表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
すべての元凶はあなた  作者: カーネーション


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/61

第31話『久しぶり』

 お見舞いを済ませた後、力尽きたわたしは寝室のベッドに倒れこんだ。朝、ベッドの上で目覚めてから、長い1日だった。いい1日になりそうだなんて思っていたのに、ふたを開けてみれば嫌な1日に変わってしまった。


 色んなできごとが起きて、いちいち整理する暇すらなかった。ようやくローラントのこと、ミアさんのことを考えることができる。


 ローラントは落ちこんでいた。笑顔を浮かべていても目は悲しそうだった。


 わたしが連れていかれそうになったことを、自分のせいだと思っているのだろう。だから、「強くなければ」と呟いたのだと思う。


 わたしとすれば、今のままでも十分だった。これまで安心して眠れたのもローラントのおかげだし、何度もあの笑顔に救われていた。そう言ってあげられれば良かったのだけれど、わたしは愛想笑いをするしかなかった。


 それと、ミアさんがドラゴンだったのには驚いた。だけど、姿形が変わっているだけで、中身はミアさんのままだった。


 つり上がったドラゴンの目を見つめていると、不思議と包まれている気分になった。まあまあ柔らかい腹部に体を預けていると、安心感があった。


 今まで通りに接したい。たまには、背中に乗せてもらえたら嬉しい。そんなことを思ったら、迷惑だろうか。


 体も頭も疲れた。このまま寝てしまおう。寝てしまえば、嫌なことも薄まるだろうから。布団をマントのようにしてうつ伏せになる。


 ろうそくの明かりを消したとき、背中が重くなった。誰かにのしかかられている? 誰かって誰? 明かりを消す前、わたししかいなかったはずだ。この重みの正体は……。


「久しぶりだね」


「せ、聖霊くん」


 正体がわかればなんてことはなかった。重みが移動したところで、ろうそくの明かりを取り戻そうとしたけれど、マッチが見つからない。


「明かりはいらないよ。僕には姿形なんてないようなものだし。だから、このままで構わないよ」


「そ、そう」


「うん」


 自分が発した言葉が返ってくるのは久しぶりだ。とりあえず何となく正座して、声と向かい合う。かなり勘だけれど、聖霊くんはこちらを見ている気がした。


「今日はどうしたの?」


「何か思い出したよね?」


 聖霊くんには何もかもお見通しだった。隠す必要もない。


「お兄ちゃんのことを思い出したよ」


「へえ、きみにお兄ちゃんがいたんだ」


「うん。お兄ちゃんがいた。お父さんとお母さんが働いていたから、お兄ちゃんが保護者みたいな感じだったみたい。本当に心配かけた。今も元の世界でわたしのことを待っているのかもしれない」


 そう思ったら、元の世界に帰りたい気持ちが出てきた。


「帰りたい?」


「そりゃあ、帰りたいよ」


 会いたい人もできたし。


「帰る場所、あるの?」


「わからない」


「待っている人はいるの?」


 いるとは思う。お父さんとお母さんもお兄ちゃんもわたしを待っていてくれる。だから「帰りたい」。


「大丈夫。きみがすべての記憶を取り戻したとき、元の世界に帰れる」


「そうなの?」


「うん。だから、それまではちゃんと睡眠とって、ご飯食べて、元気でいるんだよ」


「聖霊くんってお母さんみたい」


 聖霊くんが押し黙る。少しの間黙った後、「よく言われる」と笑い混じりの声が返ってきた。


 まるで、聖霊くんが人間のように見えて変だった。どういう意味なのかとたずねようとしたら、聖霊くんの気配は消えた。本当に気まぐれに現れていなくなる。聖霊くんのおかげだかはわからないけれど、その夜の寝つきは良かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