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始業式

 俺が女の子になって一週間、とうとう始業式当日の朝がやって来た。


「はあ、何度やっても慣れねえよなぁ」


 俺は制服に着替え鏡の前で髪を梳いている。制服はもちろん女子のものだ。落ち着かないことこの上ない。


「お姉ちゃん、しゃ・べ・り・か・た」

「あ、はい……」


 ひょっこり現れた静流に注意される。

 この一週間で俺は髪の手入れ、口調、仕草など多くのことを叩き込まれた。そのどれもこれもが大変だというのに母さんと静流は揃いも揃って「これでも最低限なんだよ?」と言うのだ。

 世の中の女性の凄さが身に染みてわかった気がした。


 そうこうしているうちに髪が梳かし終わる。確認として手鏡を使って跳ねが残ってないかをみる。

 よし、大丈夫そうだな。


 そういえば母さんが毎朝の笑顔の確認は大切だと言っていたので試しに鏡に向かって微笑んでみるが結構上手く笑えてると思う。

 でも、こんな姿を見られた日には…ひには……


 顔を向けた先に母さんと静流のニヤニヤした顔があった。顔が一気に熱を帯びたのが分かる。


 穴があったら入りたい……




 ♢♢♢




 ご飯を食べ、歯を磨き朝の身支度を完全に終える。後は二人が来るのを…


 ちょうどその時インターホンがなった。


「奏〜。叶君達来たんじゃないの〜?」

「そうだと思~う」


 玄関へ向かい戸を開ける。いたのはやはり叶と恵海ちゃんだった。


「奏ちゃん、おはよう」

「恵海ちゃん、おはよう。叶もおはよう」

「…………」

「叶?お〜い、固まってどうしたの?」


 叶から挨拶が返ってこないので顔を覗き込む。


「うおおっっ!!?」

「うわっ!そ、そんなに驚かないでよ……」

「すまん。ぼぉーっとしてた」


 ぼぉーっとしてたって……昨日夜遅くまで起きてたのか?そんなになるまで夜更かしとは珍しいな。


「ちょっと顔があかいんじゃなぁ〜い?もしかして、制服姿の奏ちゃんに見惚れてたなぁ〜?このこの〜」

「うっさいな姉貴(ばか)。見惚れてねぇよ。に、似合ってるとは思ったけど…」

「だってさ奏ちゃん。この愚弟(ばか)のツンデレなんて需要ないのにね」

「あははは………まあ、ありがと」


 二人で馬鹿馬鹿と言いあって仲がいいこと。

 しかし、夜更かしじゃなくて男だった俺が存外に制服を着こなせていたから驚いたんだな。

 まだ、可愛いとか言われても困るけど変な格好になってないって意味で似合ってると言われるのは嬉しいかな。一応、事前に準備はしてる訳だし。


「さあさあ、とりあえず行こう?このままここで喋ってたら遅れるよ」

「「そうね(だな)」」

「じゃあ、いってきまーす」


 俺たちは暖かい朝日を浴びながらゆっくりと学校へ向かった。




 ♢♢♢




 危なかった…もうすぐで睡魔に負けるところだった……

 どうしてこの始業式みたいな○○式ってつくものの話は眠気を催すのだろうか。特に校長先生の話しなんて最たる例である。催眠術かなにかとしか思えない。

 ちなみに叶は眠りこけて近くを通った先生に叩き起されていた。まったく気の毒な。いや、自業自得だけど。


「痛かった…んたく、あの先生はどうして加減ってもんをしてくれなかったんだか」

「同情はするけど、僕は叶が悪いと思うな」

「そうかよ……ん?奏、お前今自分のことを『僕』って言ったか?」

「言ったよ。喋り方を叩き込まれるときに『俺』はやめとけって言われてさ。かと言って『私』は流石に恥ずかしいから『僕』に落ち着いたってわけ」

「なるほど、道理で喋り方が柔らかくなったと思ったらそうゆうことか。大変だな」

