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クラスの女子全員+俺だけの異世界帰還  作者: うなぎ
やり直し編

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御影新のやり直し⑯



 下条匠と別れた僕は、一人暮らしをすることになった。

 また疑われたら困るから、今度は少し離れたホテルに一人暮らしだ。もう下条君に会うことはないと思う。

 会うのは危険だ。 



 これから……どうしようかな?


 確かに、予定通りなら加藤君からバッジを奪って力を取り戻すということになると思う。

 でも、本当にそれでいいのかな?

 

 言うまでもないことだけど、僕と加藤君はそれほど仲良くない。元の世界では力が認められてそれなりに悪くない関係だったけど、今、僕はただの雑魚だ。異世界に行く前、弱くそしてみじめにいじめられていた時そのもの。

 はっきり言って殺されてしまう危険もある。それは、この間の下条匠とのやり取りみたいに、悪事がばれたらとかそういうのじゃない。少し機嫌が悪かっただけでも、加藤君は僕に手をかけてしまうと思う。それだけの力を持っているんだ。


 頼みごとをするには、あまりにもリスクが高すぎる。


 そもそも僕はこの世界に戻ってから不幸続きだ。まるで運命が僕を陥れようとしているかのように。

 因果応報、なんて言葉は信じちゃいないけど、こうまで不幸続きだと不安な未来を想像してしまう。


 かつて下条匠と戦った日。前の世界で僕が時間を巻き戻した時期は……ちょうど今頃だったんじゃないだろうか?

 正確な日付は覚えてないけど、確か……この辺りだったはずだ。今頃下条君は子供たちをさらわれて大騒ぎしているかもしれない。


 運命が僕を殺すとすればこれほどおあつらえ向きの日はない。


 僕はとうとう決断した。


 逃げよう。

 ここにとどまっていたらまずい気がする。車を使って、関西に逃げるんだ。

 逃げた先でどうすればいいかは分からない。けど、他にも多くの人たちが同じように逃げてきているはずだ。その中に紛れ込むことはそう難しい話じゃない。


 僕はまだ……死にたくない。

 


 決断をしてからの行動は早かった。


 僕は早々にホテルを抜け出した。

 車を使う、ということは鍵が必要だ。鍵を車の中に置いている人はいないと思うから、まずは民家の中を探して……。

 そう思いながら歩いていた、その時……。


「あれぇ、新ちゃん。新ちゃんじゃねーか」

「なっ……」


 僕は声をかけられた。

  

 この……声。そして刈り上げた金髪勝ち特徴的なその男の名は。


 加藤達也。


 こんなところで出会うつもりはなかった。もうあきらめて、この地から逃げ出すつもりだった。

 でも、僕たちは会ってしまった。


「な、なんで……ここに?」


 ……しまった。

 僕は加藤君と行動を共にしていたけど、リンカちゃんを攫ってからは離れ離れになって行動していた。ここは加藤君が潜伏する予定の場所も、下条君がいる場所からも離れている。だから大丈夫だと思っていたんだけど……。


 まさか、加藤君がここに訪れるなんて。

 二十四時間お互いの場所を把握していたわけじゃないからね……。不幸な偶然が重なってしまったようだ。


「へへ、なんだよ逃げ遅れたのか? あいかわらずどんくさい奴だなおい」

「……うん、僕はどんくさいからね」


 どうやら加藤君は今機嫌がいいらしい。僕に危害を加える様子はなかった。

 適当に話を合わせて逃げ出そう。どうせ加藤君はあとで下条君に倒されるんだ。放っておけばいい。

 

「あ、あの……僕、これから用事が」

「いいぜいいぜ。一大決戦前で、俺は今最高に気分がいい。お前みてぇな無能雑魚を相手にしてる暇なんてねぇよ。家でしょんべん漏らしながら震えてろ」


 僕が……無能?

 雑魚?


 久しく忘れていたプライドが、脈打っていくのを感じた。

 僕は……無能か?

 いいや、そうじゃない。

 スキルさえあれば最強なんだ。


 他の誰かに馬鹿にされたならいい。でも、こいつだけは。僕を不幸のどん底に陥れたこいつからだけは……馬鹿にされることが許せない。


 ここで出会ったのも何かの縁。

 なら、最初の予定通り悲願を達成する方向で動いてみてもいいんじゃないのかな? 

 機嫌の良い今の彼なら……あるいは。


「お、……お願いだ!」


 僕は加藤君に頭を下げた。


「ん? おいおいどうした新ちゃん」

「君の言う通り、僕はみじめで愚かな存在だった。君からも、下条君から普通の人たちからも馬鹿にされて……悔しかった。情けなかった」

「…………」

「でもスキルさえあれば、僕の〈捜索術〉があればみんなを見返すことができる。加藤君の役にだって立てるはずだ! 僕は異世界に行ったことがあるからスキルの存在を知ってるんだ」

「……お前」

「頼む、一瞬だけでいい。加藤君、僕に力を授けて欲しい。尋ね人や探し物、なんでも見つけることができる僕のスキルだ! 君のために使うよ!」

「…………」


 僕は……震えていた。

 こんなことを言って機嫌を悪くしたりしないだろうか? 殴られたり、蹴られたりしないだろうかと怯えていたのだ。


「はっ、そうだよな」


 帰ってきた返事は、さほど怒っているように聞こえなかった。

 どうやら、第一関門は突破したらしい。


「弱ぇってのはみじめなことだよな。俺だってスキルが使えなきゃただの馬鹿だ。魔族が暴れるこの周辺じゃ、新ちゃんとそうかわらねぇ」

「そうだよね、だから……」

「だがよぉ新ちゃん。この俺様に無償の寄付を依頼するってのは……ちぃとばかし無謀すぎやしねぇか? そのぐれーのことは分かってんよな?」

「な……なんでもするよ。僕だって、覚悟してこの話をしてるんだから」

「よく言ったっ!」

 

 加藤君はそう言って僕から少し離れた。地面を見ながら歩き回って……何かを探している?

 やがて加藤君は近くの排水溝に目を付けた。金網を足で蹴り上げて、近くにあった空の使い捨てコップを使って底の泥をすくい上げた。

 

 そこには、小さなミミズが数匹うねうねと動いている。

 気持ち悪い。


「食え」

「え……」


 今、なんて言った?


「こいつを食って度胸を見せてみろ。男になれよ新ちゃん。俺はてめぇが心から成長した姿が見てぇんだ。へへへっ」


 こ……これ……を、食べる?


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