花屋を営む元魔王
今日もいい天気だ。
「お客さんがたくさん来てくれると良いな」
人間たちに自分が魔王であることがバレないように接している。
元、魔王ミッドは今は町に降り花屋を営んでいる。
ミッドは魔王をすることに疲れたのだ。
もともとそんなに悪いことが好きだというわけではないし、人肉よりも鹿の肉の方が好きだ。
魔王をやっていたある日、一輪の山百合を見つけた。
その美しさに魅入られてしまった。
今では自ら花を育て売っている。
ミッドはあの山百合を見て以来、花に強い関心を抱くようになったのだ。
ミッドの花屋は繁盛していた。
金に困ることもないし、食べ物に困ることもない。
ただ歳をとらない為10年に1度は違う町へ移動していた。
「いらっしゃいませ」
「そこの赤い花を10本くれないか」
「はい、かしこまりました」
「アレンジしますか?」
「頼めるか?」
「ええ。喜んで」
そう言いミッドは美しい花束を作り上げた。
小さい子がそれを見ていたようで足元から声がした。
「わぁ、魔法みたい」
「おお、素晴らしい!」
「ありがとうございます」
ミッドは素直にお礼を述べた。
20年も人間界にいると人間界のルールも分かってくる。
初めのうちは人間たちに奇異な目で見られたものだ。
それが今ではすっかり人間界に溶け込んでいる。
誰もミッドが元魔王だなんて思いもしないだろう。
小さい子はいつまで経ってもミッドの傍にいた。
そのうち小さい子の腹が鳴った。
「お前腹が減ってんのか?」
「うん」
「家に帰れ、もう日が暮れる」
「家が無いから帰れない」
その言葉を聞きミッドは驚いた。
「家がないってどういうことだ?」
「魔王が私の村を襲ったの」
(・・・ん?魔王ならここに居るが・・・)
「その時にパパとママともはぐれてしまって・・・」
ミッドはその子に詳しい話を聞いた。
話はこうだ。
夜、いきなり魔族がやって来て村を焼いた。
その時犠牲になった人も何人もいるらしい。
ミッドは溜息を付いた。
(ここ20年平和だったのに一体誰がそんな真似を・・・)
「お前の名前は?」
「ユイ」
「男か女か?」
「女の子よ」
ユイは10歳くらいに見えた。
1人でさぞ心細かっただろう。
「店を閉める。ユイは店の中に入ってろ」
「うん、わかった」
ユイは素直に店の中へ入って行った。
ミッドは店のシャッターを下ろした。
それからユイに手作りの夕食を食べさせた。
「ユイ。魔族はどんな姿だった?」
「とっても大きくて背中にコウモリみたいな羽が生えてたよ」
ミッドはユイの頬についたご飯粒を取ってやった。
するとユイはありがとうと微笑んでくれた。
その笑顔はあの山百合に似ていた。
自然とミッドの中でユイを守らなくてはという思いが芽生えた。
それからもっと詳しく話を聞いていくとやはり魔族の仕業としか思えない発言が何度も出てきた。
悩んだ末ミッドは一旦店を閉じ、魔界へ行ってみることにした。
「私も行きたい!もしかしたらパパとママが捕まってるかもしれないから」
ユイの事は自分が守ればいいので一緒に連れて行くことにした。
ミッドはその晩店を閉める準備をし、翌朝には出発できるようにした。
(もうこの村に来てだいぶ経ってたし、ちょうどいい時期だったのかもしれないな)
そう思うと未練も絶ち切れた。
全て解決してからまたどこかの村で花屋を営めばいい。
ミッドは自分にそう言い聞かせ、旅支度をしユイの手を引いて歩き始めた。