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衣装合わせ

遅れてごめんなさい。

「皆!()()()()()()()()を用意してきた!サイズは合っていると思うがしっかりと試着してほしい」


 渚と沙耶香、ほかの女子何名かで大量のダンボール運んでくる。あの中にメイド服が詰まってるのかな?

 その報告にクラスの男子たちは大声を上げて喜ぶ……なんてことはなかった。全員目を見開いて固まっている。


「男子たちはもっと騒いでもいいんだよ?私たちのメイド服姿が見れるんだからね。それに決めた時はあれ程騒いでいたじゃないか」


 しかし男子たちの大半は苦笑いで返してくる。クラスの出店の内容があれでは仕方ないかもしれないけど。ちょっと話し合いした後で男子たちから代表者で牧谷くんが出てくる。


「いや、まさか本当に()()()用意してくるなんて思ってなかったから皆驚いてるんだ」


 それに関しては俺も同感かな。()()()()()()()()()()()()()()()を用意してくるなんて夢にも思わなかった。そう、俺たちは男子も含めたメイド喫茶を開くことになっていた。


「さあ、君たちも着替えてくるんだよ?」


 渚が心底楽しそうに笑う。男子たちにはきっと悪魔の微笑みに見えてるよね。


 …………え、俺は嫌じゃないのか?そんな葛藤はとうの昔に捨ててきたよ……



 ♢♢♢




 そこには名状しがたき者共がどっと集まり群れを成していた。用意されていたメイド服はコスプレのミニスカ丈のものただ一種類。何を言いたいのか言うと、男子たちの部活で鍛えられた逞しい脚が短いスカートの中から生えていて、その健康的な脚を惜しげも無く外部に晒している。それはまさしく阿鼻叫喚の地獄絵図だった。


「なんだ、皆似合ってるじゃないか」

「「「「そんなわけあるかぁぁっっっっ!!!!」」」」


 まあそんな反応になるよね。さて、叶はどこかな?どんな見た目になったか見てからかわなくちゃね。あ、いたいた……んくふふっ!やばい!それはやばいって!

 その見た目の面白さ故に勝手に口角があがっていくのを我慢しながら叶のもとに歩み寄る。


「か、叶。メイド服を着、た感想は……どう?」


 吹き出さないように喋りかけるのがやっとだった。


「こんにゃろう。笑うのを我慢してまでからかいに来やがったか」

「からかいに行かない理由がないよね」

「まあそうだよな………」


 軽く肩を落とし、どこか遠くを見つめてる。女装したらからかわれるという運命を悟ったらしい。


「そう悲しまなくても似合ってるって」


 改めてその姿をじっくりと観察する。

 ほかの男子たちと同じように引き締まった足がスカートから顔を覗かせていて腕もがっしりしているので(おおよ)そ可愛いとはかけ離れてるのにどこかしっくりきてしまっている不思議。なんでだろう?叶だけはどこかよく見えてしまう。


「はいはい、ありがとう」


 ちょっと不貞腐れてますって態度作ってるが少し面白くて軽く笑ってしまう。俺が笑うのを見て叶は苦笑い。


「くっ、それより奏もメイド服ちゃんと着てんだな」

「もちろん。ほらどうどう?それなりには見えるでしょ」


 体を動かし叶に見せびらかす。


「なあ、そんなことしてても平気なのか?」

「もう慣れたよ………」

「……そうか」


 そんなに哀れむような目で見ないでよ。せっかく慣れてきたところなんだから……


「いや、でも似合ってる。()()()()()()()()()



 その瞬間



 俺の心臓はドキッと跳ね上がった。同時に思考も停止してしまう。


「え、あ、あう……」


 言葉にならない。ちょっと前までは気持ち悪いとさえ思っていた言葉なのに全く嫌な気がしない。むしろ―――


「おいどうした、急に固まって。大丈夫か?」


 叶からの言葉が俺の思考を現実にを引き戻す。心臓はまだ忙しなく動いてる。


「だ、大丈夫。なんともないよ」


 叶に何も悟られないように何とか言葉を紡ぐ。バレませんように。


「そうか?ならよかった。流石に急に動きが止まってびっくりしたぞ」

「うん、ごめんね。本当に大丈夫だから」


 誤魔化せたかな?気がつけばついさっきまで休むことを知らなそうな様子の心臓はなりを潜めている。


「奏ちゃん」


 後ろから声をかけてきたのは沙耶香。そのまま腕を俺の首にまわして抱きつきてくる。これは頻繁にあるわけではないけど慣れてきた。


「ふふふ、抱きつかれていつも赤面になる奏ちゃんは可愛いわね」


 ごめんなさい。見栄はりました。まだドキドキします。


「分かってるなら離れてよ」

「はーい」


 すぐに離れてくれたのでよかった。くっつかれてるとちょっと悲しいことがあるから。


「羽柴君のメイド姿もなかなかね。ほかの男子に引けを取らないわ」

「それ、褒めてないよな」

「気のせいじゃないかしら」


 一通り叶との会話を終えた沙耶香は俺を見てくる。


「二人は本当に仲がいいわね。着替えたら真っ先に会いに行くものね。しかも羽柴君はちゃんと奏ちゃんを褒めてたらしいからポイント高めね」


 そう言いながら沙耶香は俺の目を覗いてくる。なんかさっきの全てが沙耶香にはバレていそうだ。まさかね?




 ♢♢♢




 その日の夜、俺はベットに横たわり今日のことを考えていた。


「なんであの時は、叶に褒めらただけで心臓が激しく動いたんだろう」


 似合ってる、可愛いはさんざん周りに言われてきたし、叶からも言われたことはある。なのにどうして今日に限ってはあんなことになったのだろうか。


「姿や言葉遣いは変わっても自分は男だっていう心は変わらないと思っていたんだけどなあ」


 なのに今日、叶に可愛いと言われて嫌とか気持ち悪いではなくて()()()と感じてしまった。自分はだんだんと変わってきているという実感がゆっくり、でも確実に湧いてきている。


「変わってしまうのはちょっと怖いなあ……」


 俺が俺でなくなるかもしれないという想像が俺の心を蝕んでく。


「深く考えないようにしよう」


 そうしないと泣いてしまいそうだから。


 そうして俺はベッドの上で小さく丸まりながら眠り、早く明るい朝が来ることをひたすらに願った。




沙耶香が久しぶりにちゃんと出てきたような気がしますね……短いですけど。


ほかのキャラも生かさなきゃですね

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