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すべての元凶はあなた  作者: カーネーション


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第46話『悪い人』

 その日、大して特別な日ではなかった。ミアさんお手製の朝食後の紅茶で一息吐くような、ただただ変わりばえのしない食後の時間だった。


 だけれど、ウィルのひとことで、寝起きの気だるさの残りがいっぺんに消えた。


「明日、儀式をする」


 儀式って何だろうと、いったん考えた。ウィルの顔をたっぷり眺めて、目の前に鏡を浮かべた。そうだった。わたしはウィルのお母さんの魂を静める約束をしたのだ。


「大丈夫か?」


 簡単には大丈夫と応えられないけれど、約束したことぐらいは守りたいと思う。自信がないことよりも、あのウィルがわたしを少しでも頼ってくれることが嬉しかったし、やるって決めた。本当にわたしの力が役に立てるかは自信がなかった。けれど、うんとうなずくと、ウィルもうなずいてくれたから、わたしの気持ちは少なくとも伝わったはずだ。


 ローラントがウィルと話している隙に神殿の端まで歩いてきた。何だか、儀式の準備で慌ただしくなってきたみたいで、居心地が悪い。


 神殿の柱にもたれかかる。人のあたたかみは感じない。背中で触れて伝わったはずの熱は、離れたら、すぐに消えていく。


「救い主も大変だな」


「フィデールさん」


 足音とか聞こえなかったような気がするけれど、突然姿を現した呑気な顔にイラっとした。


「ウィルの母ちゃんの魂を静めるんだって?」


 まあ、そうなんだけれど。


「ようやく、あいつも肩の荷が下りるってことか」


 フィデールさんのずっしりと重い手が肩にかかった。


「ここにウィルのやつが戻って来るって聞いたときは、心配したもんだ。だが、本人は思いの外、平気な顔してんだよ。心配した俺がバカみたいじゃねえか」


 ウィルなら「バカか」と普通に言いそう。でも、意外だったのは、案外、フィデールさんって、人を見ているんだなあと初めて感心した。悪い人ではないのかも。ウィルと一緒で誤解を受けやすいとか。


 そう思った矢先、まじまじと見つめられた。


「しっかし、あんたが救い主って、無理があるだろ。よく信者どもを騙せたよな」


 酒臭い息で言ってきて、ついさっき見直したことを後悔した。もう絶対にこの親父を信用したりしない。


「まあ、とにかく儀式を頼む、救い主様」


 バカにした言い方。でも、悪い人ではないか。フィデールさんがいなくなってすぐに、「探しましたよ」とローラントに見つかってしまった。

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