宿屋にて
「ユイ、今日はこの宿にしよう」
「うん、でも私お金持ってない・・・」
ユイは真剣な表情でそう言った。
ユイがお金を持っていないことくらいミッドは知っている。
「子供がそんな心配してんじゃねぇ。金なら俺が持っている」
「いいの?」
ユイは嬉しそうにミッドに飛びついた。
「・・・お前本当に俺の事怖くないんだな」
ミッドは自分が本当の魔王であることをユイにばらした。
するとユイはこう言った。
”花が好きな人に悪い人はいない”と。
ミッドはその言葉が嬉しかった。
少し救われた気になった。
ミッドは宿に入って行った。
「親子だから同室で良いですね」
「・・・」
(親子に見えるのか・・・)
軽くショックを受けていると部屋へ案内された。
部屋は狭いが綺麗な宿だった。
真ん中にドンっとベッドが置かれていた。
「・・・」
ユイは恥ずかしそうな顔をしていた。
「ユイどうした?」
「同じ部屋って事は一緒に寝るってことだよね?」
「ああ、そうだが」
ミッドにはどうしてユイが恥じらっているのかわからなかった。
暫く考えてから思い当たることを口に出してみた。
「お前もしかして俺と同じベッドで眠るのが恥ずかしいのか?」
「!」
どうやら図星らしい。
「子供のくせにませてんな」
「女の子扱いして」
「10年早い。何もしねぇよ」
「・・・」
ユイもそんなことは分かっている。
だがそういう問題ではない。
ユイは年頃の女の子なのだ。
恥ずかしいものは恥ずかしい。
昨日は疲れ果てて先にベッドに入って眠って朝を迎えたのでそんなに恥ずかしくはなかった。
しかし、今回は少し状況が違う。
「わかったよ、俺がソファで寝る。これでいいだろう?」
「駄目だよ。それじゃあミッドさんの疲れが取れない」
「じゃあ、一緒にベッドで寝てくれるか?」
そういうと真っ赤になりユイは頷いた。
ユイは思いやりのある女の子だ。
ミッドはそう言えば大人しく一緒に眠ってくれると思ったのだ。
しかし、魔王と一緒に寝るのを怖がらないで、恥ずかしいからと言われるとは思わなかった。
(変な娘だな・・・)
そうつくづく思った。
夕飯の時間になり部屋に食事が運ばれてきた。
質素ではあったが味は良かった。
量もちょうどよかった。
食事の後それぞれ浴場へ行き、入浴した。
(はー・・・人間の子供といるのは少し疲れるな。おいてくるべきだったか?)
今になってそんな事を考えてしまう。
しかし今更そんなことは出来ない。
ミッドは既にユイに情を持っている。
何とかして両親に会わせてやりたいと思っている。
ユイの両親は生きているのだろうか?
ユイの他に生き残っている者はどこへ行ったのだろう。
色々な疑問が頭をよぎる。
昔の俺ならどうしただろう・・・。
やはり皆殺しか?
今、俺の玉座に座っているのは一体誰なんだろうか。
魔物を操る力を持っている者は1人しかいない。
しかし、その可能性は低いだろう。
そんなことが出来るのは・・・勇者くらいだ。
20年前勇者に会う前に人間界に降り花屋を営んでいたので今期の勇者とはまだ会ったことがない。
そこであることに気がついた。
(まさか魔界は勇者に乗っ取られている!?)
いや、あり得ないだろう。
勇者とは人々を助け、悪を嫌うものだ。
だが人それぞれ思いは違う。
(早く魔界に帰るべきだろう)
だが、ユイがいるので地道に歩いて帰るしかないだろう。
ユイは普通の人間だ。
魔方陣で一緒に転移は無理だろうし・・・。
(そうだ!どこかで馬を手に入れよう。そうすれば少しは早く着くだろう)
入浴しながら色々考えてたら頭がくらくらしてきた。
ミッドはのぼせた。
急いで浴槽から出て部屋に帰りベッドに横になった。
「ミッドさん、お水」
そう言ってユイは水を差し出してきた。
そして内輪で扇いでくれている。
「大丈夫?」
「ああ、少し考え事をしていたらのぼせた」
「ふふふふ、魔王ものぼせるんですね」
「・・・皆、誤解しているが魔王といっても無敵じゃないんだぜ」
情けない姿を晒しながらそう言うとユイは更に笑った。