音桜金祭 ②
時刻は一時を回り、午前中よりもさらに気温が暑くなったところで午後の部が始まった。
そして午後の部一発目は借り物競走。俺の出る種目だ。借り物の内容は精神的にダメージを与えるものや非常に条件が絞られてるなどエグいことで有名になってる。もちろん、簡単なものもあるから早くゴールできるかは運次第。
「じゃあ、いってくるね」
「おう、ファイト」
「「いってらっしゃい」」
「頑張ってね」
四人に見送られて自分の列に並ぶ。しばらく準備が終えるのを待っていると去年とは準備の様子が違うことに気がついた。
人が入るほどの大きさのカーテンの付いた縦長の四角いボックスが四つ並んでる。その前にはくじ箱が置かれていて、横にはハンガーラックと思われるものに布を掛けたものが複数ある。
…………嫌な予感しかしない。
『準備が終わったところで、二、三年の皆さんはお気づきだと思いますが去年にはなかったものがありますね?』
放送が流れ、皆の目線がそれらに注がれる。それらは不思議な存在感を放っており、ハンガーラックらしきものに至ってはなんて言うか禍々しい。
『それらは今年の借り物競走に付け加えられた新ルールに使うものです。先程私も教えられたばかりで驚いてます。同時に男子達はご愁傷さまと。』
不穏な放送にざわめき震えあがる男子達。恐らく新ルールの中身には察しがついてるのだと思う。
『では、まず掛けられた布を取ってもらいましょう。お願いします!』
その声に合わせて待機していた人達が布を剥がしハンガーラックが露わになる。そこにかけられていたのは煌びやかなドレス、ナース服や軍服など結構な量の衣装。更には何処かで見たことあるような魔法少女の衣装まである。そう、これは……
『そう、これはコスプレです!今年はコスプレして借り物競走をしてもらいます!!!』
競技者達(特に男子達)からは悲壮感漂う叫び声が聞こえ、観客達は面白いものが始まったと歓喜の声を上げた。
ちなみにこの競技に出る同じクラスの男子は叫ぶことなく「ここでもか……」と呟き、遠い目をしていた。それは俺も同じ気持ちだった。
♢♢♢
あれから新ルールへの詳細な説明を聞き、借り物競走もとい“なりきり借り物競走”が始まった。そしてそれは非常に大きな盛り上がりを見せている。
それも当然で、様々なコスプレをした男子達が借り物を探しに駆け寄ってくるのだ、しかもその多くはミニスカで。笑って盛り上がらない方が無理だと思う。また、全員とはいかないまでもいつの間にか用意されていた小道具とウィッグを使い、言葉遣いもそれらしく真似てくるという皆のノリの良さがさらに場を沸かせていた。
もちろん、男子達だけでなく女子達も大いに貢献している。元々が着飾ることが大好きな生き物であるのでいかなる衣装が当たっても着こなしてみせていた。男子達のアンマッチによる面白さではなく、綺麗さや可愛さなどの正統な美しさで観客を盛り上げ、魅了していた。
この段階でこの競技は大成功だったと言っても過言ではないと思う。そしてついに俺の番がやってくる。
『思いのほか大盛況だったなりきり借り物競走も早くも折り返し。それでは次の皆さんどうぞ衣装ボックスからクジを引いてください』
順番に並び、それぞれ中身を取り出す。俺の取ったクジには《魔法少女ま〇か 05》のもじ。完璧なコスプレ衣装だった。
『皆さんちゃんと着るべき衣装は確認出来ましたか?……ではスタートです』
ぱんっとスタートピストルの音と共に衣装を探しに走る。衣装には番号が振られているのでどんなものか分からなくても見つけることができる。番号が振られているものの、順番通りでは無いので簡単には見つからない。ここでも差がつくのだ。………あ、あったあった。
見つけた衣装を抱え、急いでボックスの中に入る。そこでまじまじ衣装を見てみると白とピンクを基調とし、軽く膨らんだスカート。なんて可愛い衣装だろうか。最近は可愛服を着るのに抵抗が無くなってきたどころかちょっと楽しくなって来てしまった。
が、それとこれは別で衆目の前でこの衣装を着るのは些かというか、とても恥ずかしい。
とはいえ、仮にもこれは競走なのでここで足踏みしてても仕方ない。意を決して服を着替える。昔、静流と見ていた日曜朝の少女向けアニメの主人公達の一人になったような気分にだんだんとなってくる。ものは当然違うけど。
「よっし!バッチリだね!」
鏡を見ながら小さくターンして軽く全身を確認する。問題はなさそうだ。
カーテンを勢いよく開けて、本命のお題箱へ向かう。
『二番目に出てきたのは三組の久留井さん。可愛らしい魔法少女になって登場です!』
…………………恥ずかしい。むず痒いくらい恥ずかしい。
逃げ出したくなる気持ちを抑えて、お題箱の中身を取る。その内容は、
《あなたの好きな人》
俺の中で時間が止まった。間違いなく止まった。止まった時間はすぐに動き出す。そして真っ先に浮かんできたのは叶。ほかに誰と浮かぶことなく叶だけがで出てきた。
え、俺って叶好きなの?一も二もないほどに?………いや、親友も友愛も好きのうちってことに違いない。うん。絶対そうだ。
ちょっとモヤッとしたものを抱えながらもそう自分に言い聞かせて、叶の元へと走る。
「叶!一緒にきて!」
着いて開口一番、叶に大声で呼びかけ手をとる。
「お、おい!お題は何なんだよ!」
そう言えば何も言ってなかったや。教えなきゃわからないよね。
「僕を好きな人を連れてくの!わかった?行くよ!」
「っっ!!?」
急いで叶と走り出す。
俺らのテントでものすごく騒がしい気がするがなりふり構わず叶を連れ、審査員からOKを貰い無事ゴール出来た。見事一位。俺より早く着替えた人はまだ苦戦中のようだ。
「一位だよ!ありがとう叶!」
「どうってことねえよ………」
その顔は急に走ったからかとても赤かった。
体育祭とか陸上大会とかで使うピストル、あれの名前今回調べて初めて知りました。びっくりです。というか、まんまですねw




