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海②

結局土曜日には更新できず……

「くらええええええ」


 静流が声を張り上げ、大きく水しぶき上げながら両手で抱え込んだウォーターガンの照準を定める。そこから放たれた水は勢いよく相手に向かって突き進んでいく。それは長射程、大容量というなかなか高性能な代物で多少遠くても難なく相手に届く。お値段なんと3,980円。父さんも母さんも顔を少し引きつらせていた。


「はははは、甘いよ!」


 静流と相対するは渚。飛んでくる水を華麗に避けて二丁のウォーターガンを向けてお返しとばかりにトリガーを引き静流を狙い撃つ。二人の攻防は激しく、海で足場が悪いとはとても思えないほどよく動く。その二人の動きは別次元だ。



 つまり――――



 俺は沙耶香と一緒に置いてけぼりを食らっていた。


 あれから何とか一段落着いて、まずは皆でウォーターガンを使って遊ぼうということになった。叶と牧谷君はもちろん参戦していたんだけれど、二人に速攻で沈められその辺でぷかぷかと海に浮かんでいる。


「………どうしよっか」

「………放っておけばいいんじゃないかしら?」

「そう、だね……」

「一旦戻りましょう」

「うん」


 俺たちは叶と牧谷君を陸まで引き上げ、叩き起してからその場を去る。叶達はこのままでは悔しいと言ってまた海へ向かっていった。





 三十分後、そこには人間離れした戦闘を繰り広げる少女二人と海に漂い波に揺れる少年二人がいたとかいないとか。






 ♢♢♢






 お昼になり、俺たちは昼食を取りに海の家にやってきた。


「疲れた……」

「全くだよ……」

「叶さんたち情けなあ〜」

「二人とも男の子だろう?」


 午前中からアクセル全開で遊んでた叶と牧谷君は既にぐったりしているのに、それ以上に激しく遊んでいたにもかかわらず静流と渚はまだピンピンしている。


「いやいや、お前らの体力が化け物すぎなんだよ」

「こんなの普通だよね?」

「勿論だとも」


 いや、化け物じみた体力だと思います。


「とりあえず、これでも見て何頼むか決めない?」


 そう言って沙耶香はメニューをテーブルの中央で広げる。そこには手書きであろう文字で少なくはない数の料理の名前が並んでいる。何となくこう海の家っぽさがあると思う。


「思ったよりも種類豊富だな。悩むぞ」


 そう呟く叶。俺も同様で魅力的な料理の名前の数々に何にしようか決めあぐねている。焼きそばにお好み焼き等の鉄板料理に数種類の定食、さらに麺類もあるらしい。


「俺はここはラーメンかな。美味しいし体を動かした後に食べるのが凄い美味いんだよな」

「無難だな」

「私は定番の焼きそばにしようかしら。ハズレが少ないし」


 次々に皆がメニューを決めていくなか俺はまだ決まらな………ん?これは?わざとか偶然か他と比べて明らかに小さな文字かつ目立たないように書かれている一つの奇妙な料理名があった。普段なら怪しんで頼まないのに夏の海の雰囲気に当てられたのかその料理を食べることに決めた。


 皆それぞれで注文して運ばれてくるのを待った。そして皆のものが運ばれてきた時、そいつだけ異彩を放っていた。


「奏…これ食べるのか?」

「やばそうだね…」

「お姉ちゃん……」

「最悪残すことも考えて置いた方がいいね」

「それ大丈夫かしら…」


 皆が口々に言うが正直これは俺もやばいと思う。()()()。何もかもが黒い。もはや何が入ってるのかすら分からない。大きめの器に黒い液体がグツグツと煮えたぎっている。まるで魔女の鍋の中のよう。世界にはイカスミ料理というものがあるので真っ黒な料理が出てくるのは理解できるがこの見た目では如何ともし難い。店員さんは取り皿を使って冷ましながら食べてくださいと言っていたので大丈夫ではあるのだろうけど。


