いていた。

 せっかく念願を果たせたと思っていたのに、こんなみじめで情けない結果になってしまうなんて。夢なんていらなかった。むしろそのまま拒絶される方がずっと心の傷が浅くて済んだはずだ。

 それなのに……この虚しさ。

 

 僕は悲しさと悔しさでいっぱいだった。


「ひどいじゃないか加藤君! 僕は君の言葉に従って溝のミミズまで飲み込んだんだよ! それなのに君は僕を裏切ったんだ! 最悪だよ! 少しは他人を思いやる心がないのかっ!」

「黙れよ」


 泣きじゃくる僕を加藤君は蹴り飛ばした。

 もうスキルも何もないただの弱者である僕は、彼の暴力から逃れられない。


「がっ……」


 い、痛い。

 どうして僕がこんな目に……。偽りの夢を見て、その様子が加藤君を喜ばせていたはずなのに。

 これ以上の見世物があったのか? なんで僕を消える必要があるんだ?


「な……なんで、蹴るんだよ。僕は……何も……」

「夢を見てる時には、考えてることは全部声に出てるんだぜ。お前はよぉ、自分が夢の中で何をしたか覚えてんのか?」

「あ……」


 その瞬間、僕は体の震えを隠せなかった。

 そうだ。

 僕はスキルを取り戻したら、最初に何をしようと思っていた? あの幻の中で行ってしまった……最も正しかったはずの行動。

 それを思い出して、僕は自分の置かれている状況に気が付いた。


「あ……あの……ご、ごめ……」

「『さよならだ加藤君』だとおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ! くそだくそだと思ってたが、本当にここまで性格がくそだったとはな。吐き気がするほど気持ち悪い奴だなぁおい! 俺を殺せて満足だったか? なあ、何とか言ったらどうなんだ? 今どんな気持ちだ? 聞かせてくれよ! 夢の中の下条みてぇな、みじめな負け犬の気持ちってやつをよっ」

「がっ……ぐっ」


 加藤君の暴力は留まることを知らなかった。

 いくら加藤君の機嫌が良かったとしても、自分を殺そうとした人間を許すはずがない。こうなることは知っていた。だから真っ先に殺しておかなきゃならなかったのに。

 すべては……逆効果だった。


「その薬はなぁ! お前みたいな馬鹿が数年働かないと買えない高級品なんだぜ。俺はお前の勇気を評価して、こいつを恵んでやったんだ! そいつがなんだ? 感謝の気持ちで俺を殺すのか? だったら俺もお前を殺して問題ないよな? なあ、答えろやっ!」

「……許して、許してください。出来心だったんです」


 ミミズまで食べたのに……僕は。

 無力でむなしい……弱者のままだった。


「……やっぱお前見てるとイラつくわ。この世の中で少しは鍛えられてましになったかもしれねぇと思ってたが、……期待外れだったな」

「…………」

「もう死ね」

「え……」


 加藤君が僕の前の薬瓶を落とした。

 まずい、と思ったときにはすぐに手遅れだった。


「ぎ……ぎやああああああああああああああああっ!」


 全身から血が噴き出してきた。

 止まらない、止められない。

 恐ろしい薬は僕の全身に何個も傷を生み出し、血を吐き出せていく。

 痛い……。

 それに……出血で……意識が……もうろうと……。


「あばよ新ちゃん。来世では真人間に生まれ変わるんだぜ」


 だ、だれ……か、助け……て。

 し……しもじ……ょうくん…………。

 ………………。


長かった御影視点もこれで終わりです。

次からは主人公に戻ります。

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