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夏休み前と言えば?

2週連続で日曜日更新になってごめんなさい

「これなんてどうだい?」

「やっぱりフリルよね」

「スク水に決まってます!」

「静流ちゃんがどんどんダメな方向に……」


 同級生の女の子達(と妹)が水着をその手に持ちながら楽しく喋ってる姿はいつまでも見続けていられそうなほど和やかな光景だ。見ているだけで楽しい気分になれると思う。それなのにこの会話が進んでいくごとに俺の心が死んでいく。

 静流が笑顔でこちらを向く。その笑顔も本来なら溢れんばかりの幸せエネルギーが周りを癒すはずなんだけど、今の俺には心の死を加速させる効果しか及ぼさない。


「お姉ちゃ〜ん」


 閻魔様(しずる)からの呼び出しがかかる。刑執行は目の前まで迫っている。


「次はこれ着てね!」


 刑の内容が言い渡される。ほか三方からの視線が逃げ出すことを許さない。渡された水着は軽いはずなのにずっしりとした重みを感じる。


「着替えてくるね………」


 水着を抱え更衣室に向かう。


「はあ……恨むよ叶」


 この原因の作った親友のことを愚痴りながら重い足を懸命に動かした。




 ♢♢♢




 先週の日曜日、いつものメンバーが俺の家に遊びに来た時のことだった。


「奏ちゃんも羽柴くんも強すぎよ……」

「ゲームの世界は非情なんだよ?沙耶香」


 たった今、俺にキャラを飛ばされて残機が無くなりプレイ不可になってしまった沙耶香に労いも何も無い言葉をかける。

 牧谷君も一緒にやってたけどもっと早くに退場となった。叶にぼこぼこにされて少し可哀想だった。


「よそ見とは余裕だな奏」


 叶の操作するキャラが剣を振りかざし、俺のキャラに襲いかかってくる。この攻撃は難なく避ける。


「今の攻撃を避けれるくらいにはね」


 俺たちは黄色のネズミやただの村人、赤い帽子のおじさんなどの様々なキャラを使って遊ぶ巷で話題のテレビゲームで遊んでいた。


「叶を倒して限定プリンは僕のものにするからねっ!」


 このゲームの勝者には今月数量限定で発売された限定プリンが貰えるのだ。なんとしても貰いたい。


「プリンはともかく、お前に負けるわけにはいかねえな!」

「僕が勝つから!!!」


 そこからは激闘だった。殴り殴られ、斬り斬られ。空から落ちてきた道具を駆使して戦う。飛ばし飛ばされ、落とし落とされ。俺たち二人の残機は共に一ずつ。ここから先が本当の戦いだ!

 そして、その声は狙いすましたかのように俺に向かって飛んでくる。


「奏ちゃん、ゲームしながらでいいから聞いてね」


 今からがいいところなんだけど、無視をするほどのことでもないので軽く返事をする。


「うん、なに?」


 おっと!叶、連携してるんじゃないの?ってくらいいいタイミングで攻めてくるんだけど。それでも負けないけどね。


「夏休みに入ったらみんなで海に行かない?」


 それは楽しそうだからぜひとも行きたい。


「うん、行こ行こ」

「それでね…」


 それで?っと、叶も甘いね。俺がそんなのに引っかかると思ってるのかな?……むっ、ここに来て畳み掛けてきた!負けない!


「みんなで水着買いに行こうよ」

「うんいいよ!」


 叶の猛攻を避けていたために特に深く考えることなく返事をする。叶、また上手くなってるんだよね。俺も腕は磨いてるんだけど………今なんて?


「恵海ちゃん、今なんて………」



『K.O.』



 画面からは無慈悲にも勝負の終わりを告げる音がする。思いっきり目を逸らした時に決められてしまった。

 プリンは叶の胃袋へ、俺は着せ替え人形行きが決定した瞬間だった。




 ♢♢♢




 俺以外のみんなが共謀して俺から水着買いに行く言質を取ろうとしていたのがびっくりだった。しかも真っ先に叶が協力したというから驚きも一入だった。


「あの後、叶がプリンはくれたからそれは嬉しかったんだけどね…」


 着替えて鏡を見る。そこに写るのはすっかり可愛らしくなった俺の姿。全体的に小柄なこの体に薄い緑色でフリル付きの水着が可愛らしさをより一層際立ててる。本当に去年の俺とは天と地ほどの差がある見た目になったよね。


「奏ちゃん、着替えたかい?」


 渚から声をかけられる。ここにいる時間が少し長かったのかもしれない。


「着替えたよ。今見せるね」


 カーテンを開けて皆に水着姿の俺を披露する。悲しいかな、したいわけでもないのに反射的に色々なポーズを決めてしまうのは。


「これなかなかいいんじゃないかしら?」

「そうだね」

「お姉ちゃん、可愛い」

「似合ってる似合ってる」


 あ、結構高評価じゃない?これ買って終わりにしようそうしよう。


「じゃあこれで……」


 体の向きを変えてカーテンの中へ帰っていこうとして、静流に腕を掴まれる。その顔は邪悪だった。


「まだまだ続くからね?」


 ですよねぇ…………

 帰ることを諦めて再び着せ替え人形に身を投じることとなった。俺もいつか進んでするのようになるのかな?流石にないよね。




 ♢♢♢




 あれからすっかり時間が経ち日が傾いてきていた。俺の水着は結局最初の方に着ていた薄緑のフレアビキニなるものを購入することになった。いつも思うことだけど最終的に買うのは最初の方に選んだ服になることが多いからそれならわざわざそんなに見なくてもと思ってしまう。


「いや〜、楽しんじゃったね」


 皆一様に頷く。俺も最後には何気に楽しんでしまっていたので頷いておく。


「奏ちゃんの水着も決まったし、夏休みが楽しみだね」


 そんなのを楽しみにされても困るんだけどね。


「叶が褒めてくれるといいね」


 体が硬直する。あの一件以来特に同じようなことは無かったけど、頭の片隅から離れず今みたく勝手に体が反応してしまう。


「べ、別に叶は関係ないよ……」

「へえ〜?まあいいけどね。恥ずかしがる奏ちゃんも可愛いし」


 そんな姿を可愛がられても困る。


「そうですよ。お姉ちゃんはどんな時でも可愛いんですから!」


 力説しないで…本当に……


「まあまあ、愛されてていいじゃないか」

「そうよ」


 それは確かに、そうだけど……


「まあまあ。夏休みが楽しみってことでいいでしょ?」


 話題を逸らしたのは誰だと視線を送るが知らん顔されてしまう。せっかく話しが戻りそうなので何も言わないけど。


「ああ待ち遠しいなあ夏休み!」


 帰り道の俺らを明るく照らす太陽。夏休みはもう少し。





総合2万PVいきました。ちょっとずつですが皆さんが見てくれると思うと嬉しいです。

これからも頑張ります。

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