御影新のやり直し⑱
スキルを手に入れた僕に、敵う者はいなかった。
僕は再び時〈時間操作〉を利用し、過去へとさかのぼった。
そして即座に加藤君を殺し、下条君を追い出して僕だけが異世界転移を果たす。
すべてはあの日失ったものを取り戻すため。
「やあ、下条君」
「御影君?」
夜、下条君の家の前。
異世界から帰った僕は、彼が帰るのをずっと待っていた。
「御影君……なのか?」
この世界での下条君は、以前の僕そのものだった。異世界転移に一人取り残され、女子がいない教室に不安と焦りを覚える日々。
そして、僕とは違って下条君に時を巻き戻す前の記憶はない。この世界は下条君が異世界転移を果たさなかった世界であり、当然それに関する記憶は持っていない。
つまり彼視点で言えば、僕とクラスの女子たちが突然行方不明になったってことだ。
だから彼にとって、僕は行方不明のクラスメイト。
「み、御影君! 一体どこに行ってたんだよ! み、みんな心配したんだぞ! ああ……本当に会えて良かった。先生も両親もきっと喜ぶよ」
下条匠が嬉しそうにほほ笑んだ。
「……うん、そうだね」
「と、ところでさ御影君、君と一緒にいなくなった島原さんや一紗がどこにいったか知らないか? 一緒に拉致されたのか? ここからいなくなった時の状況を詳しく教えて欲しいんだ」
彼と僕とはそれほど親しくない。喜んでいるように見えるのは僕が見つかったからではなく、一緒にいなくなった知り合いが見つかるかもしれないという希望からだ。
「ふふ、島原さん、島原さん、ね」
「……っ! 知ってるのか御影君? 頼む、どんな些細な情報でもいいから教えてくれ」
「みんな、こっちに来てよ。下条君が呼んでるよ」
「は~い♡」
そう言って道路の角から現れたのは、僕の嫁……島原乃蒼だった。
「え……島原、さん?」
下条君は困惑していた。それは行方不明の乃蒼が見つかったから、という理由だけではない。
彼女のお腹が、不自然に膨れていたからだ。
そう……乃蒼は妊娠していた。
当然親は僕だ。
スキルによって過去へと戻った僕は、乃蒼と深く愛し合うようになり、そのまま自然と子供を授かった。
「新っ! あたしのことも紹介してよ」
「ふんっ、相変わらず馬鹿丸出しの顔だな。新の方が100倍かっこいい」
「りんごもあっくんのこと大好きだよ」
長部一紗、羽鳥雫、森村りんご。みんなの乃蒼と同じように妊娠している。
それだけじゃない。
大丸鈴菜、赤岩つぐみ、柏木璃々、草壁小鳥。他にもいなくなったクラスの女子全員が、僕の子供を妊娠している。
下条匠の家の前に、僕の嫁であるクラスの女子たち全員が並んだ。
「え……嘘、だろ? みんな……一紗も、雫も……なんで……」
悪趣味だなんて言わないでほしいな。君が前の世界でやったことそのままなんだから。自分の鏡を見て言ってほしいよ。
最も、今の君にはそんなことあった記憶すらないんだろうけど。
「御影くぅう~ん。好き♡ 大好き~♡」
「ははっ、やめようよ乃蒼。下条君が見てるじゃないか」
「あたし、もう我慢できない。新、ここで……しよ♡」
「か、一紗、こんなところでパンツずらすなよ」
乃蒼が後ろから僕に抱き着き、一紗は僕の脚に縋り付いた。
後ろからりんごと雫たちも息を荒くしながら迫ってくる。
やれやれ。
魔族や貴族さんからもらったアイテムや薬のせいで、彼女たちは僕無しでは生きていけない体になってしまった。
洗脳状態で理性が吹っ飛んでしまっている。このせいで異世界では白い目で見られたものだ……。
ビッチはあまり好きじゃないんだけどね。僕だけが相手というなら許してあげるよ。
「や、やめろよ! こ、こんなこと……あるはずがない。これは夢だ、島原さんや……一紗が……そんな……」
下条匠はショックのあまり涙を浮かべていた。
でも悪夢はまだ終わりじゃないんだ。
すべてを君に奪われた僕の復讐は、こんな程度で終わったりはしない。
――〈時間操作〉。
「あ……」
「ひぎいいいいいいいいっ!」
「生まれるううううう、生まれるううううう」
突然、クラスの女子たちが叫び始めた。
「え、え……?」
訳が分からない、といった様子で下条匠が周囲を見渡す。
「運がいいね下条君。これからみんなの出産が始まるよ」
僕のスキルで彼女たちの時間を早めれば、ここで出産を迎えさせることなんてわけない。
「あ……う……なんだよ。これ……なん……」
「あははははははっ! どうかな下条君? 君、この子たちのことが好きだったんでしょ? みんなこれから僕の子供を産むんだよ? あまりにもかわいそうだから、男の子だったら君の名前付けてあげようか?」
「…………」
「ははははははっ! ねえ、何とか言ったらどうなの? 今どんな気持ち? 聞かせて欲しいな! みじめな負け犬の気持ちってやつをさっ!」
「…………」
顔を真っ青にした下条匠は、力なくその場に座り込んだ。
数秒、彼は茫然としていた。その間にクラスの女子たちは盛大にいきみ始めている。
そして……。
「ふふ……ふふふ」
下条匠が笑い始めた。
ふふ……さすがの下条匠も、この状況には心が耐えられなくなったらしい。無理もない。元の世界で全員ハーレムだったってことは、昔からそれなりに好意を持っていたってことだ。
それがこの瞬間全員NTR。下手をしたら自殺してしまうかもしれないね。
「ひひ……ひゃはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははっ」
……なんだ、これ。
この下品な笑い声……。下条匠らしくない。
それほどまでに気が狂ってしまったというならそれはそれで嬉しいことだけど、何か、僕の心が警鐘を発している。
僕はこの声を……どこかで聞いたことがあるような……。
「し……下条匠?」
勝者であるはずの僕が、こんな情けない声を上げてしまうなんて……。
僕の声を聞いた下条匠は、突然笑うのをやめた。そして、同じ姿勢のままゆっくりと首だけを曲げて……顔をこちらに向けてくる。
そして彼は、こう言ったのだった。
「……いい夢見れたかよぉ? 新ちゃん」




