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1.潮風の香る町

 白百合聖騎士団は、探索者ギルドを通じて『鋼の狼』へ正式な依頼を届け出た。

 内容は「聖騎士団の捜索、及び救出」。

 今回の依頼内容は、一般的な探索者が受けるものとしては少々毛色が違う。けれどもギルドに舞い込む依頼の中には、こういった人探しが無い訳でもない。

 この依頼の珍しさといえば、外部との連携をせずに事態の解決にあたるはずの聖騎士団が、探索者の力を頼ったという一点に尽きる。

 過去に例の無い依頼者からの仕事。改めて、ザイン達は依頼内容を確認していった。


 聖騎士団長のアミラルによれば、行方不明になったプリュスには、エルを攫った男達の背後を調べさせていた最中だったという。

 王都周辺の女性を攫い、奴隷として売り捌いていた組織──その大元を断つ為の、プリュスにとっては贖罪となるはずだった調査である。


 エルを連れ去り、ザインとは八年前もからの因縁があった男──斧使いのベイガル。

 彼はザイン達の活躍によって聖騎士団に捕らえられたが、連れ去られた女性達を売り捌くルートを吐かなかったという。よって、大元の奴隷商人を捕まえるには至らなかった。

 しかしその調査に乗り出したプリュスは、根気よく情報を集めていった結果、近々開催される奴隷オークションがある事を掴んだ。

 そこから辿っていけば、ベイガル達を裏で操っていた奴隷商人を捕らえられる……そのはず、だったのだが。


(最後にプリュスさんが訪れたとされるのが、王都から北に向かった港町。そこで彼女以外の聖騎士さん達の目撃情報も途絶えている……か)


 アミラルからそれらの情報を得たザイン達は、すぐさま件の港町へと向かう事となった。

 鋼狼のジルと飛竜のマロウを頼りに、四人は出来る限りの最短日数で目的地に到着出来た。


「ここが例の街……なんだよな?」

「そのはずよ。この周辺にはあまり立ち寄った事が無いのだけれど、地図を見る限りはここがファエルの町でしょうね」


 言いながら、取り出していた地図を鞄に仕舞うカノン。

 ここファエルの港町は、多くの漁船と魚介料理で有名な土地だという。

 少し町中を歩いているだけで、魚料理の店がずらりと並ぶ通りが視界に入ってくる。


(こんな穏やかな港町で、もうじき奴隷オークションなんてものが始まるっていうのか……)


 それを思うと、どうにも胸が重苦しい。

 このファエルの港町のどこかにオークション会場があり、そこで多くの人々が奴隷として売られてしまう。


(もしかしたらプリュスさんは、調査の途中でオークション関係者に捕まっている可能性もある。そうだとすれば、彼女も奴隷として売られてしまってもおかしくは……)


「……ザインさん」

「エル……?」


 ザインが考え込んでいると、隣を歩くエルに名を呼ばれた。

 彼女の顔を見れば、不安そうに眉を下げている。


「必ずわたし達で、プリュスさんを探し出しましょう。他の聖騎士の方々も……きっと、ご無事でいらっしゃるはずですから」

「そうですよ、師匠! さあ、そうと決まれば情報収集ですよね? どこから回っていきましょうか!」

「エル……フィル……」

「ワフッ!」

「ジル、お前まで……!」


 次々にザインを励ましていくように、声を掛けてくれる仲間達。

 するとカノンもザインの背中をポンと叩いて、


「アナタにそんな顔されてると、こっちまで調子が狂うのよ。だから……アナタはいつもみたいに笑ってなさいな、リーダーさん?」

「カノンも……」


 ふっと微笑んでそう告げたカノン。


(俺……そういえば最近、あんまり笑ったりしてなかったな……)


 思い返すのは、王都からこの町までの道のり。

 プリュスをはじめとする行方不明の聖騎士達を一刻も早く救わねばと、そればかりを考えて……その不安を吐き出さず、ずっと一人で最善の道を探し続けていたのを自覚した。

 そうしていつの間にか、ザインから笑顔が失われていた。


 笑ってる場合じゃない。

 歩みを止めてはいけない。

 一秒でも早く、彼女達の元へ……!


 ……そればかりが思考を支配した結果、エル達に余計な心配をかけてしまっていたらしい。


(……仲間を不安にさせるリーダーが、母さんのような探索者になるなんておこがましいよな)


 ザインの義理の母──エルフ族の代表として、勇者の旅に同行したガラッシア。

 彼女を導き、仲間達を率いて魔王を倒したという伝説の勇者。彼ならばきっと、こんな風に仲間の前で暗い顔なんて見せなかったはずだ。


(リーダーの精神状況は、仲間の士気にも影響する。正常な判断を下し、依頼を成功に導かなければ……プリュスさん達は助からないかもしれない。そんなの、絶対に駄目だ……!)


 背負い込み過ぎず、けれども気を抜き過ぎない。

 その絶妙な感覚を保ってこそ、仲間から頼られる理想のリーダー像であるとザインは思い至る。


「……ありがとう、皆」


 そう言って顔を上げたザインの瞳には、確かな輝きが宿っていた。

 口元には優しく、元気溢れる笑みが浮かんでいる。


「俺、今回の依頼は何が何でも成功させなきゃって……勝手に自分を追い込み過ぎてたみたいだ。こんなんじゃ駄目だよな。普段の俺らしくなかったもんな。……よし、ここからはもっと気合いを入れていくぞ!」

「ワゥフッ!」


 すると、ジルがザインに頬を寄せてじゃれついてきた。

 ザインはわっしゃわっしゃと両手でジルを撫で回し、モフモフ成分をチャージする。

 そうして気を取り直したところで、四人と一頭は改めてプリュス達の手掛かりを探し始めるのだった。

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