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初めての日

テンプレなあの日です。今までで短め。

 小鳥がさえずり、柔らかく明るい光の差し込む爽やかな朝。

 まどろみの中にいる俺に『起きろ、起きろ』と囁きかけてくる。もうちょっとと思いもするが日が当たり朝だと認識してしまってはもう寝るのも難しい。渋々体を起こす。うっ……だるいな………


 昨日も少しだるかったから早めに寝たのを思いだす。風邪でも引いてしまったのだろうか。ふと、股間付近が湿っていることに気づく。え?漏らした?この年になって?


 布団をめくりおずおずとズボンの中をのぞき込む。下着は真っ赤に染め上がっていた。鉄っぽい臭いがする。どうやら血のようだ。お漏らしじゃなくてよかった…………………え?血?


 何度も中を覗く。色、臭い、それは間違いなく血であった。


「うわぁぁぁぁぁぁああああああぁぁぁああああ」


 驚きのあまり俺は絶叫するのだった。




 ♢♢♢




「生理ね。本格的に身体が女の子になってきたってことかしら」



 ―――生理―――



 保険の授業でも何度か習っている。しかし、男だったために自分には関係ないと軽く流していた部分でもあった。たしかに血が出るとかだるくなるとかってのも言ってたなあ。

 ……まさか後で自分が女になるなんて想像もしてなかったよ。


「でも丁度ゴールデンウィークの始めでよかったわね。一週間前後続くからもうちょっと遅かったら皆が遊びに来る日に被ってたかもしれないわ」

「い、一週間も?」

「そうよ。個人差はあるけどね」


 こんなだるいのが一週間も続くなんて……しかも毎月あるらしいからやってられない。


「ところで初めての生理を迎えたら赤飯を炊いて祝うっていう習慣があるけど奏はどうする?祝う?」


 うわっ……そんな習慣があるんだ……成長している証と考えればめでたいことかもしれないけど大々的に祝われるのは恥ずかし過ぎる。


「それはちょっと恥ずかしいかな……」

「まあそうよね。今日は普通にご飯にしましょうか」


 赤飯は回避できてよかった。本当に恥ずかしいから……そういえば静流の時はどうしたのだろうか。


「静流の時はどうだったの?」


 興味本位で母さんに訪ねてみた。


「静流の時?あの子もパーっとお祝いされるのは恥ずかしいって言ったから赤飯は炊いてないわよ。代わりにケーキだけ買ったわね」


 そうだったんだ。全然知らなかった。それにケーキ……ちょっと食べたいかも。


「母さん、その、ケーキ……食べたい……」

「ふふふ。後でケーキ買いに行きましょう」

「ありがと」


 今夜が少し楽しみになった。




 ♢♢♢




「あっ、お姉ちゃん!朝一であんなに大声で叫んでどうしたの?悪い夢でも見た?」


 部屋を出てリビングに行くと静流が真っ先に話しかけてくる。少し不安そうな顔をしている。心配してくれているらしい。こういう所は可愛い妹なんだけどなあ。


「それがね、朝起きたらさ……」


 さっき起きたことを簡潔に話す。静流は納得と言わんばかりににうんうん頷きなぎら聞いていた。


「なるほどね〜。お姉ちゃんは突然女の子になったから驚きも一入(ひとしお)だよね。いつか来るって覚悟していた私でもパニックになったもん」

「静流もパニックになったんだ。でも知らなかったなそんなこと」


 静流にいつ生理が来たかなんて知らなかったし、分からなかった。


「それはお姉ちゃんみたいに叫んでないし、後でこっそりとお母さんに話しただけだから」

「そんなもんなんだ」

「そうそう」


 家族の中でもこういう身近なところでも知らないことがあったんだなあ。


「ともかくこれでお姉ちゃんも本格的に女の子仲間入りだね。あとは叶さんとくっついてくれるだけなんだけど……」

「叶がどうしたって?」

「これだもんなあ……」


 静流がため息をついている。叶がどうとか静流が何を言ったのかよく聞き取れなかった。最近というかずっと皆がなにかと叶で俺をいじりにくるけどなんなんだろう。


「まあ困ったことがあったら私に相談してくれていいからね。お姉ちゃんよりは女の子としては先輩だから」

「今までも相談に乗ってもらったからその辺は信頼しているよ」


 暴走している時を除けば本当によくできた妹だと思う。暴走してる時は致命的な気もするけど……




 ♢♢♢




 晩御飯の時間、テーブルの上にはケーキの箱が置かれていた。


「お?ケーキか。今日は何かあったのか?」


 不思議に思ったのか父さんが問うてくる。


「僕が食べたかったから母さんに頼んだんだよ」

「あ、お姉ちゃんも私と同じようにお母さんに頼んだんだ」

「うん。母さんから聞いてお願いしたんだ」

「何の話だ?俺はさっぱりなんだが…」

「あなた、女の子には秘密があるものなのよ」


 そうそう……って俺は男をやめたつもりは全くないんだけど。


「そうなのか……そういうものなのか……」


 釈然としないながらも、渋々納得してくれたようだ。


「そうなのよ。じゃあまずはご飯を食べましょ。ケーキはその後でね。」

「「はーい」」


 俺と静流は一緒に返事をして、皆で手を合わせる。


「「「「いただきます!」」」」


 先月に引き続き驚きから始まった今日はケーキを家族で食べることで楽しく終わった。





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