孤児院の事情
俺は子供達に紙芝居を読んでいた。
読んでいるのはありふれた英雄譚である。
国から命じられた男が戦場で活躍する物語。
その男は物語の最後、国の脅威となりうる為牢獄に閉じ込められ最後は処刑台に登るのだが、登った所で物語は終わる。
子供達、特に男の子はこの話が大好きらしい。
いつの時代も男の子の戦い好きは変わらないなと俺は少し微笑んだ。
「あー、いんちょーせんせーがわらってるー。」
元気な男の子の声が聞こえる。
「うん、少し面白くってね。」
俺は微笑んで男の子の頭を優しく撫でた。
ここは孤児院。
王都の南西にある城壁の近くの寂れた孤児院だ。
王都は中心に王家が住む城があり、その周りは貴族や、豪商が屋敷を構えている。
権力を笠に着た豚……ヒトが多く住んでいる。
つまり、城から離れるほど貧民街となる。
まぁ、大通りは流石に活気があって貧民街とは言いづらいが…
そんな大通りから外れた貧民街の孤児院の院長である俺、ノワールは今日も子供達と戯れていた。
「院長先生、これどうなっているんですか?」
くすんだ金髪の女の子、ロレスが聞いてくる。
「あぁ、この問題か。」
俺は黒板の様な板に書き込んでいく。
「これで解ったかい?」
ロレスははっと閃いたように書き込む。
「これでいいですか?」
「あぁ、これで大丈夫だ。」
ロレスの頭を撫でると近くにいた男の子の頬が膨らんだ。
俺は苦笑して男の子の頭を撫でる。
しばらくすると二人とも満足したのか走ってどこかへ行ってしまった。
日が暮れると今月の経営のプランを立てていく。
「あー、やっぱり足りないか。」
どう計算しても足りなかった。金が。
「最近どうも王家の孤児院に対する態度がなー。」
そう独り呟く。
孤児院の経営費は先代の王様によって契約がされていた。
孤児院での孤児の量に比例してお金が支払われる制度だったはずだ。
なのに金が足りなくなる。
それは一重に今代の王様の方針のせいであった。
「なんでまた軍事に力を入れてるんだか…」
今代の王様は税金の半分近くも軍事のために使っている。
それがいかに異常か、国民が知る由もない。
ノワールの経営する孤児院は他の孤児院と比べると大分少人数だが5人の孤児を抱えている。
予算的にこれ以上は増やせないのだ。
「くそ、寝るか。」
ノワールは愚痴りながら布団に潜って瞼を閉じた。