男性
「だからお前と稽古なんてさせたくなかったんだー!!」
ノワールはテレーゼに向かって叫んでいた。
「え?あれだけで気絶する方が悪くない??」
テレーゼはポカーンとして反論する。
そもそもテレーゼが弓を使った時点でロクな事にならないのは目に見えていたが…
「だってスキルは使ってないでしょ?私、悪くなくない?」
「確かにスキルは使ってないけどな…」
俺は呆れて目を伏せる。
「確かになぁ、アレはやりすぎだ。」
ザールも俺に同意のようだ。
「えぇー、ただ単に弓を少し工夫して射っただけなのに…」
テレーゼは落ち込んでしまっていた。
「まぁ、いい。ロレスの為にもなっただろうからな。」
「それならよかった。じゃあ今日は帰るわ。」
「じゃあねー…」
ザールとテレーゼが帰っていく。
少し経つとロレスが目を覚ました。
「いっ…私は負けましたか……」
目を覚ますなり悔やんでいた。
「ま、アイツらはしょうがない。」
「あの人達は院長先生の友人ですよね?」
「あぁ、そうだな。」
納得したように頷くと立ち上がる。
「じゃあ夕食を作っておきますね。」
「おう。悪いな。」
俺はそう言って星を眺めていた。
「いやー、あのロレスちゃんがあんなに強くなるとはな。」
「それは激しく同意するわ。」
ザールとテレーゼは借りている宿屋に向かって歩いていた。
元々孤児院の周りは暗い場所が多い。
夜になると余計に暗くなり、人も寄り付かない。
「で?アンタはいつまで着いてくるんだ?」
ザールは振り返ると1点に視線を注ぐ。
そこには何も無いように見えるがザールが話しかけた途端空間が歪み、黒いマントを着た男性が出てきた。
「あれ?俺のスキルがバレるとは…」
はてな?と首を傾げる男性。
「強盗なら容赦しないぞ?」
ザールとテレーゼが睨みをきかせると男性はとんでもない!と言うふうに首を振る。
「いやいや、俺の興味があるのは他でね…」
男性はニッコリと笑うと2人に提案してくる。
「私が興味があるのは孤児院の院長何だが…協力してくれないかな?」
「孤児院なんて何処にでもあるだろ。どの院長かによってはタダじゃ置かないぞ?」
男性の顔は見えないがどうやら少し怖気付いた様子だ。
「いや、俺が提案する事は貴方達にとっても利益がある事だと思うんだが…」
「……一応聞いておこうか。」
男性はまたニッコリと笑った様に感じた。
「いや、ノワールさんを不幸にさせたく無いでしょう?」
「……何が言いたい……?」
「いや、端的に言えば、『ノワールさんの行動』を邪魔しないで欲しいだけだ。」
テレーゼが少し笑う。
「そんな提案は許可出来ないわ。もしノワールの身が危ないと思ったら手を貸すしね。」
「そうか。なら、この提案は聞かなかったことにしてくれると有難い。」
黒いマントの男は笑うように言う。
「じゃあ、また会えるかもしれない何時かその時まで…」
それだけ言い残すと男性は闇に消えていった。
「『ノワールの邪魔』…ね。」
ザールとテレーゼは少し訝しげな表情で宿に戻った。