表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/8

第5話 前世の記憶

おや?

ルークの様子が……

僕は、日本に住むごく普通の学生だった。

普通に学校に行って、普通に友達と遊んで、普通に家族と過ごしていた。

そんな、普通だけど幸せな日々を送っていた。


『ーーなんだお前、文句あるのか?』

『ぼ、僕は大丈夫……だから……』


特別正義感が強かった訳ではないけど、それでも見て見ぬ振りをするのはムカついたので、よくいじめっ子に歯向かっていた。


『……もうそれ以上はやめてくれ、これからは自重するから……』


腕力で勝てないのは分かっていたので、口喧嘩に持ち込んで泣かすことが多かった。


ーーそんな自分に嫌気がさして、身体を鍛えるようになった。

……大して強くはなれなかったけど。


『まったく、また喧嘩したの?』

『……ただの口喧嘩だよ、母さん』


家族に心配をかける事もあったが、僕は基本的に真面目だったので、両親はあまり僕のことを叱らなかった。

……と言うか、出来の悪い弟と妹の世話に手を焼いているようだった。


家族の問題は僕の問題でもあるので、僕も弟と妹の世話を手伝った。

……二人に懐かれた。

ちなみに、二人は双子だ。

凄く手のかかる双子だった。


『お前ってさ、淡々としてるっつーか、無気力だよなー。まあ、そんなクールなところに、多くの女子は惚れてるみたいだけどな』


……僕ってモテてたの?

親友のこいつが言うなら、ある程度は本当だろうけど……。

しかし、事実とはいえ親友に面と向かって言われるのはちょっと傷つくな。


『僕だって、感情が薄いところは気にしてるんだけど』

『お前の場合、感情が薄いんじゃなくて、感情を表に出したがらないんだろ?』


……確かにそうかもしれない。

弟と妹の前では、いつもよりちょっと明るい気がする。


『一応幼馴染だからな、それくらい分かるよ』


……僕は良い友達を持ったのかもしれない。

本人にそう言ったら、「今更!?」とショックを受けていた。

……僕は、酷いやつだったみたいだ。


『ーー僕、なんだかんだ言って正義感が強いのかもしれない』

『そうかあ? お前の場合、ただイジメが気に食わないだけだろ?』

『……それが正義感が強いって事だと思う』

『まあ、どっちにしろ、お前が冷たい奴だって事に変わりはねーよ』


あれ以来、親友に嫌味を言われるようになった。

でも、嫌われてる訳ではないみたいだ。

……拗ねてるのかな?

男の癖に、意外と可愛いな。


『霧隠先輩、手伝ってくれてありがとうございます』

『別に良いよ、僕も暇だったし』


後輩が困っているのを見て見ぬ振りをしたら、また誰かに薄情だと思われる。

だから、困ってる後輩を助けた。

ただそれだけの事……なんだけど……。


『霧隠先輩って、本当に凄い人です! この学校で起きた喧嘩を止めてるのは、いつも先輩だと聞いています!』


いや、いつも止めてる訳じゃないよ?

他の生徒が止める事もあるし、先生が止めに入る事もあるし、当事者たちで話し合って納得する時もあるし。


『俺、先輩のこと尊敬してます!』


……うーん、慕われるのは別にいいんだけど、僕の人物像が歪んで伝わってないか、これ?


『お兄ちゃん、学校で凄い噂になってたね!』

『さっすが兄貴! ヒューヒュー』


……二歳年下の弟と妹が、僕と同じ高校に進んできたときは、割と本気で両親を恨んだ。

でも、両親は二人の進路にあまり口を出していないんだよな。

……この学校、結構レベル高かったはずなんだけど、二人とも勉強したのかな?

……どうしよう、二人の成長を喜ぶべきなのに、素直に喜べない。


『あいつら、お前と同じ高校に行きたいって言って、猛勉強したんだぞ』


知っています……なんで止めてくれなかったんですか、父さん?

弟と妹にまで僕のことを勘違いされたら、流石に傷つきますよ?


あの後輩君も、僕のことを誰かから聞いていたみたいだし……。

そういえば、あの後輩君、名前なんて言うんだろ?

今度会ったら聞いてみようかな。


『……そういえば、理玖は彼女とか居ないの?』

『おっ、俺も気になってたんだよ。どうなんだ、理玖?』


……そういえば、両親の口からこういう話題が出るのって初めてだよな。

まあ、僕には気になる人はいても、誰かと付き合ったことなんて一度も無いんだけどね。


『居ないよ……というか、居るように見える?』

『またまたー、そんなこと言ってー』

『本当は居るんだろ? な?』


……しつこいなぁ。

居ないって言ってるのに。


ーーその事を理解してもらうのに、小一時間くらいかかった。


ーー思い返してみると、僕って幸せだったんだな。

……素直にそう思う。

あの幸せな日々が、いつまでも続けば良かったのに……。


ーーそう思わずには、いられない。


『ーー先輩! ーー霧隠先輩!』


ーー声が聞こえる。


ーーああ。この声は、あの後輩君か。


ーー何を言ってるんだろう? ……大丈夫ですか、だって?


