温かさと決意
本日叶視点。たまにはいいですよね?
学校祭が終わってから幾ばくも経っていないある日の放課後、奏を除いた四人で集まっていた。
「で、どうだったのかしら?奏ちゃんと二人きりの文化祭デートは」
席に着いた瞬間から鋭い眼光とともにド直球な質問を投げてくる遠瀬さん。もうちょっとゆっくりとはじめさせてくれ。
「ちゃんと話すって……そう急かさないでくれよ」
「急かすも何も本題に入るだけよ?」
何可笑しなこと言ってるの?っていう顔を向けて言ってくる。そうなんだけどな?話すにも心の準備ってもんがな?
「羽柴くんからあの話持ちかけて来たのよ?聞いて当然じゃないかしら」
そう、文化祭二日目に二人きりにさせて欲しいって言ったのは俺で、今日はその報告会みたいなものだ。
「まあまあ、沙耶香。待ってくれって言ってるじゃないか。気長に気長に」
「……分かったわよ」
国枝さん、助かったぜ。それでは一度深呼吸。
「すぅぅぅぅーーはぁぁぁぁぁぁぁーーーうっ、ゴホッゴホッ」
いざ話すと思うと緊張してしまって息を吐きすぎ、咳き込む。我ながら少しダサい。
「気長に待つって言ってるのに、お前が焦ったら世話ないって」
武也が苦笑い気味に言葉を投げかけてくる。他二人はちょっと呆れたご様子。
「おほん……じゃあ話すな。そうは言っても何を話すか」
「とりあえずは奏ちゃんとデートした感想しかないじゃない。楽しかったの?進展あったの?」
まあ、そうだよな。そういうのだよな。
「楽しかったよ。すごく楽しかった」
ポツリ、ポツリとあの日心から思ったこと感じたことを俺は言葉にしていく。
「それで去年もな、今年みたいに二人で回ったんだ。そりゃ楽しかった」
その楽しさはきっと今年にも劣ってはいなかったと思う。間違いない。ただ、その二つには明確な違いがあった。
「でも、今年はそれだけじゃなかったんだ」
奏といるだけで込み上げてくる温かさ。心を包み込み満たしてくれる温かさ。去年には感じれなかった温かさ。
その温かさはどんなものか説明しろ言われると難しい。でも幸いにも人間はこの温かさを、感情をたった一言で表現できる言葉を持っている。その言葉は―――
「―――愛おしい。そう、俺はあいつとの時間に愛おしさを感じたんだ」
使い古された言葉、聞き慣れた言葉、陳腐な言葉。しかしそれ故にこの言葉には言い表し尽くせない気持ちが多分に含まれてることを知ってしまった。教えられてしまった。
「この生まれて初めて感じる感情は、きっとこれからそう何回も味わえるものじゃないと思う。だから俺はこの感情を大切にしたい」
「つまり?」
核心をつく質問。そしてその答えは一つしかない。
「俺は奏が好きだ。幼馴染として、親友としてじゃなく、一人の女の子として奏が好きだ。そう確信した」
今までは気の迷いだとか、女の子に対しての願望が奏に向いてるだけとか、そんなふうに思っていたけど改めて二人だけで特別な日を過してみてそう思えた。
「なるほどね。それで進展はあったのかい?」
「………あったと思うか?」
三人は顔を見合わせ口を揃えて言った。
「「「全然」」」
酷い。いや、正しいけど。そして三人は口々に言い始める。
「それに、自分でも分かっていたはずなのに今更『確信した』なんて格好つけて言われてもって感じよね」
「というか、ひたすらに惚気話だったね」
「ブラックコーヒーさえ甘々になるレベルだな」
その会話が止まることはなくずっと聞かされ続ける。その散々な言われように「もうやめてくれ」と懇願。やれやれと首を振られながらも会話を終わらせることに成功した。俺、もう涙目。
「からかうのはこのくらいにするとしようか」
「ちょっと物足りないわね」
「全くな」
既に死体蹴り状態だったのにこれ以上は困る。まじで。
「まあいいわ。それでこれからどうするの?決まってはいそうだけど」
「告白はしようって思ってる。具体的な日は決めてないし、どうなるかわからないけどな」
でもこれはもう決めたこと。絶対にする。
「ふーん?なら、私たちから言えることは既に何もなさそうね。まあ頑張ってね」
空気が弛緩する。これで今日の話し合い(やや一方的)は終了だな。俺から言い出したことだけど、なかなかくるものがあるな。ほんの少し思い返すだけでも恥ずかしい。
「それじゃあお開きだな。結局、叶の惚気話聞くだけで終わったな」
「なっ!?」
「仕方ないさ。本人が決意してるなら私達が口を挟むのはナンセンスだからね」
「確かに!」
そしてそのまま俺が止めたはずの会話が再開してしまった。今日付き合って貰った手前俺一人だけ帰るのはどうかと思い、帰れずにいる。
本当に帰ることになるのはもうしばらく後のことで、この間に俺の心は羞恥心で滅多刺しにされ顔をあげることが出来なかった。
最近は土日が潰れることが多く、執筆の遅い私には致命傷となっています……
しばらくはそんな感じが続きますので、更新されなかったあかつきには
「ああ、またあいつは土日潰れたのか。可哀想に」
とでも思っててください。
では、良い土日を。




