王宮
「よくぞ来てくれた!感謝する。」
ロジオンは俺が謁見の間に入るなり頭を下げてくる。
「こんな悪党に頭を下げるな。」
肩を竦めて言うと、傍らにいた騎士団長、臣下が怪訝な顔をしてくる。
「良い、この者は私と同じ身分と思ってくれ。」
「そりゃ有難い。俺も今更アンタに頭を下げるほど人間が出来ちゃ居ないからな。」
ロジオンは一瞬悲しげな顔になると直ぐに顔を戻した。
「それで今回呼んだのはだなーー」
「迷宮だろ?聞いてる。」
「そうだ。どうか討伐してくれないだろうか?」
「嫌だとは言えないだろうよ。」
ノワールはロジオンに対して強く出れない事情があった。
「すまない。貴方にしか頼めないのだ。」
「それも分かってる。」
俺は踵を返す。
ロジオンは俺が謁見の間から出ていく間、ずっと悲しそうな顔をしていた。
ノワールは嘗て王国の騎士、冒険者を兼業していた。
戦争があれば出陣し、迷宮があればザールとテレーゼと一緒に探索した。
昔、ロジオンが欲を出した為に大きな戦争に発展した事があった。
戦力も倍近くの差があった。
その時の騎士団長が俺だった。
俺は騎士に言った。
「この騎士団は全滅するだろう。勅命でも無い。ただ、僕が命じる。戦場で死んで来い。その命を散らして来い。王国の未来の為に。」
そう言って騎士を数え切れないほど殺した。
敵も何人殺したか覚えていない。
覚えているのは生暖かい血と臓腑。阿鼻叫喚の断末魔。それだけだった。
部隊は無事、ノワールを残して全滅した。
敵勢力は撤退し、戦場に残ったのは僕ただ1人。
味方の遺体を見てもただのタンパク質の塊にしか見えなかった。
その時を境に冒険者も騎士も辞め、ひっそりと孤児院を経営する事にしたのだ。
孤児院の経営費を出していたのもロジオンだ。
戦うこと自体が恐ろしい訳でも無い。
ただ戦うことに疲れただけだった。
その日からノワールは英雄としてもてはやされた。
孤児院の子供達には平穏に生きていて欲しかったのだ。
俺の様な悪党を生み出さない様に。