戦いの始まりと終わり
カインはユイに耳打ちした。
「あいつを殺せ」
カインは笑顔でそう言った。
ユイはミッドの元へゆっくり歩みを進めた。
「ユイ・・・」
ユイは首を横に振り嫌がっている。
暗示はそう簡単には解けない。
こうなったら仕方ない。
ミッドは覚悟を決めた。
ユイを抱きしめユイの持っていたナイフを自分に突き刺した。
ミッドの腹から血が出始めた。
そこでユイの暗示が解けた。
暗示が解けると同時にユイは気を失った。
気を失ってもらっていた方が都合がいい。
ミッドはそう思った。
ミッドはユイを部屋の端に運んだ。
腹の傷はもう塞がりかけている。
「何だ呆気なかったな。もっと楽しめるかと思ったのに」
玉座に腰かけたカインはそう言った。
「人を傷つけて楽しめるだと?」
「ああ、以前お前もやっていた事だろう?」
「俺は・・・好きで人を傷つけていたわけではない」
そう言うとカインは意外そうな顔をした。
「しかし、お前も今の俺と同じことをしていたじゃないか。例え好きでやってなかったとしてもな」
「・・・」
ミッドは何も答えられなくなった。
ミッドは昔カインの言う通り人を傷つけていた。
だが、心が痛まなかったわけではない。
あの時は自分の仕事だからと言い聞かせてやっていただけだ。
今は花屋に転職して殺戮から足を洗った。
「カイン。俺は今、平和に生きている。その平和を邪魔するならお前を倒す」
ミッドは掌から剣を出した。
市販の剣とミッドは相性があまり良くない為、こうやって自分の体から剣を作り出す。
「俺もお前を倒したいと思っていた」
そう言うとカインは玉座から降り、ミッドの目の前までやって来た。
「行くぞ!」
ミッドの声で戦いの幕が開いた。
カインは腰から下げている剣を抜き、受け身の態勢を取った。
キィンっとミッドの一撃を受け止めた。
ミッドは何度も剣を振りかざしたが全て受け流されている。
(こいつ・・・強い!)
カインは戦いを楽しんでいる。
キィンキィンっと剣と剣のぶつかる音が響き渡る。
カインは屈んでミッドの足を払った。
ミッドは転ばされてしまった。
その拍子に剣が手から落ちてしまった。
剣を拾おうとすると手にカインが剣を突き立ててきた。
「ぐぁぁあぁ!」
ミッドは叫んだ。
「勝負あったんじゃないのか?まだ俺と戦うか?」
「当り前だ。これくらいで負けたりしない!!」
カインは嗤った。
ミッドの手に突き刺した剣を抜いた。
手の怪我も見る見るうちに塞がっていく。
カインはまだ気がついていなかった。
自分がミッドの作った魔方陣の中にいることを。
「カイン、足元をよく見てみろ」
「魔方陣か!?」
ミッドはカインを魔方陣の中に閉じ込めた。
そうして魔方陣の中に火を灯した。
「ぎゃぁぁぁぁぁ!!」
カインは大やけどを全身に負った。
火とともに魔方陣も消えた。
カインは倒れ込んだ。
「まだ戦うか?カイン?」
「これが本当の魔王の力か・・・」
カインは力の差を実感させられた。
カインは試しにミッドを操ろうとしたがミッドにはカインの力が効かなかった。
「ちっ、やっぱり駄目か・・・」
「カイン。お前にはここで死んでもらう」
ミッドは転がっているカインの心臓をめがけて剣を突き立てた。
「うあぁぁぁぁぁっぁぁっ!!」
カインは悲鳴を上げながら息絶えた。
「今期の勇者は呆気なかったな・・・期待外れだ」
ユイが目を覚ますまでにカインの死体を処分しなければならない。
ミッドは魔方陣を描き、死体をその中に入れた。
そうして呪文を唱えると死体は消えた。
カインは死んだが安心できないのでその死体を時空のはざまに閉じ込めた。
そうしておけばもし蘇生した場合でも、もう地上に出てくることは出来ない。
ミッドはカインがそう簡単に死ぬとは思えなかったのだ。




