大人達
ノワールは孤児院の子供達をロレスと一緒に遊んでいた。
日が沈み初め、人々の活気が無くなってくる頃に来客があった。
まぁ、孤児院の近くは元々人が寄り付かないのだが…
「よう、ノワール。元気だったか?」
「ノワールが元気じゃない時なんて無いでしょ。」
俺に声をかけて来たのはかつて一緒のパーティーにいたメンバーだった。
「あぁ、ザールとテレーゼか。どうしたんだ?こんな時間に。」
ザールは所謂金髪碧眼の男性だ。パーティーでは前衛として活躍していた。
テレーゼは俺と同じの黒髪。目は赤いのが特徴の女性だ。パーティーでは弓、斥候として活躍していた。
女性らしくは無いが…それを言うと無駄に上手い弓で尻を射抜かれるから言わないが…
「子供達に久しぶりに稽古をつけてやろうと思ってな。少し立ち寄ったんだ。」
ザールは人当たりのいい笑みで笑いかけてくる。
「そんな事行って他に何かあるんだろ?」
「いやいや、俺をなんだと思ってるんだ。」
心外だ!と言うふうに言ってくる。
「はぁ、まぁいいよ。稽古するならちゃんと教えてやってくれ。」
この孤児院は俺の方針で将来役に立つことを前提として教えている。
しかし、俺自身が剣については得意ではない為こうやってザールが時折来てくれるのだが…
「よし、じゃあロレスちゃん。稽古しようか。」
「はい、お願いします。」
ザールとロレスが広場に向かっていった。
「で、テレーゼは何しに来たんだ?」
「私?私は…何しに来たんだろ?」
「お前は相変わらず…」
俺は呆れて肩を落とした。
広場の方を見るとロレスとザールが対峙していた。
ザールもロレスもスキルは戦闘に特化している。
しかし、俺の方針でスキルを使わない戦闘を心がけさせていた。
理由は色々あるが…スキルに頼るなど愚の骨頂としか思えないからな。
あくまで俺の持論でしか無いが。
「ではよろしくお願いします。」
「おう、何時でも来い。」
両者が言うとロレスが木刀を抜いて切りかかる。
大怪我をしたら俺でも直せないから木刀を使ってもらっているのだが…
まぁ、ザールは平気かな。
と楽観的に俺は見ていた。
ロレスは1歩踏み出して袈裟斬りに木刀を振るうが大振りのロレスの木刀などザールにかすりもせずに避けられた。
ロレスは返す刀で振り上げるがザールは木刀を上から抑えていて振り上げられない。
一瞬止まったロレスの木刀を剣で絡めとって上に打ち上げた。
木刀から手を離してしまったロレスは直ぐに木刀を拾おうとするが肩に剣が置かれて決着が着いた。
「流石ザールだな。大人気ねーな。」
俺が茶化すとバツの悪そうな顔をしてザールは頭を搔いた。
「しょーがねぇだろ。思ったよりもロレスちゃんが強かったんだ。」
「そりゃ、俺が鍛えているんだからな。当たり前だ。」
ザールと俺は笑いあった。
それを少し離れた所で見ていたテレーゼはロレスに近づいた。
「ねぇねぇ、私とも勝負してくれない?」
「え、いいですけど…」
ロレスは木刀を構え、テレーゼは弓を構えた。
「ま、まてテレーゼ!弓を使うのか!?」
「当たり前でしょう?短剣じゃ私に分が悪いじゃない。」
さも当然のように弓を構えるテレーゼに俺は待ったをかけたが聞き入れてくれなかった。
「ロレス…頑張れよ…」
俺は憐れみの目でロレスを見るが当の本人は分かってないようで
「え?頑張りますけど…」
困惑した表情で俺を見つめるだけだった。
改めてロレスは木刀を構え直すともう既にテレーゼは弓に矢をつがえていた。
「じゃあ、始めるわ。」
テレーゼが矢を放つと同時にロレスの意識は暗闇に落ちたのだった。