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音桜金祭 ③

「学校行くのがちょっと憂鬱……」

「あと二日あるんだから元気だせよ」

「だってぇ……」

「いや、まあ……分からなくもないけどな」


 昨日の借り物競走あと、俺達はクラスの皆に囲まれた。「あの発言は告白なのか」と。ここで自分の不用意な発言に気づいた。結果、しどろもどろになりながらなんとかクラスの皆に納得してもらえことができたが、渚と沙耶香の分かってるとでも言いたげな笑顔が解せない。違うって言ってるのに……

 そして気がつけば何故か叶が男子達に慰められてる始末。叶の好きな人に変な勘違いを生むようなことになる前に収まってよかったはずなのに、落ち込んでるように見えた。ちょっとよく分からない。


「でも残念よね。私たちのどっちの団も優勝できなかったし」


 そう優勝したのは俺達の団でも恵海ちゃんの団でもなくまた別の団。どっちが勝つ勝つ負ける負けると言ってどっちも優勝してないのは客観的に見て少し面白い。誰も優勝の恩恵にあずかれないのは残念でならないけど。


「じゃあ勝負は来年に持ち越しかなあ」

「来年は一緒なクラスかもよ?」

「確かに」


 まだまだ楽しいことがある事が手伝って話は弾む。

 学校に着く頃には憂鬱だった気分は吹き飛んでいた。






 ♢♢♢






 昨日の時点で準備はあらかた終わっていたので学校に着いてからすることはそう多くなかった。俺のしたことと言えば室内のデコレーションなどの最終確認を手伝ったくらい。


「『男女混合メイドカフェ』やってまーす!面白い、可愛いが同居した混沌(カオス)な空間となってますので、興味があれば是非いらしてくださーい!」

「い、いらしてくださーい……」


 そして今、最初だから人が少ないからと、叶と一緒に客寄せに駆り出されていた。当然二人ともメイド服着用である。


「叶、声小さい」

「ぐっ、恥ずかしいんだよ……」


 わからなくもない、むしろわかる。今でこそそれなりに慣れてしまったものの、男の時のままこの場に立たせられたら叶と同じ反応しただろうし。けどそれはそれ。


「ほら、宣伝さえすれば二人で自由に楽しんでいいって言ってもらってるんだから、ね?」

「二人で……こんな格好でなかったら………」


 文句タラタラである。困った奴だ。でも理解できてしまうので、つい甘くなってしまう。


「仕方ないなあ、僕一人でもいいよ。サボってることバレないようにしてよ?」

「え?……あ、いや、そうじゃないんだ」


 サボりたいわけではない?じゃあ何が不満なのだろうか。


「何が嫌なの?」

「嫌というか……お前と一緒にまわるなら制服がよかったなと」

「え?」


 しょうもないというか、全く大したことの無い不満だった。思わず笑ってしまう。


「笑うことないだろ!?」

「笑うって!一体何が嫌なのか考えてたのに想像の斜め上の回答がきたんだもん。笑わないなんて無理無理」

「俺の中で結構重要だったんだが……」


 見てて本気なのが分かるから可笑しさが込み上げてくる。ずっと一緒にいたから知らないことはほとんど無い自負はあったけど、こんなことを気にするなんて全く知らなかった。知れたことが凄く嬉しい。


「そんなのはこの後でも、明日でも、それこそ来年だってできるよ。でも、こんな格好して二人で学校歩くのはそうそう無いよ?きっといい思い出になるって」

「明日、来年……そうだな。そうかもな。ただ…」

「ただ?」

「今日のこれは黒歴史になる」

「違いない!」


 叶と向かい合い一緒に笑った、

 この後は担当の時間いっぱい校内を宣伝して歩いた。その合間合間に他の店に寄って食べたり、出し物を見てたりした。楽しかったのは言うまでもない。






 ♢♢♢






「行ってらっしゃいませ、ご主人様」


 たった今席を立ち出ていく客を見送り俺は気を緩めた。


「何とか凌げたね」

「あんなに忙しくなるとは思わなかったよ」


 最初こそ人の入りが悪かったが、時間が経てば人が増え、お昼には大忙しとなっていた。

 純粋に休憩やご飯を食べる場所として利用している雰囲気はあったが、メイド服という普段見慣れない服を着ている友達、家族を見ようとやってくる人が多かった。やった来た親兄弟を見て顔を引きつらせているクラスメイトのシーンを何度見たことか。


「とりあえずお疲れ様。しばらく休んでていいよ」

「うん、そうさせてもらお………あっ」


 次にやって来た客は父さんと母さんと静流、それに叶の両親と恵海ちゃんだった。叶は今接客中でまだ気づいてない。気づいた時が見ものだ。


「おかえりなさいませ、ご主人様、奥様、お嬢様。今お席にご案内致します」


 父さん達は席に座り、その近くに羽柴家も座った。一言二言の会話をして父さん達を案内した沙耶香が近づいてくる。


「奏ちゃんと、羽柴君のご指名。大丈夫よね?」

「人も引いてきたし大丈夫だと思うよ」

「じゃあ奏ちゃん、これが注文だから人羽柴君と持って行ってね」

「わかったよ」


 必要分用意している最中に、叶が戻ってきた。嫌なものでも見たかのような顔をしている。実際、家族にメイドのコスプレを見られるのが嫌なんだろうけど。


「ほら持って。行くよ」

「行かなきゃだめか?」


 心底嫌そうな声で言ってくる。普通はそうだよね。まあ、連れてくけど。


「もう遠目で見られてるから近くても一緒」

「諦めろってことか……」

「そうゆうこと」


 大きくため息をつく叶。既に見られてる以上は今更隠れたところで仕方ないと悟ったのだろう。


「…………行くか」

「うん」


 注文の品を持って父さん達の元へ向かう。変に緊張してしまう。


「どうぞ、お持ち致しました」


 持ってきた品を並べる。皆こっちに視線を向けてくるので叶に何も言えないくらい恥ずかしさでいっぱいだ。


「お姉ちゃん、頑張ってるんだね」


 並べ終えた途端にニコニコと話しかけてくる静流。思わず顔を逸らす。


「仕事ですので……」

「照れないでよぉ〜」


 や、やりにくい。しかも父さんも母さんも微笑んでこっちを見てくるから余計に。

 叶は恵海ちゃんに明日も来るねと大笑いされている。ご愁傷さまだね。


「あ、私たちも明日また来るからね」


 俺の心を読んだかのような一言。全くもって他人事ではなかった。


 人が来ないことをいいことに皆一般開放終了時刻まで居座っていた。その間に渚や沙耶香、その他のクラスメイトとも会話していった。

 楽しかったと言えばそうだけど、同時に居心地の悪さもあった。帰り道には叶と慰めあっていた。









ちょっとずつ増えて減るブクマで一喜一憂してる今日この頃。

楽しんで貰えてるなら嬉しいです。

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