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序章 蘇生人間誕生

11月4日

 私に行える限りの、あらゆる手は尽くしたといっていい。だが、駄目だ。

 マリアの心臓は動き出さない。お互いの鼓動を聞きながら眠りに就くことも出来ない。

 マリアは呼吸を取り戻さない。桜色の唇から、甘い吐息を漏らしてくれることもない。

 マリアは目を開けない。愛らしい瞳で再び私を見つめてくれはしない。

 マリアは死んだ。死んでいる。

 そうなのだろうか?


 首を切り落とされれば人は死ぬ。疑いようがない。人を人たらしめる脳に血液が供給されなくなるのだ。物理的に心臓と切り離されるのだ。生きていられるはずがない。

 出血多量に陥れば人は死ぬ。体中に酸素を運ぶための血液が失われてしまうためだ。細胞は呼吸が出来なくなり、やがて人は死ぬ。

 病気でも人は死ぬ。生きていく上で必要不可欠な臓器が、病原体によりその働きを失えば、やはり、体を維持していくことが出来なくなり、死に至る。


 だが、今、私の目の前にいるマリアはどうだ。外傷はひとつもない。その美しい肌には、ひと筋の傷もない。マリアは大病を患ったこともなく、いたって健康だった。

 ならば、なぜマリアは、私の目の前に横たわっているマリアは動かないのか。

 心臓が止まっているせいだ。血液は潤沢に残っている。が、その血液を細胞に行き渡らせるためのポンプである心臓が動いていない。これさえ動かしてしまえばいいのだ。心臓さえ動けば……



11月8日

 あれから何度も、マッサージ、電気ショック、あらゆる手を尽くした。なのにマリアは、まだ目を覚まさない。

 私は疑う。

 致命的な外傷や大病で人が死に至ることは納得も理解もする。だが、目の前の「これ」に対しては決して納得がいかない。止まったものはまた動かせばいいではないか。こんな簡単なことがどうして出来ないのか。

 どうして出来ないのか……



11月10日

 マリアが蘇生した。

 そうとしか考えられない。なぜって、マリアがいなくなっていたからだ。昨日までそこにいたはずのマリアが、いなくなっている。蘇生したマリアが起き上がり、出て行ったのだ。

 理由は分かっている。稲妻を伴った昨夜の嵐だ。

 この家の近くに雷が落ちた。その甚大な電気の力が、ついに、再び、マリアの心臓を動かしたのだ。

 どこへ行ったのか、マリア。

 私の考えでは、長時間血液の流れが阻害されていたせいで、意識が朦朧として、自分が誰か、ここがどこかも分からないまま、ふらふらと外に出て行ってしまったのだろう。今のマリアは、赤子のような精神状態になっているはずだ。右も左も分からない世界の、例年以上に早く寒波が到来した、この寒空の下、どこかで震えているのではないだろうか。

 私は彼女を捜しに行く。マリア、今、どこにいる。

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