(1) 巨大悪魔
衝撃は背中にやって来た。そしてバキベキと骨が砕ける音。
「がッ! ぐわッ! ごふッ!」
前方から電車が来たのに、なぜ背中に衝撃なのか。
ああくそ、意識が遠くなって……、遠くなって……、いかない?
「あれ? 俺まだ生きてるの?」
俺は恐る恐る薄目を開けてみた。
俺はなぜか全裸だった。出血はしていない。
ムクリと起き上がってみた。
どこも痛くはない。
どうやら骨折もないようだった。
俺はまだ生きている!
というか、どこよここ?
尻の下のこれはなに?
骨?
てことはさっきのバキベキはこれ?
獣らしい大小の骨。
俺はその骨が積まれた山の上にいた。
俺は転けないように慎重にその骨山で立ち上がってみた。
見渡すとここは学校の体育館程の広さの大広間で、向こう側に大扉が見えた。
その広間の中央にあたるこの場所に、何かの獣であろうか大小の骨が山と積まれているのだ。
俺はどうやらこの骨の山の上に落ちてきて助かったようだ。
「落ちてきた? どっから? うおッ!」
頭上を見上げた俺は、暗闇の中にとんでもない物を発見してしまった。
「巨人……、怪物……、いやこれは悪魔なのか?」
ビル程もある巨大な悪魔がそこにいた。
巨大悪魔は金色の太い鎖で全身をぐるぐる巻きにされ、更に左右の壁から延びた金鎖によって十字架の姿勢で宙吊りにされていた。
「あれ、死んでるよな?」
頭上の巨大悪魔は、まるでその心臓を抉り取られたかのように胸にポッカリと穴が空いていた。
その穴からドロリと溢れた血液が金鎖を伝って爪先まで流れ、
「うおッと」
ボトリと落ちてきて、とっさに俺が避けた場所の白骨をバシャリと赤く染めた。
ヤバいヤバいヤバいヤバい!
あの悪魔って、死にたてホヤホヤじゃん!
ここにはあんなヤバい悪魔を殺した更に超ヤバい奴がいるってことじゃん!
逃げなきゃ、とにかく急いでここから逃げなきゃ!
出口は……、そうだ、あの大扉だ。
俺は巨大悪魔を殺した超ヤバい何者かに見つからぬよう、気配を殺して骨山を降り……。
カタ。
背後の物音にビクリとして足を止めた。
恐る恐る振り向くと誰もいない。
誰もいないのだが。
「なんだあれ、宝箱?」
漫画に出てきそうな豪華な宝箱を見つけてしまったのだ。
「おいおい巨大なラスボスの部屋に宝箱とか、RPGかよ」
とはいえこれを無視するのも惜しかった。
なにしろ今の俺は全裸である。
ここから急いで逃げるにしても衣服が、せめてパンツが欲しかったのだ。それも切実に。
それで宝箱に一歩近づいたとき。
チカッ。
ほんの一瞬、宝箱が黒く光った。
「え、なんだ今の?」
俺の目がおかしくなったのか。
なにしろここは薄暗い大広間である。
薄暗い中で黒い光とか、訳が分からない。
それで何かの錯覚だろうと更に数歩近づいたところ、
チカッ。
宝箱がまた黒く光るではないか。
しかもしばらく見ていると。
チカッ。チカッ。チカッ。チカッ。
まるで心臓がバクバクするリズムで黒く点滅しだしたのだ。
「やっぱ止めとくか……。これ絶対に罠とかある奴だし」
俺は宝箱を諦めてまた大扉に向かった。
カタ。
また物音がして、振り向くと先ほどの宝箱である。
しかもさっきよりも一層豪華な、やたらとキラキラした宝箱に変わっているではないか。
「いやいやいやいや、開けないから! そんないかにも怪しい宝箱なんて絶対に開けないから!」
思わず声を出してツッコミを入れてしまったが、ここには悪魔殺しの超ヤバい奴がいるかもしれないのだ。
しまったヤバいとこの口を抑え、急いで逃げようとダッシュで大扉まで来たときに。
「う、ううぅ、うおおおおぉぉぉ~ん」
大声で泣き出した奴がいた。
振り向くとさっきの宝箱が大口を開けて泣いていた。
「うおおおおぉぉぉ~ん。意地悪しないで、一度くらい開けてくれたっていいじゃないっスか~、うおおおおぉぉぉ~ん」
まるでおっさんのようなダミ声で、宝箱はわんわんと大泣きしていた。