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すべての元凶はあなた  作者: カーネーション


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第5話『誰かの隣で』

 瞼の裏でぼんやりと映像が映し出される。幼いわたしが誰かの隣を歩いている。


 好奇心旺盛で辺りを見回しながら、時折、隣の人の顔を見上げては笑っている。だけど、肝心の誰かの顔はぼんやりしていた。わたしが無防備な笑顔を向けているから、かなり心を許している人だろうとは思うけれど。


 遊園地の中をしばらく歩くと、お化け屋敷の前に差し掛かった。入り口には作り物の生首が置かれていて、わたしは歩みを止めた。


 唇を歪めて、眉の上にシワまで作っている。自分のことだから感情がすぐに読める。ただ単純に作り物の生首が怖いのだ。昔は、お化けとか暗い場所とかが大の苦手だった。怖すぎて一歩も動けなくなるほどだった。おんぶをされたこともあったはず。


 今回も恐怖で一歩も動けずにいたら、「絵茉」と優しい声が降ってきた。同時に暖かい手がわたしの手をすくい取り、包みこんでくれる。


 わたしは鼻水をすすりながら誰かを見上げる。誰かの顔がはっきりした。おかあさんは先を促すように、わたしの手を引いてくれる。


 手から伝わる安心感で恐怖が消えていく。おかげでわたしは足を一歩踏み出せた。ちゃんとお化け屋敷の前を通ることができたのだ。


 「がんばったね」とおかあさんの優しい声が届く。「うん!」とわたしが返事をしたところで、白いもやがかかる。やがて、ふたりの姿は消えていった。


 瞼を開けると、一変して、薄暗い天井に見下ろされていた。


 上体を起こして、自分の匂いがしない枕から頭を上げる。体にかけられた分厚い布団をはぐ。着心地の慣れない服を撫でると、少しずつ記憶が戻ってきた。


 そうだ。わたしは異世界に来てしまった。頼りになるはずの記憶もなくなって。ウィルから仮の救い主になれとも言われた。ローラントの前で泣きまくったことも覚えている。それから、自分の体が熱くなって光に包まれた。眩しくて目を閉じてからの記憶がない。


 まだ涙の跡がついている気がして、目元を指で拭う。格好悪いところをローラントに見せてしまった。はじめて会った人に涙を見せるなんて情けない。嫌な場面を忘れてしまえばいいのに、忘れるのは大事な記憶ばかりだ。


 暗くなってきた思考を払いたくて、顔を上げた。周りを見渡してみても、ローラントや他の誰かはいない。これからどうすればいいのだろう。さすがにもう一度眠る気にはなれないし。


 暗闇に慣れてきた目に部屋の扉が浮かんできた。扉の先に行ってみようか。誰かいるかもしれない。できれば、ウィルではない人が嬉しいけれど、そこまでは期待しない。


 後ろに手を突き、両足を下ろそうとベッドの端に腰をかけた。ちょうど、ベッドと壁の隙間に、小さな後頭部と華奢な背中が見えた。見渡したときには誰もいなかったのに、確かに姿がある。


 薄暗い部屋のなかに膝を抱えた子供がいるなんてあり得ない。幼いわたしなら泣き出しただろうけれど、今のわたしも怖いものは怖い。泣きはしないが、心臓がうるさい。


 ゆっくりとこちらを振り向くのも、人の不安を煽る。


「やめて……」


 振り向かないで。ホラー映画の主人公もこんなに心臓が騒いだのだろうか。助けてと何度も神にすがっただろうか。


 願いは届かず、子供は振り向いた。

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