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すべての元凶はあなた  作者: カーネーション


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第16話『心の痛み』

 わたしが何も言えないでいると、ウィルはそれを肯定と受け取ったらしく、少しだけ口角を上げた。


 ――なぜ、笑えるのだろう? わたしが呪おうとしていたことも、ウィルにしてみれば愉快なうちに入るのだろうか。この人の気持ちがよくわからない。


 考えている間に笑顔は消えて、すぐに真顔に戻る。何だかいつもより重苦しい空気を抱いているというか。こちらまで緊張してしまう。ウィルは「とうとう、戦がはじまる」と告げてきた。


「戦?」


「戦がはじまれば、多くの人の命が失われる。その魂を静めることも救い主の使命だ」


 ウィルの声が重々しく聞こえる。魂を静めるなんて、やったことも、考えたこともなかった。


「お前には鎮魂の儀において舞いを踊ってもらう」


「舞い?」


 鎮魂の儀もよくわからないけれど、舞いってダンス?


「少しは動けるといいのだが……お前には期待できそうにないな」


 ウィルはわたしの足元に視線を落として、わざとらしく息を吐く。


 わたしとしても否定できなかった。過去の記憶はないものの、数日過ごしただけでも、自分の運動神経のなさは自覚している。


 スカートの下に隠された膝の青あざは、触るだけでも痛みを思い起こす。わたしのかつての記憶も、そういう痛みの記憶ばかりだったりするのかもしれない。


 考えてもダメだ。自分でも自分自身に期待できそうにない。うつむき加減でいたら、


「まあ、いい。儀式までには踊れるようになればいいだろう」


 ウィルが前向きな発言をしている。


「今日からみっちり稽古をつけてやる」


 ただでさえ、忙しい1日を過ごしているのに加えて、ウィルとの稽古だなんて、嫌で仕方ない。逃げ出したい。


「ローラント。こいつが逃げ出さないよう見張っておけ」


 本当にわたしの気持ちがよくわかる人だ。これは皮肉だけれど。腹が立ったあまり、「かしこまりました」なんて言うローラントをにらんでしまったのは申し訳なかった。


 遅めの朝食の後は、またしても、ウィルの顔を拝まなければならない。昼間は神殿内の部屋で信者さんたちの話を聞く。話の多くは怪我や病に悩まされていて、それを救い主にどうにかしてほしいというものだ。


 でも、考えてみると、実際、救い主には病や怪我を治す力はない。医者でもないのに直接的にどうこうできるはずもないのだ。


 だけど、わたしが話を聞くだけでも、信者さんの顔は生気で満たされていく。そんな彼らの姿を見ていると、わたしも間違ったことはしたくない。ちゃんと意味のある言葉で応えたいと思う。


 わたしの話をウィルが口からでまかせに通訳してくれる。そんなでまかせでも、信者さんは頬に涙を流してくれる。汚い涙なんてひとつもなかった。


 でも、わたしは仮だ。いつかはこの世界からいなくなる。これだけありがたがられても、偽者の救い主だ。彼らの涙を見ると、自分の胸が痛んで仕方ない。

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