ーーあれ? なんで身体が動かないんだろう……血?


『血が……出てる……?』

『先輩、動かないでください! すぐに救急車が来ますから!』


ーー救急車? 誰か怪我でもしたのか?


『先輩……! どうしてこんなことに……!』


ーーあれ? なんで後輩君が泣いてるんだ? ……あ〜、怪我人は、後輩君の知り合いなのか〜。

誰だか知らないけど、可哀想に……。

多分赤の他人だろうけど、死なないように願っておこうかな……。


ーーなんか、眠いな……。


ーーそれに、寒い……。


『おい、起きろ! 死ぬんじゃねえぞ、理玖!!』


煩いな……。 僕は眠いんだよ……。


ーーもう、駄目だ……意識が……。



※ ※ ※ ※ ※



『ーー俺さ、思ったんだよ』

『……急に何? 藪から棒に』


……これは、いつの夢だっけ?


『お前が本当は正義感が強いのかもしれないって話、前にしただろ?』

『……そんな話したっけ?』

『おいおい、お前本当に冷たいよなー……』


そうだ……これは、僕が死んだ日の夢だ。


『お前はさ、やっぱり正義感が強い訳じゃないんだよ』

『へー……』


あの日、僕は親友の颯太と話をした……。


『いや、だからお前冷たすぎねーか?』


何気ない会話に見えたけど、颯太のある言葉が、僕の心に強く刻まれたのを憶えている……。


『僕が正義感が強い人間じゃないなら、僕はどうして見ず知らずの他人を助けたりするんだよ?』


憶えている……僕の記憶に刻み込まれているんだ……この問いに対する、颯太の答えが……。


『ーーお前が、優しすぎるからだよ』


ーーッ!


『お前は、誰も見捨てることができないんだよ。相手がどんな奴でも、助けを求められると助けたくなるーーーーお前は、そういう人間なんだよ』


……その答えが、正しいものかは分からないけど。


『そうか……君がそう言うなら、そうなのかもしれないね』


ーー僕は、親友にそう言われたことが嬉しかった。


ーー大切な親友からの最後の言葉が、僕が一番欲していた言葉で、本当に良かった。



そして何よりーー





『君の中で僕は、“優しい人間”として死ねるんだねーー』





ーー“僕”の最期がこんなに幸せであることが、嬉しかった。





※ ※ ※ ※ ※





「ーーあ」


何だよ、これ……。


今のは、僕の記憶ーーなのか?


ーーだとしたら。



『お前は、誰も見捨てることができないんだよ』



ーー僕は。



『相手がどんな奴でも』



ーーなんて事を。



『助けたくなる』



ーーやめて。



『そういう人間なんだよ』



ーーそれは“霧隠理玖”であって、ルークじゃない……!



『魔族のような穢れた存在に、生きている価値なんて無いでしょう?』



ーーそんな事、ない。



『本来なら殺されて当然なんですよ? 僕たち人間の役に立てることに、感謝しようとは思わないんですか? ……まあ、魔族にそんな感情はありませんか』



ーー何を言ってるんだ、お前は。



『アリサ、でしたっけ? 馬鹿馬鹿しい。 魔族に名前など意味がないのに。 愛という人間の尊い感情を、よりにもよって、穢らわしい魔族が真似をするなんて……そんなに僕たち人間が眩しくて、羨ましかったんですか?』



ーー愛が人間だけのもの? 何を馬鹿げたこと言ってるんだよ……!



『魔族は人を騙して利用する、悪い奴らなんだよ! 皆は騙されないように気をつけてね!』



ーー見たこともない癖に。



『ああ、なんて醜いのでしょうか。お母様の言っていた通り、魔族とは醜悪で、残酷で、凶暴で、誇りなど欠片も無い存在……生きている価値など、ありませんね』



ーーまともに会話したこともない癖に、勝手な事を言うな。



『……あれが、本当のお前なのか? 理玖』



ーー違う、違うんだよ、颯太。



『俺は、どうやらお前のことを勘違いしてたみたいだな』



ーーだから違うんだって、あれは……。



『理玖…………お前、最低だな』



ーー違う! 待ってよ! それは僕じゃーー理玖じゃないんだ!!



『いいや、理玖ーーーーお前だよ』



そんなことない! あれはーールークは、違うんだよ!!



『じゃあな、理玖ーーーー』



颯太……嘘だろ……?

君、言ってたじゃないか。

僕のことを親友だって……言ってくれたじゃないか……。



信じてくれよ……違うんだ……ルークは、“僕”なんかじゃないんだ……!



“僕”は……理玖なんだ……!



身体は違っても、ルークの心は、霧隠理玖なんだーーーー!!


ルークが壊れてしまったように見えますが、次回である程度立ち直ります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