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長かった一日

一日に3話も使うなんて……

これからのペースが心配になります。

 家に帰ると母さんは晩御飯の支度を始めた。叶も食べに来るのでパアーッとすき焼き鍋にしようと思っているらしい。

 そのために先程それ用のちょっとお高いお肉を買ったのだ。買っても大丈夫か尋ねると


「お父さんのへそくりから出て行くから大丈夫よ」


 とのこと。父さんのことを思うと涙を禁じえなかった。


 母さんが晩御飯の支度をしている間、俺は静流の手によって再び着せ替え人形と化していた。

 今回は流石にロリータではなかったが、静流の古着や小物まで引っ張ってきての一大ファッションショーだ。ポーズまで要求され、今ではカメラを取り出し俺をあらゆる角度から撮るカメラマンとなっている。


 時間が経つたびに興奮し息が荒くなっていく静流とは対照的に俺の心は風が凪いでる時のように何も感じなくなっていった。


 不意にインターホンの音が鳴り響く。時計をみると時刻はもう七時という所まで迫っていた。

 これ幸いとばかり静流の部屋から飛び出て玄関へ向かう。


「叶!いいタイミングで!いらっ…しゃ……い………」

「奏くん、はろはろ〜!きちゃっ……た………」


「「え?」」


 扉を開けるとそこには叶ともう一人、叶の双子の姉こと恵海(えうな)ちゃんがいた。




 ♢♢♢




「なるほど〜。だから奏くんが奏ちゃんに。はむっ…あ、このお肉美味しい」

「姉貴………」


 恵海ちゃんは鍋から肉を取り頬張っていた。よほど美味しいのか顔から幸せが溢れんばかりの笑顔だ。

 その様子を見て叶は呆れているが。


「ふふふ、そんなに喜んでもらえるならいいお肉買ったかいがあったわね」

「そ、そうだな…」


 母さんはにっこり微笑んでいる。父さんも笑ってはいるものの少し引きつっている。

 ……なんて切ない光景なんだ。


「とまあ、叶くんも恵海ちゃんも暫くは学校での奏の面倒を見ててくれないか?」

「俺は普段から奏とつるんでるんでちゃんと見ときますよ」

「私はクラスが違うのでなんとも言えないですけどなるべく気にかけておきます」


 俺が女の子になった所でどう変わるってことも無いはずだから余計なお世話だと思わなくもないが、単純に心配してくれてるとおもえば嬉しいかぎりだ。


「叶、恵海ちゃん、そのーありがとな」

「おう、困った時はお互い様だぜ」

「はううっ!奏ちゃんに『恵海ちゃん』て呼ばれる多幸感が半端ないよぉ…」


 恵海ちゃんのこの反応にはみんな苦笑いだ。いや、静流だけはうんうんと激しく首を縦に振っている。


「話が終わったところですき焼き本番だ。じゃんじゃん食べていってくれ」

「では、じゃんじゃんたべさせて頂きます!」

「話の途中もあんなに食べたくせに…」

「あはは…恵海ちゃんは大食いだからな」


 大食い恵海ちゃんのあとに続いて俺達も食べ始める。


「あっ!恵海ちゃん!それ私が育ててたお肉ぅぅぅ」

「静流ちゃん、お鍋は戦争なんだよ!」


 騒がしくも楽しいすき焼きは恵海ちゃんが満腹になるまで続いた。




 ♢♢♢




 ついにこの時が来てしまった。

 この瞬間までは気にしないように、気にしないようにしていたが……やっぱり避けては通れないよな。



 そう風呂(入浴タイム)だ。



 既にトイレで俺の男たる証が消失してることは確認済みなのだがそれとこれは別。

 全裸になった少女を見ることになるのは罪悪感がある。たとえ俺の体だとしても。


 とはいえ風呂に入らないという選択肢はないので早々に決心をして服を脱ぐ。すると、


「お姉ちゃんの体を洗い隊、隊長。久留井静流ここに着任しました!」


 この瞬間、俺の中で静流(可愛い妹)静流(変態な妹)に、ジョブチェンジした。


 今日一日で今の俺に対して異常な執着というか、欲望を(たぎ)らせていることは薄々感じていた。しかし、このタイミングで直接乗り込んでくるとは思わなかった。

 反射的に身構える。


「お姉ちゃん何か勘違いしてない?私は体と髪の洗い方を教えに来ただけだよ?女の子の体は男の子よりもデリケートなんだから!」

「ほ、ほんとか?」

「ほんとのほんと!」


 静流の目は純粋そのものだった。どうやら俺の勘違いらしい。


「そっか、疑って悪かったな。じゃあ頼むな」

「任せてよね」


 俺は安心して中へと入っていく。後ろで静流(変態)の頬が上気してるとも知らずに。


「じゃあ、まずは髪からね。お姉ちゃんは髪が長いから最初は軽く髪を梳かした方がいいかも。それから……」


 静流の丁寧な髪の洗い方講座が進んでいく。今までそんなに気をつけたことがなかったために多少苦戦したものの筒なく洗い終わった。

 髪の長い女の人はみんなこんなに苦労していると思うと尊敬の念を抱かざるをえない。


「次は体だね。私のおすすめは基本手洗いだけど洗いづらかったり、手洗いが嫌だったらそこのボディタオル使ってね。泡はしっかりと立てて……」


 これまた丁寧でわかりやすい説明だった。静流がいかに気をつけて体を洗っているかが窺える。


「今日は私が洗ってあげるね。一度どれくらいの強さで洗えばいいか体験しとくといいよ」

「そうか?じゃあ、任せるよ」

「ふふふ、眠くなるくらい気持ちよくしてあげちゃうから」


 首から順番に足まで洗っていくらしい。ひとまず腕まで洗い終わる。

 眠くなるには至らないけど、かなり気持ちがいい。これはなかなか高い目標だ。


「お姉ちゃんの肌、スベスベで羨ましいなあ。私よりも肌綺麗だし…」

「ははは、男として喜んでいいのやらな」

「今は女の子だよ〜」


 このまま静流が洗うに任せようと目を閉じ身を完全に委ねる。しかし、それが失敗だった。


「んひゃっ!??」


 静流(変態)が俺の小さな胸を思いっきり掴んだ。


「お姉ちゃんの声可愛い♪」


 それから30分、体を洗うという名目で全身まさぐられるのだった。


 ………もう静流とは風呂に入らない。




 ♢♢♢




 時刻はもうすぐで十二時になる。今日を思い返してみるととても濃い一日だった。

 朝起きると俺は女の子になっていて、昼には着せ替え人形、夜は叶、恵海ちゃんに俺のことを話し、一緒にすき焼きを食べた。

 ほんとに濃い一日だった。


 正直、女の子になったことへの戸惑いや不安がないわけではない。もちろん、戻れるなら男に戻りたい。


 けれど幸か不幸か今日はそれをあまり感じることなく過ごすことができた。

 いつ戻れるか分からない。けれどせめてそれまでは今日の日のような楽しい日が続けばいいと思う。


 俺はベッドで横になり目を瞑る。

 こうして俺の女の子一日目に終わりを告げた。




静流がこんなのになる予定はなかったのに。何がどうしてこうなったでしょう…

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