デパートで
昨日のうちに投稿しようと思ってたのに…
書くのって難しいです。
その日の午後、俺は母さん、静流と一緒にデパートへ買い物へ行くこととなった。
「女の子になったんだから早めに生活必需品を買いに行きましょう」と母さんの談。
俺はもっともだと思ったので深く考えずに首を縦に振った。しかし、俺はこの判断をすぐ後悔することとなる。
♢♢♢
俺は目の前に広がる煌びやかな空間に圧倒されて後ずさった。そのまま逃げようとも考えたがいつの間にか母さんと静流に片腕ずつ掴まれている。しかも力が強くて抜け出せない。どこにそんな力があるのだろう。
「奏?どうして逃げようとするの?」
「そうだよ、お姉ちゃん。自分で行くって言ってたのに」
静流のお姉ちゃん呼びは今の俺をお兄ちゃん呼びしては違和感しかないからだそう。
そして二人ともとびっきり笑顔だが、俺には悪魔の微笑みにしか見えない。
「し、下着を買いに来るとは思ってなかったんだよ」
「だって正直に下着を買いに行くよって言ったら奏ついてきた?」
「そ、それは……」
「拒否するに決まってるわよね。だからあえて生活必需品って言ったの。そこで察せなかった奏の負けよ」
母さんに論破されて項垂れるしかなかった。
「静流、ちゃんと捕まえといて。その子隙を見て抜け出すかもしれないから」
「任せてよね。今までならともかくもう筋力で負けそうに無いし。逃げちゃダメだよ?お姉ちゃん」
「そんなわけないだろ………」
女の子になってしまった俺は身長が縮んでいて妹にすら負ける始末だった。案の定、筋力も落ちていてこれも妹に勝てなかった。
つまり、静流にガッチリ捕まえられてしまえば俺は逃げることが不可能なのだ。
「さあ、行くわよ」
母さんを先頭にして静流に引っ張られながら魔境入っていった。
♢♢♢
ランジェリーショップでまず採寸してもらい、売り場まで連れていかれた。
しかも、二人ともが自分で選べというのだ。これでも健全な男子だった俺にとって家族の前で好みの下着を選べというのは単なる拷問でしかなかった。
それだけでは終わらず服屋を渡り歩いて着せ替え人形にさせられた。
特に静流の持ってくる服がどれもこれもいわゆるロリータファッションなのだ。
途中から鼻息を荒くしている静流の姿を見てしまい、俺の妹はもうダメかもしれないと思った。
母さんは花柄のワンピースやボーダーシャツにデニムパンツといった堅実?な服を持ってきてくれるので謎の安心感があった。
よくよく考えてみるとロリータファッションを着せられることによって母さんの持ってくる服を着る抵抗が薄くなっていったような気がする。
もしかして二人が仕組んだ巧妙な罠!?……いや、それはないな。静流のあの目は本気だったしな………
そんなこんなで帰りの時間。俺たちの手には溢れんばかりの袋があった。その荷物には俺の物ばかりではなく静流の物もいくらか含まれている。
やっと帰れると安心したのも束の間、目の前に現れた人物によって硬直を余儀なくされた。何故こうも会いたくない時に奴はいるんだろうな。
「どうしたの、急に止まって……ああ、そうゆう事ね」
俺が止まった理由を察した母さんはその人物の元まで歩いていく。
「ちょっ、母さ…」
「あら、奇遇ね叶君。今日は何しに来たの?」
「ん?あ、凛さん」
母さんが話しかけたのは俺の親友兼幼馴染である羽柴叶。家も比較的近く、家族ぐるみで付き合いのあるため母さんもよく知っている。
ちなみに叶が母さんを“凛さん”と呼ぶのは母さんの名前が久留井凛で、苗字では混同しやすいのでそのまま名前で呼んでもらった形だ。
決して母さんが言わせてる訳では無いのだ。
「今日は姉貴の付き添いという名の荷物持ちですよ。自分で持てないなら我慢してくれると俺としては有難いんですけどね。
凛さんはどうしてここに?」
「この子たちの買い物よ。もうすぐ新学年でしょ?だから新しいものをね」
そう言いながらおれの頭を撫でてくる。明らかな子供扱いに抗議を目を向けるが軽く無視された。
「そうなんですか。ところでその子は?俺も見たことない子ですよね。てか、何故か警戒されてるし」
「緊張しちゃってるのかしらね。どうせすぐにバレるのに」
確かにそうだけど!遅くても二週間後にはバレるけど!俺にも心の準備というものがあるんだよ!
母さんの不用意な発言が俺の心を荒だたせるなか、その発言に便乗してか静流も爆弾をぶち込みにかかる。
「ねぇねぇ、叶さん。うちのお兄ちゃんどこにいると思う?」
本日何度目になるか分からない冷や汗をかく。
「そういや、奏の奴いないな。いつも俺と同じように荷物持ちさせられてんのに」
いつもとは失敬な。まるで召使いじゃないか。
「もう叶さんの視界に入ってるんだよ?しかも真正面」
「いや、俺の目にはその小さい子がいるようにしか見えないんだが」
「察しが悪いなあ、その子がお兄ちゃんだよ」
勝手にバラされてしまった。静流のやつめ。
「いやいやいや!奏は男だし身長ももっとあるだろ!?冗談きついぜ?」
まあ、当然の反応だな。昨日まで男だった俺が女になってるなんて普通誰も思わないよな。
「お兄ちゃん、二人だけの秘密的なのない?それを言えば一発だと思うんだけど」
静流が耳元で囁いてくる。
はあ、ここまで来たらもう今更だよな。この女の子が奏だと確信させてやろう。
俺は叶の元まで行く。
「ど、どした?何か用か?」
しゃがんでくれた叶の耳元で呪文を紡ぐ。
「タンスの右から二番目ボドゲの中、机の引き出し二重底の下、本棚の……ん!?むぐぅんん!!!」
「分かった!分かったから!確かにお前は奏だ!だからここで言うのはやめてくれ!!?」
叶は涙目だった。
それに頷くと口を抑えていた手を離してくれた。あー苦しかった。
「まじかよ……奏がそんな可愛らしく…」
「気の所為、可愛いとか気の所為だから」
見た目はともかく心は男なので叶とはいえ男に可愛いと言われるのはゾッとする。
その後今夜は叶を家に呼ぼうということになった。俺の身に起きたことを説明するために。