身体測定
今日は新学期直後にある恒例の身体測定の日だ。
身体測定と言えば体操服に着替えるのが常である。まあ、何が言いたいかと言うと
他の女子たちに混ざって体操服に着替える勇気がございません!
仕方がないじゃないか。これでも心は男なのだ。それなのに一緒に更衣室で着替える…俺がもちそうにないし、昨日は大丈夫って言ってくれてた女子たちも流石に一緒に着替えるのは嫌だろう。
学校へ行くのは昨日と同様に叶たちと一緒に行くので道すがら恵海ちゃんにこのことについて聞いてみることにした。
「恵海ちゃん、今日身体測定があるよね」
「そうだね〜。あ、体重が気になるとか?ふふふ、奏ちゃんにも女の子な自覚が…」
まあ、気になるといえばそうだけどそこじゃなくてね。
「そうじゃなくて、ほかの子たちは僕も一緒に更衣室で着替えるのが嫌なんじゃないかなぁって。恵海ちゃんだったらどうなのかなぁって」
「あーなるほどね。私は奏ちゃんと一緒でも大丈夫。それに昨日はみんな奏ちゃんのこと受け入れてくれたんでしょ?だったら大丈夫じゃないかな」
「そうだといいんだけど……」
確かに昨日は皆受け入れてくれたけど、やっぱりなんか怖いんだよな。
「うーん、じゃあとりあえず今日は別の場所で着替えたら?解決にはならないかもだけど」
問題の先延ばしにしかなってはいないけど、今の俺にはこの提案で十分に思えた。
「そうだね。今日は別の所で着替えてみるよ。ありがと、恵海ちゃん」
「どういたしまして。可愛い可愛い奏ちゃんのためなら私は躊躇わず身を差し出すよ!」
「いや、自分のことは大事にして欲しいな…」
その流れのまま俺は恵海ちゃんとずっと喋っていた。不意に後ろから
「今日の俺は空気だぜ……」
………ごめん、叶。すっかり忘れてたわ。
♢♢♢
今日の一、二限目は委員会やクラスでの役職決めに費やされた。
俺は叶と一緒に図書委員をすることになった。気心知れた奴と同じ委員会になれたので結構いい結果だと思う。
そして三、四限目はついに身体測定の時間だ。女子たちが次々に更衣室へ向かう中、別の場所へ向かおうとすると手を掴まれる。
「更衣室はこっちだよ?どこへ行こうとしてるのさ」
その人物はたしか国枝渚だったかな?身長は高く目はキリッとしてるので美人という印象だ。
「他の所で着替えようかと…」
嘘をつく必要も無いので目的を話す。
「そんな必要はないよ。君は女の子だろう?だったら私たちと一緒に着替えればいいじゃないか」
「僕みたいなのがいたら皆不快になるんじゃあいかなぁって思うんだ。……元男だし」
俺は正直に胸の内を吐露した。女子たちの下着姿に興奮しそうというのは内緒だが。
「はあ。いいかい?私たちは君という存在を受け入れたんだ。元男なんてのは関係ないよ。もう一度言うけど君は女の子だ。誰も不快になんて思わないし排斥なんてもってのほか。だからわざわざ他の場所で着替える必要なんてない。いいね?」
「…うん、ありがとう」
「分かってくれて嬉しいよ」
ああ、俺の考えすぎだったのかな。これじゃ恵海ちゃんの言うとおりじゃないか。
「それじゃ、着替えに行こうか」
そう言って歩き出す国枝さんを追って俺は更衣室へ向かった。
♢♢♢
【更衣室】
その扉を開けると全男共が夢見る桃源郷が…………ということはなかった。
半分以上の女子は体をもぞもぞさせながら体操服を着ている最中。かなり奇妙な光景だ。
驚き立ち止まってしまう。
「あっ、驚いたかい?最近は皆あんなふうに下着が見えないように着替えるんだ。男子たちは残念に思うかもね。さて、私たちも着替えよっか」
国枝さんが中に入っていくのについていく。
そして、彼女はおもむろに服を脱ぎ始める。その姿は優美ですらあった。
「私はあんなまどるっこしい着方は苦手でね。それに隠さなければいけないほど残念な体型ではないと自負してるしね。あと、誰も君のこと気にしてないだろ?」
顔を近づけて言ってくるので辺りを見回してみる。国枝さんの言うとおり、特に誰も気にしている様子はなかった。
あと、国枝さんの体はスラッとしなやかでモデルのような体型だった。自信があるのもうなずける。
ただその体型には少しイラッと……イラッと?なぜイラつくのだろうか。
「あら、それはそのまどるっこしい着方をしていた私への侮辱なのかしら」
「そんなわけないだろ。紗耶香」
突然話しかけてきたのは紗耶香と言うらしい。まだクラス全員の名前を覚えてるわけではないので分からない人もいるのだ。
「冗談よ。しかし、遅かったのね。久留井さんと一緒に来たようだけど何かあったの?」
「大したことは。この子が更衣室に来るのを躊躇ってたから連れてきただけさ」
「ふーん、まあいいわ。久留井さん、早く着替えた方がいいわよ」
「え?あ、もうこんな時間!急がなきゃ」
どうやら眺めてるあいだにかなり時間が経っていたらしい。急がなくては。
急いで制服を脱ぎ体操服を着ようするが、
「ひゃあっ!?ちょっ、急に何!??」
二人が急に俺の腹を摘んできた。おかげでおかしな声が出てしまった。
すごく恥ずかしい…
「いやさ、綺麗なお腹だなと…スベスベで触り心地がいいよ」
「私もちゃんとケアしてるけどこんなにスベスベにはならなかったわ」
前に静流にも言われたな。けどそんなにいいのか?俺には二人の肌の方が綺麗にみえる。
しかし、それよりもだ。
「二人とも離して!くすぐったい!」
「もうちょっとだけ、触らせて」
「私も…これは癖になりそう」
「癖にならなくていいから!着替えれない!」
早く着替えた方がいいと言ったのはどこの誰だったのか。
「あっそうだ。これから私は君のことをかなで……いや、奏ちゃんと呼ぶから私のことは是非渚と呼んでほしい」
「渚が人をちゃん付けで呼ぶなんて珍しいわね。あと、私も奏ちゃんって呼ぶから紗耶香って呼んでね」
さっきの俺の言葉は無視されたようだ。そして二人してのんびりしすぎである。
それ以前にくすぐったすぎて体が限界を迎えそうだ。
「わ、わかった。わかったから!その手を離してぇぇぇぇ」
「「やだ」」
こんな時に一体感を出さないでほしい。
結局、チャイムがなるまで二人に腹を摘み、撫でられ続けた。
こうして女友達が二人もできたのは喜ばしいのだが、経緯が経緯なだけにとても複雑な気分だった。
ちなみに、俺の身長は百五十センチ程でかなり縮んでいた。渚は百六十五、紗耶香は百五十八センチと並べば階段のような身長差だった。
体重はシークレットである。
今回は叶の存在が希薄でしたね。
あの二人はメインキャラになる予定。
あと、もしかしなくても百合タグつけた方がいいかもしれない……