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共に過ごす夜

あけましておめでとうございます!遅すぎる新年の挨拶となってしまってごめんなさい。

また、よろしくお願いします。




「…………………」

「…………………」


 無言の空間。近いわけでも遠いわけでもない、なんとも言えない中途半端な距離を空けて座っている。こんな時の頼みの綱である静流だったんだけど、


「あっ、小テストに向けて勉強しなきゃいけないんだった。もうちょっと遊びたかったけど仕方ないよね、うん。では、後は二人でごゆっっっくり〜」


 それだけ言い残してこの部屋を去っていった。勉強なんかそっちのけでそのままいて欲しかったのにっ!

 というか、真面目な顔を装ってたけど僅かに口角が上がってたのを決して見逃してはいない。あれは絶対に面白がってた。自分が必要とされてると分かっていながら出ていったに違いない。


 ……………何話したらいいんだろう?


 最近多くなってきた不思議な沈黙の時間。話すことなんていくらでもあるはずなのに出てこない。喉を通る瞬間に霧散して消えていく。それならそれで互いに別々のことをしてもいいような気もする。なのに何となく、何となくだけれど離れたくない。

 叶がどう思ってるのかは分からない。分からないけど、もし、もしも同じように思ってくれているのなら―――



 ()()()()()




 ♢♢♢




 色んなことを考えた。考えた末に出てきた言葉は


「あ、その……お風呂空いてるから…入って、きて」


 ただのお風呂の催促だった。


「お、おう」


 ちょっと戸惑ったような返事をして、叶は足早に部屋を出ていった。


「はあぁぁ…………」


 それと同時に緊張の糸が切れた体は後方にドタっと倒れ、盛大にため息をついた。とても長い時間だったような気がするけど静流が出てから時計の針は精々五分か十分程度しか動いてない。


「時間て案外遅い…」


 力の抜けた体は既にほんの少し動かすことすら億劫になっている。

 キィィと扉の開く音。少し開いた扉の隙間から静流が目だけを覗かせている。何してるんだか。そんなことしたって驚かないのに。


「……静流そこで何してるの?」

「平静を装っても無駄だよ、お姉ちゃん。お姉ちゃんがビクッと体を跳ねさせたところ見たんだから。可愛い」



  …………………………………。



「…………それで何の用?」

「あ、スルー?」


「な・ん・の・よ・う!」


「そんなに凄まないでよ。あまりの可愛さに襲いそうになるから」


 暗く濁りきった目はいかにも欲望にまみれた者のそれだった。


「ち、近寄らないで!」

「え〜逃げないでよ、お姉ちゃん」


 中に入ってきた静流から猛スピードで距離を置く。残念なことにすぐに壁に到達してしまう。部屋が狭いことをこんなに恨めしく思ったことは無いかもしれない。

 しかしどうしてこんな姉に興奮する妹(変態)なってしまったのか。いや、本当に何があったの?


「コホン、冗談は置いといて本題に戻ってもいい?」

「入ってすらないからね?」


 もう嫌だ……帰りたい…………。あ、ここが自分の家で自分の部屋だった。


「そんな細かい事は気にしない、気にしない」


 もう、たじたじです。


「はぁ……で、本当に何の用なの?」

「え、特に用はないよ?面白十割で覗いてただけ」

「ここまでの流れ全否定!?」


 からかわれた分くらいはまともな内容であってほしかったよ……


「さてと、お姉ちゃんで遊ぶのはこれくらいにしてちゃんと勉強しようかな。叶君はお風呂あがるのが早いことだしね」


 この妹、平然と人で遊んでたことを認めやがった。恐ろしいことこの上ない。


「この後は叶君とお楽しみの夜をお過ごしくださーい。じゃね!」

「え…あ、ちょっと!」


 言いたい事だけ言って静流はドタドタと忙しなく部屋を出ていった。




 ♢♢♢




 程なくして叶は部屋に戻ってきた。そのままこちらに近づいてきて


「さっきのゲームの続きしようぜ!」


 と言って隣に座った。その声にさっきまでのような硬さはなく今まで何度も聞いた楽しげな声だった。お風呂でよくリラックスできたのだろうか。


 それに対する返事はその声につられてしまったのかとても明るいものになった。鏡がないから分からないけど上手く笑えているような気もする。さっきまでなら上手く笑える自信が無いからきっと静流との会話がいい気分転換になったのかもしれない。気は休まらなかったけど…


「久しぶりの泊まりだからな、今夜は寝れると思うなよ?」

「それに今まで何度も付き合ってたのはどこの誰だと思ってるの?今更聞かれるまでもないよ」

「そう来なくっちゃな!」


 互いに顔を向けて笑い合う。今夜が楽しいものになると二人で確信するには十分すぎる笑顔だった。



 叶の位置を


 “隣”


 と表現はしたけれど男の時(かつて)ほど近くはない。手を伸ばせば届くけど手を伸ばさなければ届かない距離。叶との距離が遠くなる日が来るなんて夢にも思わなかった。


 けれどこの距離はきっと正しい。


 女の子になってしまった時には定められていたのか、最近になって定められたのか、ひょっとすると女の子になる前からかもしれない。何時定められたのかは分からない。分からないけれど心が叶との今の適切な距離だと教えてくれる。


 今の距離が縮まって昔と同じように座れるようになった時、その時……その時の叶との関係性はどうなってるのかちょっと楽しみだったりする。




 願わくば――――――となれますように。




 カーテンの隙間から望む星々は静かに瞬き、その光は誰にも気づかれることなく地平線へと吸い込まれていった。


久々の投稿でしたがどうでしたか?少しでも楽しんで頂けたなら嬉しいです。


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