ユイとの旅
(人間の子供の足はこんなにも遅いのか)
一緒に旅していたら日暮れまでに次の町までたどり着けない。
そう思ったミッドはひょいっとユイを肩に担いだ。
「きゃぁ!!」
「お前と歩いていると次の街に今日中に着けないからな」
そう言うと申し訳なさそうにユイがミッドに謝った。
「ミッドさん。ごめんなさい」
(言い方が悪かったか・・・)
「責めているわけではない。ただユイが辛そうだったから・・・」
ミッドはまだ人間の子供と関わったことがなかった。
どう声をかけていいか正直分からなかった。
「ごめんなさい」
ユイはまた謝った。
「ユイそう謝らないでくれこちらが悪いことをしているような気持ちになる」
「うん」
どうやらユイに伝わったようだ。
(本当は、空を飛んだ方が早いんだが・・・また花屋を営みたいからなるべく人に見られたくない)
ユイには申し訳ないが担いでいる方が楽だった。
魔族なので力はあるので子供一人担いで歩くくらいどうってことない。
(ユイには自分が本当の魔王である事を教えていた方が良いのだろうか?)
だが、騒がれても面倒だ。
ミッドは言わないことにした。
魔王城に着けば多分俺が本物の魔王だと知る事になるだろう。
魔界は空気が悪い。
このままユイを連れて行っても大丈夫なのだろうか・・・。
考えた末、ミッドはユイに#呪い__まじない__#をかけた。
「ユイ、俺の本当の正体を知っても驚かないでくれよ」
「本当の正体?」
「今はまだ言えない。だが、その内わかる」
「う、うん」
ユイは戸惑いながら返事をした。
(きっと泣き叫ばれるんだろうな・・・)
ミッドはそう思った。
「私、ミッドさんが何者でもいい。だって、こんなに優しい人が悪い人なはずないもの」
ミッドは何も言えなくなった。
(魔王だと知っても同じセリフが言えるのだろうか?)
ミッドは試してみたくなった。
「もし、俺が悪い人だったらどうする?」
「え?」
「俺は、本当は魔王なんだ」
「嘘!?」
ユイはジタバタして地面にそっと降ろしてもらった。
「じゃあ、私の村を襲たのはどうして?」
「それは俺じゃないやつの仕業だ。俺は魔王を引退して花屋を営んでいる」
「・・・」
ユイは小首を傾げた。
「何故魔王が花屋を?」
「花を愛しているからだ」
照れることもなくミッドはそう言った。
「じゃあ、やっぱりミッドさんはいい人だよ。花が好きな人で悪い人なんていないわ」
「だが、20年前までは魔王をしていた。たくさんの人達を傷つけてきた」
魔王としての仕事だったからしていたにすぎないが、たくさんの人々を苦しめてきたことには変わりない。
ユイはミッドの頭を撫でた。
「何のつもりだ?」
「・・・ミッドさんが落ち込んでいたように見えたから」
「そりゃ、落ち込むさ」
「でもそれが嫌で魔王から花屋へ転職したんでしょう?」
「あ、ああ」
「それならやっぱりいい人だよ」
そう言ってユイはにこっと笑った。
ユイにそう言われ少し救われたような気がした。