叶との休日②
俺は巨大パフェにいつかのリベンジを誓いこの喫茶店を出た。
次なる目的地ゲーセンに向かう。
ゲーセンに着いた。そこは休日にふさわしい喧騒に包まれている。周りを見渡せば親子連れ、友達同士、恋人同士、はたまた一人で音ゲーなんて人もいる。
皆一様に楽しそうな顔をしており、ここが如何に愛され素晴らしい場所か想像にかたくない。
俺も叶もよく来てお世話になっている。
「叶、何からしよっか」
コインゲームにクレーンゲーム。ああ、ガンシューティングゲームもいいな!
そう思い叶に目を向けると、叶は何度も顔を横に振りながらもある一点だけを眺めてつっ立ってる。
その視線の先にはエアホッケーが設置されていた。あれで遊びたいのかもしれない。
「まずエアホッケーであそぶ?……叶?おーい、かーなーたー?」
ピクリとも反応がしない。少し強めに呼ぶしかなさそうだな。
「すぅ………かなたっ!」
「!!!?」
叶の体がビクッと震えた。何ぼっーとしてるんだか。
「何ぼっーとしてるの」
「いや、ちょっと雑念をな…」
雑念?よくわからないな。
「別にいいけどエアホッケーで遊びたいなら遊ぼうよ」
「え、いや別に……」
「あんなに見つめてたのに違うの?」
「……遊びたいです」
最初からそう言えばいいのに。
俺と叶は機体を挟み向かいあう。
この機体はモードが三種類あり、今回選んだのはその中のデラックスモード。このモードは普通サイズのパックが二枚あり、後から追加で小さいパックが複数枚でてくる。
得点は小さいパックの方が低いが数が多いので無視はできない。いかに小さいパックを捌きつつ、普通パックで得点するかが勝つための大きな鍵となる。
「そういえば、しばらくこれしてなかったよね。なんか懐かしい」
「そうだな。久しぶりかもな」
「負けるつもりはないけどね」
「俺だって負けるつもりはないな」
それぞれ伝えるべき言葉は伝え、構える。
あと五秒、、四、、三、、二、、一、、
『『スタート』』
ピーっという音と共にパックが飛び出し、俺と叶の勝負が始まった。
♢♢♢
結果から言えば俺の勝ちだった。
リーチこそないものの小回りが利くため叶が打ってきたパックを返すのが容易だった。結果として小さいパックが追加された時にどさくさに紛れて普通のパックを入れることができてそのまま逃げ切ることができた。
攻めて勝ったというより守って勝ったという感じだ。
「だあー、負けた負けた」
「これでパフェの借りは返せたかな」
「かもな。あれが勝負になってたかは微妙だけど」
「一言余計」
「はいはい」
わざわざ言わなくてもいいじゃないか……思い出すと悲しくなるだろ?
このあと、俺たちはゲーセンを心ゆくまで楽しんだ。
バスケのシュートするやつや、メダルゲームで何枚稼げるかで競ったり、クレーンゲームでお菓子やぬいぐるみを取ったりした。
ぬいぐるみを取った時には、叶にぬいぐるみを両手で抱えてみてくれと頼まれたので言われるがままにぬいぐるみを抱えてみた。
そしたら急にスマホで俺を撮り始めるから、びっくりしてちょっと怒った。
流石にあの姿を撮られるのは恥ずかしい。
そもそもぬいぐるみを抱えるのを拒否すればいいじゃないかって?
敗者に情けは無用。これで察してほしい。
結局、俺たちがゲーセンを出たのは四時を幾らかすぎた頃。専ら三時間は遊び通した計算だ。
長い時間遊んだものである。
「長い時間遊んでしまったな…」
「そうだね…」
我ながら没頭しすぎだと思う。少しだけ疲れてしまった。
「今からカラオケか。二時間ほどだな。奏どうする?」
「もちろん行くよ」
行くに決まっている。多少の疲れは楽しかった証なので苦になるようなものでもない。
「ラスト、カラオケに行くか!」
「おー!」
俺たちは最後の目的地、カラオケ店へと歩き出す。
カラオケ店に到着した。
小さな店が温かみのある雰囲気がお気に入りの店だ。ここも馴染みの場所なのでここの店長さんとは顔馴染みなのだ。
「おお、坊主来たのか。ほう?今日はもう一人の坊主とじゃなく彼女連れとはやるじゃないか」
まさか彼女とは俺のことだろうか。そんなものになったつもりもなる予定もない。
第一、男同士だ。
「いや、こいつはそんなんじゃなくて……」
「恥ずかしがんなって。いつも贔屓にしてもらってるからな。今日は祝いってことで特別に安くしてやるから楽しんできな」
勘違いをしてニヤニヤしている店長が少しウザイが、安くしてくれるのは非常にありがたい。
「あ、ありがとうございます…」
「おう、部屋は五番な」
あ、叶の奴諦めたな。
俺はぺこりと頭を下げ、叶一緒に部屋へ向かった。
部屋の中で、さっきの店長のことを話したり、採点で競ったり、デュエットしたりと思い思いの二時間を過ごした。
デュエットはもちろん女性パートが主でしたよ。歌いやすかったですとも。ええ。
二時間のカラオケを終えて、俺たちは帰路につく。
「あ〜、疲れた。今日は遊んだよ」
「ほんとにな。もうクタクタだ」
疲れたなと呟きながらも俺たちの足取りは軽かった。
「来週は叶の家でゲームかな」
「そうだな。二週連続でこんな遊び方してたら金がいくらあっても足りなそうだ」
「たしかにっ!」
叶と顔を合わせて笑いあう。
この体になっても変わらず一緒に笑えてることがとても嬉しい。
「今更だけど聞きたいことがあったな。聞いてもいいか?」
「何?答えれることなら」
何を聞きたいことがあるのだろう。しかも今更ときた。
「その、な。今日のコーデって言うのか?その、気合い入ってるなあっと思ってな……」
久しぶりに遊ぶとはいえ、俺だけ気合い入ってるコーデでは不自然だったかもしれないな。けど、これは不可抗力なのだ。
「朝、静流に服の相談したら静流のなすがままに魔改造されてね……」
もう、思い出したくない過去だ。
「それはご愁傷さまだな」
「ほんとだよ…」
「でも、に、似合ってるぞ。可愛いと思う……」
「突然何?なにか悪いもの食べた?」
急におかしなこと言う叶がいたもんだ。
「せ、せっかく勇気を出して褒めたのにそりゃねぇだろ」
「そう?ありがとありがと」
「適当だな……」
そんなこと言われても困るのにどんな反応しろと…
とまあ、ちょっと微妙な雰囲気になりはしたけどまたいつも通りに戻って楽しく家にまで帰ってこれた。
「到着」
「送ってくれてありがと。けど別に家までついて来なくてもよかったんだよ?」
「今の奏を一人で帰らせる方が怖いわ」
「あっそ。じゃあまた月曜日。バイバイ」
「おう。また月曜日な」
そう言って叶は帰っていった。
今日はほんっっとに楽しかったな。
そう満足して家の中へ入ると静流が玄関に立っていた。
「おかえり、お姉ちゃん」
「ただいま」
「で、叶さんとのデートはどうだった?ん?」
「だから、デートじゃないって言ってるじゃん!」
俺の休日は(静流のせいで)まだ終われない。
昨日は急用のせいで全然書けず投稿出来ませんでした。悔しいです。
どこかで埋め合わせしたいですね。