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ギルオペっ!  作者: 虎山たぬき
3/6

02 ギルオペのスキル

「……まさか本当に何もないなんてね」


 コロモは力なくすとん、と背もたれ付きの椅子に腰を下ろし、蔑んだ目を俺に向けた。


 あれからこのFランギルドの再建を手伝うとことになった俺は、異世界に召喚されたのだからチートの1つや2つあるだろうと色々試してみたのだが、武器は重くて持てなかったし、魔法もなかったのだ。


 唯一の救いは言葉と文字がわかることくらいだろうか。


「言わないでくれ。これでもちょっと何かあるだろうと期待してたんだから」

「……本当に、リツってただの平民なのね」


 女の子ってこんな声出るんだって言うくらい、低く暗い声でコロモはつぶやいた。


「……はぁ。異世界に召喚されてチート無しとか誰得なんだよ。やばい、ちょっと泣きそうになってきた」


 本当なら6億円で夢の生活のはずだったのに、異世界でモブキャラやれってことなの? いくらなんでも酷すぎないですか?


「泣きたいのはこっちよ。おじいちゃんが残してくれた召喚札が、最後の頼みの綱だったのに……」


 コロモはがっくりと肩を落とし、大きく一つため息をついた。


「そう言えば、コロモのじいちゃんが召還した冒険者が居るって言ってたな? そいつはどこに居るんだ?」

「え? その人はもう居ないわよ」


 コロモは何言ってんの、みたいな目で見てくる。


「そうなの? そいつは今何してんだ?」

「ああ……俺つええええって、叫びながらドラゴンに食べられてた」


 コロモは、どこか遠い目をしてさらっと言ってのけた。


「……へ、へぇ」


 くそっ。不謹慎極まりないが、想像したら笑いそうになっちまったじゃねえか。


「だから、リツを召喚したのが最後の1枚だったのよ」

「そっか」


 ごめんね。そいつ多分俺の国の奴だわ。


「ん? 召還札は三枚あったんだろ? 残りの1枚は?」


 聞いた話によれば、コロモの家に代々伝わる召喚札が3枚あったとのことだった。


「……あれよ」

「ん?」


 コロモが指差したテーブルの上には、ぽつんと置かれた緑色の小さくて丸いものがあった。


「これ……ペットボトルのフタじゃん」

「なにそれ? あんたこれが何か知ってるのっ!?」


 コロモは目を輝かせて、もしかしてお宝なの? と、腕を掴んでくる。


「俺の世界だと、あれをたくさん集めると誰かが幸せになる」

「は? なにそれ?」


 まあ、異世界にペットボトルなんてないだろうしな。


「いや、忘れてくれ。それはゴミだ」

「……そう」


 コロモは瞳の色を無くし、力なく俺の腕から手を離すと、彼女の定位置なのだろう椅子に座り直した。


 て言うかピンポイントでなんてもん召還してんだよ。


「とりあえず、リツが戦闘能力皆無のクソムシってことはわかったわ。あとはギルオペとしてのスキルがあるかどうかなんだけど……」

「そうだな……ん? おい、ちょっと待て。誰がクソムシだ?」


 俺はさらっと罵倒してくるコロモに、スーパーでこぴんをお見舞いしようと狙いを定めたのだが。


 なんだこりゃ?


 コロモの狐耳の上に何か文字列のようなものが浮かんでいる。


 目を凝らしてみると、それはより鮮明に映し出された。


名前:コロモ・ユニエール

種族:リコリコ族

加護:マッパー

レベル:――

成長限界:F


 ああ。ネトゲのステータス表示的なあれか。目に意識を集中すると視えるんかな。


「……リコリコ族ってコロモの種族か?」

「っ!?」


 何気なく訊いたのだが、コロモは驚いた様子で目を見開いた。


「なんで知ってるのよっ?」

「え? だって頭の上に文字が出てるぞ?」


 そういう世界なんじゃないの?


「頭の上に文字っ?」


 コロモはバッと後ろを振り返ったり、頭上を見上げたりしたあとで、自分では視えなかったのか、眉根にシワを寄せて怪訝そうな目を向けてくる。


「ほっ、他には何が視えるの?」

「ん? あ~、レベルと……成長限界?」

「成長限界ですってっ!?」


 コロモは、ガタタっと椅子から立ち上がり、俺の腕を掴んで顔を近づけてくる。


 ひぇっ。なにっ? ちょっと怖いんですけど。


「急になんだよ? みんな視えてるんじゃないのか?」

「そんなの視えるわけないでしょっ! あんたの……能力ってことなの?」

「いや、俺に聞かれても……ん?」


 コロモのステータスの下に、もう一つ文字列が浮かんでくるのが視えた。


「スキル……アナライズと、自動書記?」

「なっ!? あんたスキルまで視えてるのっ!?」

「いや、さっきまでは無かったんだが……」


 ああ、なるほど。


「そういうことか」


 俺の腕を掴んでるコロモの手を見て納得した。


「どういうことよっ!」

「多分、対象に触れると、より詳しい情報がわかるんだと思う」


 詰め寄ってくるコロモを片手で制しながら、考えを伝える。


「っ!」


 コロモは掴んだ手をじっと見つめたあと、何やら考え込むような仕草をする。


 でも、これって俺だけが使えるとしたら、かなりの能力だよな。と、そこまで考えてすぐに閃いた。


「そうだっ! コロモ、鏡っ! 鏡ないか?」

「へっ? ああっ! あるっ。ちょっと待っててっ!!」


 コロモは俺の意図を理解したのか、タンスの引き出しを派手に開け放って、これじゃない、これでもない、とか言いながら、木彫りの熊とかよくわからんものを放り出し中を漁りだした。


