プロローグ『未来への扉』.01
新緑から零れる陽射しが薄暗い森の中を照らす。
その少女の歳は10代半ばくらいだろう。
身長は140にも満たない小柄な身長に、
ちょっとした風で飛ばされてしまいそうな華奢な体。
適当に切り揃えただけの栗色の短い髪と、
まるで雪のように白い肌が薄暗い森の中では際立って見える。
身にまとっているのは旅人や冒険者が好む
頑丈さだけがウリの皮のジャケット。
だというのに下はラフなハーフパンツと、
なんともアンバランスな服装だった。
傍らには少女が背負うには大きすぎる……というより、
少女の胴体と同じくらいの大きさのリュックがあった。
ところどころ擦ったよう跡があり、
それは彼女がよく乱暴に引きずった結果。
少々、大雑把なところのある彼女が面倒くさがって乱雑に扱うからだ。
今、少女は釣竿を持って川辺にいた。
空を見上げた彼女は麦わら帽子を深く被りなおす。
森の中なら太陽から逃れられると思って
わざわざこんなところまで来たのだけれども、
どこにいっても大地を照らす陽射しからは逃げられなかった。
太陽の光は苦手だ。
なんとなく、そこにいてはいけない気がする。
そう感じてしまう原因はわかってはいるのだけれども、
だからといって苦手意識がなくなるわけじゃない。
雨でも降らないかなと思ったけれど、
どうやらしばらく快晴は続くらしい。
麦藁帽子を被った頭が残念そうに垂れる。
彼女は天気のことは大体予想できる。
――感じる、というよりは未来の天気「視る」という感覚。
故郷を出ることになってしまった
原因の一つではあるのだけれど、
こうして一人で旅をしていると
意外と便利だなぁと最近は思い始めていた。
「ん……」
川に垂らした釣り糸が、くんっと何かに引っ張られる。
彼女は冷静に魚を泳がせ、じわじわと体力を削ってから
「やっ……!」
一気に釣り上げた。
ぴちぴちっと暴れているのは鮭だ。
離せと言わんばかりに体を振っているが、
さっと拾い上げて桶に放り込んだ。
サーモンは好物だ。
一瞬、頬が緩みそうになったが
「まだ2匹かぁ……」
夕飯にしては物足りない。
新しいエサをつけようと
ベルトに吊り下げたバックを探すが
「全部使っちゃった」
生憎と生餌のストックはもうなくなっていたらしい。
周囲を見回すが、適当なミミズや小虫もいなさそうだ。
普段はいくらでもあるのに、必要なときに限って見つからない。
「ん~……」
なにかエサの代わりになるものがないかと
バックを中をゴソゴソと探して指先に触れたモノを取り出す。
「これで、いっか」
彼女はそれを使い、再度釣りを再開した。