勅命
ブルト王国の王であるロジオン=ブルトは頭を抱えていた。
悩みが尽きない役職ではあるのだが今回は少し事情が違ったのだ。
ブルト王国は王を中心として成り立っている。
だが政治に関しては王が仕切っていたとしても王国に蔓延る魔物や盗賊、逆賊などに割いている時間はロジオンには無かった。
故に荒事専門として魔物は冒険者ギルドを、盗賊、逆賊は王直属の暗部が請け負っていた。
だが、迷宮が出現したと言うのは話が別だった。
王国内にも一つだけ迷宮が存在するが、ある人によって管理されている。
しかし、管理されていない迷宮は魔物が蔓延り、いつ魔物が迷宮から溢れ出して王国を蹂躙するかわかったものでは無い。
普通、迷宮が出現した場合冒険者ギルドが対処をする、しかし運が悪いのか、高ランクの冒険者が軒並み依頼を受け遠くへ行ってしまっていた。
残ったのは低ランクか素行に問題のある冒険者、後は事情があって動けない冒険者しかいなかった。
騎士を動かそうにもあくまで騎士は対人に特化し、魔物と戦ったことのある者は殆どいない。
そうしてロジオンは頭を抱えたのだった。
「しょうが無い…か。……おい、騎士団長を呼べ。」
「はっ!」
近くにいた臣下に命令を下し、臣下は謁見の間から出ていった。
「お呼びでしょうか。ロジオン様。」
「お主は冒険者ギルドに行ってある者を呼んできて貰いたいのだ。」
「ある者…誰でしょうか?」
ロジオンは苦々しい顔をする。
「英雄じゃ。」
ノワールは孤児院でいつも通り仕事をしていた。
「そう言えば院長先生ってこの孤児院に来る前は何していたの?」
ロレスが疑問に思ったようで聞いてくる。
「あぁ、それはねーー」
俺が話そうとした瞬間、孤児院のドアが行き良いよく開けられた。
驚いてドアの方を見るとザールとテレーゼがいた。
「どうした??」
「早くここから離れろ。ギルドが来る。」
「……そうか。」
俺は少しだけ悩むと院長室に向かう。
院長室から出てきたノワールは少し可笑しい杖を持っていた。
「逃げろと言っただろう!!」
「……それは俺に対して言ってるのか?笑わせるなよ。」
「………」
俺は嘲た。
ザールは俯く。
「どうしたの院長先生?」
ロレスが少し不安そうな表情で聞く。
「いや、少し騒がしくなるけど大丈夫だ。奥に行ってなさい。」
俺は優しく諭すとロレスの頭を撫でてやる。
「うん、わかった。皆、着いてきて。」
ロレスは奥の部屋に子供達を連れていく。
「で?ギルドがなんのようなんだろな?」
「迷宮が発見されたみたいだ。それでーー」
「それで依頼しに来たのか?この大悪党に?」
「……」
俺はザールの言葉を遮る。
ザールとテレーゼはこれでも昔パーティーを組み、苦楽を共にしてきた仲間だ。
だからこそノワールが何故こんな事になったのかザールもテレーゼも理解出来ずにいた。
「そろそろ潮時か…」
悲しそうにノワールは呟く、するとドアが開けられギルドの職員と思われる人が入って来た。
「私は冒険者ギルド職員のビルだ。お前がノワールか?」
「ああ、そうだが?」
「着いてきてもらおうか、勅命だ。」
「王様に逆らうとコワイからね。大人しく着いていくよ。」
「ノワール!」
「まぁまぁ、落ち着けってザール。何も処刑されるわけでも無いんだし。」
「いや、しかし!」
「大丈夫だろ。」
ザール達は一瞬、黒いマントの男の言葉が脳裏を過ぎった。
その時にはもう遅かった。
俺は笑い飛ばすと職員に着いて行った。
少し歩き、振り返る。
「ああ、そうだ。ザール、テレーゼ。子供達をヨロシクな。」
「………ああ、わかった。」
「じゃあ処刑台(謁見の間)に行こうか。何年振りかな。」
俺が歩く様はどの様だろうか?
それを子供達が見ていない事を祈った。