 ちゃんと整理しとけよ。


「あったっ……はいっ」


 鼻息荒いコロモから手鏡を受け取り、目に意識を集中したのだが。


「あ、あの……」

「何よ?」

「かなり大胆に映り込んでるんですけど」


 小さな手鏡の中には7対3くらいの割合でコロモの顔が映っていた。もちろん7はコロモだ。お前が見てもしょうがないだろうが。


 大事な獣耳が見切れてるし。


「別にいいでしょ? 早くしなさいよ」

「……」


 なんかこれからプリクラでも取るみたいで気恥ずかしいんだが。


「視えた?」

「いや、まだ見てない」


 まあ、いいか。目に意識を集中だ。


名前:リツ・イチノセ

種族:人族

加護:オペレーター

レベル:――

スキル:神眼 ソウルリンク 


「おおっ!」

「なにっ? 何かすごいスキルでもあった?」

「神眼……は、多分この視える能力だろうな。加護のオペレーターってのは、ギルオペってことか。あとは……ソウルリンク?」


 コロモに向けて、なんじゃそりゃ? という疑問を視線で送る。


「ソウルリンクは、冒険者をダンジョンに送ったり、コンタクトを取るためのギルオペなら誰でも持ってるスキルよ」

「ギルオペ専用スキルってことか」


 誰でも持ってるスキルか~。じゃあ、俺の唯一無二ってステータスが視える神眼だけってこと? 何かしょぼくない?


「……ふふ。ふへへへへ。リツ、あんた本当にギルオペだったのね」


 コロモは、ニタァ、と邪悪な笑みを浮かべて、ふさふさの狐尻尾でぽすぽすと床を叩いた。


 何この子。闇が深そう。


「ま、まあ、本当に何もない無能じゃなくて良かったけど、もうちょっと何か欲しかったなぁ」


 何でも反射する能力とか、何でも作れる土魔法とか、物語の主人公っぽいやつ。


「馬鹿ねリツ。ギルオペってのは希少な存在なのよっ! 何せギルオペが居ればダンジョンに入りたい放題っ。見てなさいよ、今までバカにしてきた奴らをぎゃふんと言わせてやるわっ!」


 コロモは、とても人様には見せられないような歪んだ表情で、ぐへへへ、と小さく零した。


 過去にどんな目に合わされたのかはわからないが、こいつめっちゃ根に持つタイプだな。


「ギルオペって数が少ないのか?」

「ギルオペのスキルってのは才能だけだから、どんなに修行したって身に付くもんじゃないのよ。だから、どこのギルドもギルオペの引き抜きと囲い込みには余念が……っ!?」


 コロモは話している途中で何かに気付いたようにハッとすると、突如俺の胸ぐらを掴んで凄んできた。


「な、なんだよ、急にっ!?」

「あんた……もしも裏切ったら、わかってるでしょうね?」


 うっわ、こいつクズいわ。こういう奴嫌いじゃないけどクズいっすわ。


「裏切らねえよ。ていうか、この豚小屋Sランクにしないと俺が帰れないんだろ?」

「豚小屋じゃないっ! ヴァーサスっていう名前があんのよ、このギルドにはっ」


 コロモは今にも噛みつていきそうな野犬のように、ガルルル、と犬歯を覗かせる。


「ああ、もうわかったから離してくれっ」

「もし裏切ったら……あんたののどちんこをぶっ殺すわ」


 コロモは謎の捨て台詞を吐いて俺を解放した。


 よくわかんない脅し文句だが怖すぎる。のどちんこぶっ殺すってパワーワードすぎるだろ。どうなっちゃうんだよ、俺ののどちんこは。


「んで、俺がギルオペできるってわかったのはいいけど、具体的にどうすりゃいいんだ?」

「そうね。いきなりクエストってのもあれだし。まずはあんたにギルオペの仕事ってやつを見せてあげるわ」


 コロモは言って、掛けてあったこげ茶色の外套を羽織った。


「行くわよ」

「へ? 行くってどこに?」


 コロモはふっと不敵な笑みを浮かべ、


「ピリオドの向こう側へよっ!」


 と、ドヤ顔で言って踵を返し出ていこうとしたので、俺は少しイラッとしてコロモの尻尾を掴んだ。


「ふにゃっ!?」


 コロモは猫みたいな声を上げて、全身をビクッとさせると、涙目で睨みつけてきた。


「ほう? いい声で鳴くじゃねえかっ!!」


 俺的にはちょっとしたおふざけで返したつもりだったのだが。


「ななな、なにすんのよっ!!」

「ぐふぁっ」


 コロモのボディブローが突き刺さった。


 で、どこに行くんでしたっけ?


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