学園祭に向けて
遅くてごめんなさい。
追記:サブタイトル変更しました
ゴールデンウィークが過ぎ去った頃もすでに懐かしく、6月半ばに差し掛かる。
「はい、では9月に行われる音桜金祭での担当やステージでの出し物を順に決めていきたいと思います」
“音桜金祭”
初日に体育祭、二、三日目に文化祭という三日間二部編成の学園祭。この学校で一番盛り上がる行事だ。
さらに体育祭では優勝団には多くはないが文化祭の時に使える割引券や優待券が貰えるということでその勝負は熾烈を極める。その壮絶さ故に毎年少なからずけが人や倒れる人がいるらしい。もちろん去年もいた。
「今年ももうそんな時期か……」
去年は当然男として競技に出ていたので競技の厳しさが身に染みていて少し億劫だ。……もう棒奪いなんて出たくない。
「あ、でも今年は女子の競技だから少し楽かも」
「奏ちゃん、それは甘いよ」
渚が反論してくる。実はお隣さんなのだ。
「え?それはどういう…」
「まあ、聞いてみればわかるよ」
よく分からないが言われた通りにクラス長の言葉の続きを待つ。
「今年はなんとわれらが甘味処『天草庵』の割引券が優勝団に配られます!」
きゃーっとクラスの女子達から歓喜の声が上がる。よく通う女子には嬉しい特典だ。
かくいう俺もとても嬉しい。四人で初めて行ったあとも皆で何度か行った。
「学園祭が盛り上がるのに一役買ってくれればという事らしいです。あとは“今後とも天草庵をご贔屓に”だそうです。」
全員が来たことあるわけじゃないからこれを機に通う人を増やす算段なのだろう。学園祭を盛り上げ、店の利益に繋げようとする。天草庵の店長はやり手かもしれない。
でもおかげで…
「女子の競技もハードそうだよねぇ…」
「だろう?」
今年は楽ができると思ったのになあ。
「楽できそうになくて残念だったね」
「ほんとだよ……」
そう都合よく行かないよね……でも天草庵の割引券は欲しいから頑張ろうかな。
なるべく楽なやつで。
♢♢♢
音桜金祭での担当は滞りなく決まった。ただステージの出し物は候補は幾らかあがったものの他のクラスとのすり合わせもあるので候補を決めるだけにとどまった。
他にも出場競技とか決めなきゃいけないことはあったけどそれは休み時間や放課後を使って決めるそう。
去年もそうだったしわざわざ授業を潰してまでしなきゃ決まらないようなものでもないからね。
そして放課後、既に勉強会を終えて叶、恵海ちゃんと帰り道を歩いていた。
「ねえねえ、叶と恵海ちゃんは何の競技に出るか決めた?」
帰り道の話題はもちろん音桜金祭。これから準備にはいるところだけれど、この準備をする期間もなかなか楽しい。
「そうだな……去年は棒奪いだったしな……今年は騎馬戦でもするか?」
「ん〜、私は去年と同じで綱引きでもしちゃおっかな?案外楽しいのよねあれ」
そう、二人とも何気にアクティブなのだ。運動部になんて所属してないのに。そのへんがやっぱり姉弟なんだなぁって感じがする。
「凄いなぁ〜そんな激しくて疲れるような競技に出ようなんて。」
「それで、奏ちゃんは何にするの?」
「僕は借り物競走かな?早く走れなくてもいいし、配点もそんなに高くないから」
俺は去年学んだんだ、配点の高い競技ほど過酷になるって。
「去年は生き生きと棒奪い選んでたってのにな。去年のやる気はどうしたよ」
そんなものは決まってるじゃないか。
「去年のやる気は去年に置いてきたよ……」
「去年の棒奪いはやばかったからな……」
「叶も奏ちゃんも二人とも何とか無事でよかったよね……」
去年のあれはトラウマものだと思う。うん。
「まあまあ湿っぽい話は置いといてさ!楽しい話しよ?ね?」
「そうだよね」
「そうだな」
せっかくこれから楽しくなるっていうのに最初が暗くっちゃ勿体ないもんね。
「ともかく借り物競走なら僕でも何とかなりそうだよね!借り物次第では一位だって目じゃないよ!」
「そうだな。あとは運良く簡単なやつを引けるかどうかだな」
「恋人いないのに恋人を連れてこいなんていうのも去年あったじゃない?あれはちょっと可哀想だったよね。周りは大笑いだったけど」
「「あった!」」
それを引いたのが俺と同じクラスの男だったので男全員で大笑いしてたなあ。
「そんなエグいやつこないよ!それにくると思ってるからくるんだよ」
「そこは奏のくじ運次第だな」
きちんと簡単な借り物を引いてみせるよ。
「いいの引ければで天草庵の割引き券は僕のクラスのものだね」
「ほほ〜う?奏ちゃんは私のクラスに勝てると?」
結構自信があるらしいね。でもそれは俺も同じ。
「もちろん。僕のクラスが大活躍して団を勝利に導くに決まってるよ!ね、叶!」
「んあ?あーうんそうだな」
気のない返事だなあ〜。やる気云々の話をさっきしてたのは誰だったのやら。
「私たちが勝つから」
「いや、僕たちだよ」
俺と恵海ちゃんの視線がぶつかり合う。火花が飛び散りそうなほど熱く鋭い眼差しを交わしている。
「なんか入り遅れた感が満載だな。というか楽する気満々のお前がそれを言うんだな」
叶一人が俺と恵海ちゃんを眺めてポツリと呟いた。
叶、それは言わない約束だよね?




