それぞれの夜
〜奏の部屋〜
あの後、男二人は叶の家に行ってそこで泊まるらしい。女子が寝泊まりする場所にはいられないそう。一名駄々をこねていたがもう一人に引きづられて出ていった。あわれ。
時刻は二十四時手前。俺の部屋の床で布団を並べ渚、沙耶香、恵海ちゃんが所狭しと並んでいる。静流は俺と一緒にベッドにいる。妹の特権だとか何とか。そんなに広くないのでこちらもぎゅうぎゅう詰めだ。悲惨な朝になること間違いなしの布陣である。
「皆、今からすることは分かってるね?」
渚は声を潜め俺たちに問いかける。
「お泊まりの定番なんだから当然でしょ」
恵海ちゃんが応え、俺以外が賛同するようにこくこくと首を振る。俺も話すことは何となく察してはいるが元々が男だったのでちょっと躊躇いがある。
「では恋バナの」
「「「「始まりだぁ〜」」」」
「だあー」
声が小さいながらも確かな一体感と熱があった。俺を除いて。
「メインは間違いなく奏ちゃんになるから最後だね」
皆うなづいてる。なんでこんな時に限って意見が一致するんだろう。
それに恋バナなんて特別何も無いからメインにされても困る。むしろ皆の方が話を持ってそうなん……
「話題提供したいところなんだけど私は特にいないんだよね〜これが」
「「「わかる」」」
なんてことでしょう。早くも俺の番が来そうです。
「え、みんなもっと何かありそうなイメージだったんだけど!?それに恵海ちゃんはモテてるでしょ?」
恵海ちゃんは人当たりがよく明るくてかわいいので男女共にかなり人気がある。俺や叶も何人かに紹介してくれと頼まれたこともあったくらいだ。自分で頑張れと言って断ったけど。
「実際のところはどうなんだい?」
「僕も紹介してって言われただけで告白されてるかは知らないから気になるなぁ」
「奏ちゃんもいつの間にかノリノリじゃない……」
自分の番が来る、それを避けたいだけです。
「まあいいけど、あんまり面白いことないよ?」
例えそうだとしても続けてもらわなければ。
「今年はまだされてないけど去年は六回されたかな?全部断ったけどね」
「そうなんだ!やっぱり良いそうな人いなかった?」
六回も告白されて全部断るからには何かしら理想はあるんだろうな。
「それもあるけど友達と自由にゆっくりと遊びたいなと思って。束縛されそうでしょ?」
「「「わかる」」」
どうやら恋バナする前段階すら満たしてなかったようだ。定番とはいったい何だったのか。
「私たちの恋愛への執着の薄さが露呈しちゃったわね」
「私はそれでも楽しいから構わないけどね」
このまま皆で寝る流れに持ち込もう。俺の話が始まる前に。
「みんな話すことなさそうだからちょっと残念だけど早めに……」
「奏ちゃんの話が残ってるわよ」
「お姉ちゃん、逃げようとしても無駄だよ」
「私から話聞いたんだから逃げるのは良くないよねぇ〜」
「諦めたまえ」
逃げ場は既になかったようだ。
「そんなこと言っても僕から喋れることなんてないよ?」
面白い話なんてありはしないのにね。
「皆聞きたいのは一つしかないよ、奏ちゃん」
はて、何かあったかな?
「叶との関係以外ないじゃない」
それかあああ!……落ち着け落ち着くんだ。
「いや、だからね?僕と叶は親友でそれ以上でも以下でもないよ」
何度も言ってるのに伝わらないのかな……
「そうなんだけどね、二人もうは男と女じゃない?奏ちゃんは叶にベッタリだし、叶も満更でもなさそうだから気になっちゃって」
「そんなわけないよ」
ベッタリって言っても俺と叶は一緒にいることが普通になってるから特に何も変わってないし何が変わることもない。
「じゃあお姉ちゃん、叶さんに突然撫でなられたり抱きしめられたりしたらどう思う?」
え、そんなのそんなの……
「そんなの気持ち悪いに決まってるよ。それにちょっと怖い」
いくら仲が良くてもしてもいいこと悪いことくらいはある。明らかにアウトだよ。
「まあそういう反応だよね。それじゃあ、叶さんに恋人ができたら?」
「リア充爆発しろ。羨ましい。その席かわって」
「うわー即答。奏ちゃんの妬みっぷりがよくわかるよ」
ないとは思うけど万が一、億が一の確率で彼女ができたら応援はするだろう。おめでとうとか言って。
「けど、この様子だとまだ脈なしかな」
「叶くんも気の毒ね」
あ、でも……
「僕と一緒にいる時間が減るのはなあ……」
「「「「……………」」」」
あれ?なんで皆固まってるの?
「「「「奏(お姉)ちゃんがデレた!!」」」」
え、なに?俺何か言っちゃったの???
「この分かってない感じお姉ちゃん無意識だったね?」
「無意識にあれはやばいよね」
「小悪魔的と言ってもいいかもしれないね」
「可愛いわよね」
話についていけない……
結局、皆が寝落ちするまで話は盛り上がり続けた。解せぬ。
♢♢♢
〜叶の部屋〜
武也を引きづり俺の家へ帰と帰った。あの中に残ろうとするのは勇者というか愚者というか。
俺たちは夜が明けるまで遊ぶ……なんてことはせずに程々に遅くなったところで寝ることにした。明日というか今日の朝も奏たちと遊ぶし遅れて困らせたくはない。
「おやすみ」
それだけ言って寝ようとするが、
「なあ叶……お前奏ちゃんのことどう思ってんの。好きか?嫌いか?」
まだ寝かせてはくれなそうだ。
「そりゃ好きだろ。伊達に親友はしてねぇよ」
ずっと一緒にいるんだ嫌いだったらここまで付き合いがあるってことは無い。
「おいおい、分かってんだろ?俺が聞いてるのは男として女の奏ちゃんが好きかってことだ」
「…………寝るぞ」
そんな与太話に付き合ってはいられない。
「今頃はあっちでも同じような話してるだろうからいいだろ?で、どうなんだ」
「どうもこうもない。俺はあいつの親友。ただそれだけだ」
そうそれだけなんだ。
「ふーん、まあいいけど。お前がそれでもいいならな。でも手遅れになる前に答えは出しておけよお前の為だ。じゃおやすみ」
「余計なお世話だ……ってもう寝てやがる」
なんて寝つきのいいやつなんだ。国民的アニメの早寝の達人といい勝負をしそうだ。
「奏か………」
口の中で小さくその言葉を転がす。あまり考えないようにしていたからか頭から簡単に離れそうにない。
「俺はあいつを好きなのか?女として……」
これはしばらく寝れそうにないな。武也のやつ本当に余計なことをしてくれたもんだ。
結局俺が寝たのはこれから二時間たった頃だった。
特に書くとことが思い浮かばない………あ、この前総合一万PV超えました。読者様には感謝です。