 箸を使って中から取り出したのは何が柔らかいものと謎の固まり。もちろん真っ黒。とても不思議な光景だった。


「た、食べるね。いただきます」


 取り出した黒い物体を口の前まで運ぶ。皆は自分の料理を食べるのを忘れて俺が謎の料理食べるのを見ている。一瞬食べるのを躊躇ったが口の中にそれを放り込む。


 ここから先の昼食の記憶は何も無い。





 ♢♢♢





 気がついた時俺はいつの間にか皆と遊んでいた。曰く「恍惚とした表情だった」とか「目が虚ろだった」とか「『美味しい』ってずっと呟いていた」とか。薄ら寒さを感じるが美味しくて意識が飛んでいたと思いたい。それでもヤバいけどそうじゃないと困る。





 ♢♢♢





「疲れたからちょっと休んでるね。みんなは遊んでていいから」


 俺一人皆から離れる。運動して体が熱くなったのでこの辺りをゆっくり歩き回りながら潮風を浴びて涼んでいた。


「潮風って気持ちいいなあ。火照って濡れた体によくしみるよ」


 本当に気持ちがいい。皆と遊ぶのも楽しくていいけどこうして一人のびのび歩くのもいいものだと思う。そういえば、女の子一人歩いてるとナンパされるなんて言うけど俺なんて誘う物ず「嬢ちゃん、嬢ちゃん」……はい?


 振り向くと俺よりも年上と思われる男が立っていた。


「そうそう君だよ、君」

「えっと……なんですか?」


 俺は怪訝な顔をその男に向ける。


「俺と一緒に遊ばない?食べるものも奢るしさ」

「結構です。友達と来てますので」


 そう言ってその場を立ち去ろうとするが、男は俺の腕を掴んできて離さない。


「離してください!」

「友達は女の子?なら俺も友達呼ぶからいいだろ?」


 その男は諦めない。何がなんでも俺を捕まえたいらしい。力を振り絞って逃げようとしてもそれを超える力で決して逃がそうとしない。力に任せて俺の体を寄せようとしてくる。


「や、やめてください!僕に構わないで!」

「僕っ子か。いいね気に入ったよ」


 男がさらに力が込める。その目は欲望で濁っている。怖い、怖い、こわいこわいこわい。体は震えだんだん力は入らなくなってくる。一方で男の力は増していく。周りに視線を投げかけるも皆目を逸らしどこかへ足早に去っていく。


「ようやく大人しくなったか。じゃあ行こうか」


 男がさらに強く引っ張り俺を引きずるように連れていこうとする。もうだめだ……


 突然横から伸びてきたその手は男の手を掴む。その手の主は……


「か、かな…た?」


 その手は俺のよく知る親友、叶のものだった。


「そんな顔すんなって。せっかくの海なんだからさ」


 優しい声音、怖くて震えていた体が心がゆっくりと落ち着きを取り戻していくのが分かる。


「なあ、この子は俺の連れなんですよ。だから黙って引いてくれませんか?ね?」


 さっきと同じような声のはずなのにその声はとても冷たい。もしかするとこの辺りの気温を下げてるのではと思うほどには。


「ちっ!連れって男かよ!痛えからその手離せよって!」


 叶が手を離すと男も俺の手を離しどこかへ歩いていった。俺は手を離された途端力が抜け体が崩れ落ちる。


「おっと。大丈夫か?歩けるか?」

「うん………ただ、掴まらせて」

「いいぞ。じゃあ。戻るか」


 俺は叶の腕を掴み一緒に歩く。周りからは好奇の目をしばしば向けられていて恥ずかしいけど離せないし離したくなかった。叶の体温を感じる、これがどうしようもなく安心できた。離せばまた体に力が入らなくなる気がしている。


 ああ………俺は何時からこんな風になってしまったのだろう。さっきの出来事で冷えきった体がまた熱を持ち始めた。どうしてこの心臓は静かに動いてくれないのだろう。おかしいはずなのにこれが心地いい。本当に俺はどうなってしまうのだろう。


 結局、皆の所に着くまで手は離さなかったし着いても離す気にはなれなかった。


 ちょっとからかわれたのが癪ではあったけど。






あんな後書きを書いて感想をくれる人がいるとは正直思ってなかったので驚きました。非常に嬉しかったです。ありがとうございます。

次は何も言われてないけど感想書きたい!って思われるように頑張りますので暖かい目でお願いしますね?


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