「まあね。でもまだまだ意識してなきゃすぐにボロが出るけどね」


 この辺はまた段々と慣れていって自然になるようにしていきたいと思う。

 ………それにしても、それにしてもだ。


「僕たち皆に見られ過ぎてないかな?」


 そう、教室のあちらこちらから視線が飛んでくるのだ。気になって仕方がない。


「……そりゃ、男だった奴が女になってたらみんな気にするっての」

「そ、そうだね」


 あまり目立ちたくなかったんだけどなあ。やっぱり無理があるよなあ……はあ。


 ガラガラと扉の開く音がする。先生が来たようだ。


「お前ら席につけ。HRを始めるぞ。」


 そう言うと皆がそれぞれの席につく。叶も自分の席へ帰っていった。


「よし、席についたな。まずは俺の自己紹介から。俺は担任の吉野原(よしのはら)慎二(しんじ)。数学が担当だ。一年間宜しく」


 おお、さっき叶を起こしていた先生か。ゴツイから体育の先生かと思ってた。人は見かけによらないな。

 叶は先程のこともあって顔が少し引きつっている。


「あと、俺はお前たちのことをよく知らないから窓側から順番に軽く自己紹介してくれ。……あんまり嫌がってくれるなよ俺はお前達のことを知りたいんだ」


 なかなかの熱血教師っぷりだな。やっぱり体育教師の方が似合うんじゃないかと思う。


 そして自己紹介の順は巡り巡って早くも俺の番となる。


「ええっと、久留井奏です。特技ってわけではないですけど最近母さんに料理を教えてもらって頑張っています。今年一年よろしくお願いします」


 なんとか噛まずに言えたな。

 自己紹介を終えて席に座わろうとするが、


「あのー、俺の知っている久留井奏って男だったと思うんですけど…」


 あー聞いちゃう?それを聞いちゃう?そりゃ聞くか……こうなったら母さん、静流直伝の必殺技を使うしかない。

 こんな早くこの手札を切ることになるとは思わなかったなあ。


「は、はいそれで合ってます。それでその〜僕は元男なので……きっと皆さんの中に気持ち悪いと思う人もいるでしょう。でも、精一杯馴染めるように努力します。だから、だから僕を嫌わないでくれませんか?」


 俺渾身の潤目と上目遣いを駆使してあざとく語りかけた。

 叶は呆れ顔だが、そんなのは気にしない。せっかくの学校を楽しくするため、俺は最善を尽くすのみだ。


 しかし、何も反応がない。質問してくれた人もプルプル震えている。


 あれ?もしかして失敗した?


 誰の反応もないことに不安になっていると


「くおおおお、もう無理。マジ無理。可愛すぎる。元男?そんなものは知らん。奏ちゃんは可愛い。その事実だけで十分だ」


 質問君が突然叫び出した。最後が無駄にイケボだった。それを皮切りに、他の人も「嫌いになんてならないよ」とか「気持ち悪くなんてないよ」とか「奏ちゃんをキモいって言うやつは潰す」とか言ってくれている。

 ……最後のは過激すぎる気はするけど。


 ともあれ、皆が受け入れてくれたことが凄く嬉しい。実は超不安だったからちょっと泣きそう。泣かないけど。


 騒いだ教室を吉野原先生がなんとか宥めてくれて自己紹介が再開された。


 放課後、俺の元にクラスメイトがわらわら集まって来て俺を囲む。

 みんな好意的に接してくれる。


 人垣の隙間から叶が心配そうにこちらを覗いているのがみえたので微笑みかけるとそっぽ向かれてしまった。少し耳が赤いようにも見える。

 心配していたのを見られて恥ずかしいのだろうか。


 ともあれ今後の学校生活を楽しく過ごせそうでほんとに良かった。




まだ四話目なのに書くのが遅くなっている事実。

次は早めに…



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