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前世の記憶は夢の中

夢を見た場所で

作者: ととと
掲載日:2015/04/19

5作目になりました。

私はハンナ・ジョージー。アスメリク子爵の庶子だ。

母は子爵家の持つ領地の一つを任された家の娘で、子爵とは身分差があるとはいえ幼なじみの関係だった。

子爵は同じ子爵位を持つ家の娘を妻にしたが子供に恵まれず、母を妾としたのだそうだ。


そういうわけで、私は庶子ではあれどこの家の後継として教育を受けて来た。

状況が変わったのは、15の時のことだ。


正妻が、嫡男を産んだ。

爵位は男女の別なく継ぐことが出来るが、誰に継がせるかは当主の勝手である。男子が優先となる場合がほとんどだが、中には女子を優先する伯爵家もある。全員が成人を迎えてから当主が指命する方針をとる侯爵家もある。

だが共通して、庶子よりは嫡子に継承は優先されるのである。


私のこれまでの努力は実を結ばずに終わった。

しかし、悲観してはいない。なぜなら



私は、知っていたのだ。





私は子爵家の庶子として生を受けながらも、その跡取りとして15までを過ごす。

15の時に正妻が弟を産み、私は跡取りから外れる。

その後すぐに社交界へ本格デビューをし、嫁入り先を探す日々が始まる。おおよそ2年後、17の時に庭園で休んでいるところを王太子に見初められるのだ。


彼は既に結婚していたため側室ではあったけれども、子爵家で、しかも庶子である私には大出世。一族総出で大喜びだ。


王太子は実のところ、正室に対しては家族愛といった感情を向けていたようで、私が側室として上がってからは連日部屋に訪れた。


寵愛を受けているからといって、過度な態度は避けるべき。

王太子も公式の場では正室を立てているし、私も侯爵家出身の彼女になるべく目をつけられぬように振る舞った。

幸い彼女は温厚な人柄で、王太子が部屋を訪れなくなっても私を排除しようとする動きは取らなかった。母と父の正妻がそうであるように、何事もなく過ごすことが出来ると満足していた。

玉座は正室の子供のもの。私が産んだ子供は王族として恥ずかしくない教育を受けさせ、尚且つ出過ぎないことを教え込むのだ。それこそが側室の立場で平穏に暮らすことに繋がる、心得というものだ。


平穏無事とはいかないまでも、順調であるように思えた。

王太子を、後に王となった彼を愛していたわけではなかったけれども私は満足していたし、彼もそうであったと思う。



再び私を取り巻く状況が変わったのは、私が妊娠をした時のことであった。



私の父とその正妻は、政略結婚。王太子と正室も、政略結婚。

父と正妻は情はあれど愛はない。王太子は正室をそういった意味では愛していない。

けれども正室は、王太子を本当に愛していたのだ。


王(この頃には王太子は即位していた)は、その事にあまり気付いていなかった。

正室も、その激情を内に秘めていたことが仇となったのであろうか。

まだ幼かった子供たちを残し、自らその命を絶った。



この事件の前、一度だけお茶を一緒にした。


「あなたは、陛下を愛していらっしゃるのでしょうか」

彼女の問い掛けには、答えられなかった。

「陛下は、私を本当の意味で愛してはおりません」


「気付いてはおりましたけれど、愛しい方の子を二人も得ることができて幸せだと……」


「ほんとうは、もっとはやくに二人でお話してみたかったんです。同じあの方の、妻なんですもの」


僅かに目尻を光らせながら微笑む彼女は、結婚しているというのに儚げな少女のようであった。


彼女が亡くなった日も、庭の池で水の妖精であるかのように美しいままであった。



私も大きな衝撃を受けたけれども、それ以上に嘆いたのは、夫である王だった。

幼いころから交遊関係にあり、結婚し子供も生まれ、公の場では常に隣にあった彼女がいなくなってから、食事もあまり喉を通らなくなってしまった。(子供にみっともない姿をさらすんじゃないとまさか私が叱り飛ばす次第になった)

それからというもの、私が第二王子にあたる子を産んだ後も、夜の訪れはパッタリと途絶えた。


正室の産んだ第一王子が成人し、もう手助けも必要ないと確信すると彼は病に倒れた。

語るところによると、やはり一番に愛しく想うのは正室であったと。


すべてを終えた私は王宮を出て、今までの宝飾品などを売り払って田舎の邸宅で生涯を終えた。

あー、もう駄目。これもう終わりだわー。孫はちょっと見てからと思ってたけど彼女の孫は見れたからいいかー。



などと


死んだはずだったのだが。



目が覚めると3歳だった。




この12年、どうすればいいのかをずっと考えて来た。

だってグレイス様天使なんだもの。あ、グレイス様は正室のことね。グレイス様って可愛らしいし、性格も良いし、聡明な方だし、人望もあるし、っていいところずくめの天使さんなの。お話してみたかったってそれ私のセリフですぅー!

今度は絶対自殺なんかさせないんだから!


この家で一番重厚な扉を勢いよく押し開ける。

「お父様!私、王宮で侍女になります!」

王太子の動向を探り浮気を阻止しつつ(もう側室なんて浮気だ浮気!)あわよくばグレイス様ご成婚の際にお付きとして選ばれるようになる!

お父様は困った顔をして考えている。

「ハンナ……王宮の侍女は厳しい仕事だよ?ハロルドが生まれてお前は動揺しているのかもしれないが、少し落ち着きなさい。これからは当たり前の女としての幸せを得られるということなんだ」

「そうじゃないのよお父様!」

は!でも王太子と結婚するのがそもそもグレイス様のお幸せなの!?あっという間に私に乗り換えたあげく失って気付いた…なんてヌかす王太子なんかじゃなくもっといい男を一番近くで探して差し上げるべきでは?

「お父様……やっぱり私、社交界へ出るわ!」

「うん?どうしたのかなうちの娘は。社交界に出る気になったならいいか。その事ならミネルバが張り切って準備しているよ」

「すぐ行きます!」



待っててくださいグレイス様!

読了ありがとうございました。


念のための補足

正妻→父の妻 (ミネルバ)

正室→王太子の妻 (グレイス)



記憶の保持について


ハンナ→一周目のみ

グレイス→本編知識、一周目うっすら

王太子→一周目うっすら


うっすらは本当にうっすらなので、言葉尻に無意識でそれらしいことが出てくるくらい。

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