ある女性殺人鬼のお話
毎年、クリスマスの時期に1人の女性が現れる。
彼女は女性殺人鬼。
その女性の本業は謎のベールに包まれているようだ。
彼女は全身黒ずくめでウエストポーチらしきものがたくさんついたベルトを華奢な身体に巻きつけている。
その中には拳銃やナイフなどが収められており、金鎚も入っていた。
「リア充なんてそこいら辺で死んでいればいいのよ……」
その女性はこう言いながら、踵の高いヒールの音を鳴らして歩いていた。
†
12月に入ると、イルミネーションの点灯や大きなクリスマスツリーが設置され、あちこちから賛美歌が流れている。
駅に行っても、ショッピングモールに行っても、どこに行ってもカップルだらけだ。
彼氏や彼女がいない者は「リア充なんか爆ぜればいい!」と騒ぎ出す時期に、その女性に会って依頼すれば、すべての恋人同士を周りには目撃されぬよう、静かに殺してくれる。
「どいつもこいつもいろんなところでイチャイチャしやがって! クリスマスなんてなくなってしまえばいい!」
1人の男性が駅前でそこいら辺に転がっているドラム缶に体当たりしながら歩いていた。
「あら? ご依頼かしら?」
「ご依頼?」
「えぇ。先ほど「クリスマスなんてなくなってしまえ!」と仰っていましたので」
彼は口をガクガクさせている。
男性は彼女に何かを伝えたいと思っているが、なかなか言葉にできず、「もしかして……」と何回も繰り返していた。
「もしかして、あなたが噂の「クリスマスの時期に現れる殺人鬼」と呼ばれている……」
「まぁ! そのような噂が広まっていらしたのね? それはそれは最高の褒め言葉ですわ」
女性はクスッと笑う。
しかし、彼はその表情には闇を抱えているように感じていた。
「ならば……」
「ん?」
「ならば……この一角にいるカップルをすべて残らず殺せるのか?」
男性はその場で両手を広げ、彼女に問いかける。
「ええ。よろこんで……」
女性はウエストポーチらしきものから拳銃を取り出したが、コレではないと思い、すぐにナイフを取り出した。
そして、彼女は次々と鮮やかに殺傷していく――。
まるで、新たな玩具を見つけ出した子供のように――。
無邪気に嗤いながら、優雅に円舞曲を躍るように――。
彼は彼女を見て、流石だと思った。
†
駅の一角に集められた亡骸と血塗られたアスファルトに彼らは騒然と立っていた。
「コレでよろしいかしら?」
彼女は最後の1人の男性の頭部を金鎚で叩いた。
「ああ。俺はリア充がいなくなって清々しいよ」
「私もよ」
女性の右頬に血痕があるが気にしていない模様。
彼は彼女に「そういえば、報酬は?」と問いかけたが、「いりませんわ」と返事をした。
「そろそろ、次のところに伺わなければなりませんわ……ここでお別れね?」
「そうなのか……ありがとう。道中気をつけて」
「あなたこそ」
今日も黒ずくめの女性殺人鬼は「リア充なんてそこいら辺で死んでいればいいのよ……」と言いながら、踵の高いヒールの音を鳴らして歩いていく――。
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