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短編集  作者: オスカー
9/11

見えない世界

 SNSが流行するこの時代、誰が誰とでも繋がる事が出来た。学校で雑談を交わす友人、テレビで見る憧れの芸能人、見た事のない実態のない人々、私は其の人達の日常を垣間見、電波の世界にばかり浸って生活をしていた。私は現実世界、所謂リアルと言われるような場所で上手い事生きている方の人間ではない。だからより其方側にのめり込みやすかった。アニメや漫画が好きなオタク気質というのも一つの理由だろう。クラスにもたくさんいる、腐女子と云われる男の子同士の同性愛が好きな痛い人に私は分類される。彼女達は何だか暗く、内輪だけできゃあきゃあと決して黄色くは聞こえない可笑しな声で喜び合っていた。その人達とは反して、明るく友達が多い人もいた。私は誰に頼まれた訳でもなく、それを隠していた。暗い彼女達みたいに笑われる存在にはなりたくなかったからだ。でも隠していた所で私には友達は多くはなく、心を許せる人もいなかった。ココロを許すなんて古っぽい言葉を使う限り、内容を聞く限り、私だって十分に痛い人だというのに。


「ご飯の時くらい携帯見るのやめれば。」

 冷めた姉の声に顔を上げれば、彼女は此方を見もしないでお椀を持ってご飯を食べていた。姉は良く食べる。食べる癖に細い。けれど特別美人という訳でもなく、歯並びも悪ければ行儀も悪かった。姉はよく食べる。少し太っている私よりもよく食べる。彼女の食事の仕方はなんだかとても汚かった。箸の持ち方、姿勢、全部、姉は食事の時だけ異様に醜くなる人だった。

「別にいいじゃん、そんなにずっと触ってないし。」

「さっきから触ってんじゃん。どうせ急な連絡でもないくせに。」

「はぁ?うっざ。」

 姉はけれど、正しい人だった。


 リアルのアカウントのタイムラインには他愛もない会話が広がる。ご飯がどうの、テレビがどうの、好きなバンドがなんやらかんやら。なんだかとても幼稚に見える。大したことも無い日常を誰に発してどうなるのだろう。そのほとんどにリプはついていない。皆やたらめったら呟くけれど、そのほとんどは誰にとってだってどうでもいいのに。もう一つのアカウントは、宇宙みたいだった。文学的で高尚な人達が綺麗な言葉を使って難しい言葉を呟いていた。かの有名な三島由紀夫の何がこうだとか、偉大な人の名言がとか、舞台がとか映画とか。私も大人びて綺麗な言葉を使ってみた。その人たちの仲間に入れたようだった。リアルのアカウントと同じく此方のどの呟きにだって返信はないけれど、なんだかそれはとても綺麗で整然と物が並んでいるような清潔感と好感を私に与えた。ふとテレビを見たら最近流行のアイドルが映っていて、それからスマホに目を落とす。

『所謂アイドルの人達はCDのランキングから外せばいいのに。正しい売り方をしていないし、他にもっといい曲を知りたいのに。アイドル好きな人達がちょくちょく出す豆知識なんて興味もないし、煩わしい。』

 リアルじゃないアカウントの方で呟いた。あちら側にはアイドルが好きな人がいるから。それから暫くしてタイムラインを見ると、一つの呟きが目に留まった。

『何も知らない癖によく言えるよなぁ。アマチュアのバンドだって知ってる人は知っているのに、無知な事を他の人のせいにして。本当に厭な人。』

 あれ。と。手が止まった。

 ドキドキしていた。心臓ではなくお腹が。ドキドキする時って心臓じゃなくお腹なんだと吃驚しながら固まって、意味もなくその人個人のツイートの後を追ったりするけれど何かを分かるはずもない。私はフォローされたままだったし、けれど、あの言葉はあからさまに私に対してだった。謝罪をしようかと思った。けれど私は別にその人に対して言ったつもりはない。もしかしてその人だって私に言ったんじゃないかもしれない。そうだ、きっとそう。それから私は数時間だけ、ツイッタ―を見るのをやめた。


『友達でアイドル好きな子がいるのだけど、そのグループの人の名前を全部覚えている。テレビで少し出ただけでも業とらしい程に説明してくれる。まるで試験勉強みたいになって必死に覚えていて少し戸惑う。』

 そう呟いた。弁明のつもりだった。言い訳のつもりだった。そうするとまたあの人が数分も置かずに呟いた。鬱陶しい、うざい、と。私はまたドキドキした。だからその人をミュートにした。フォローしているくせに、呟きが表示されないようにした。なんだろう、これ。どうしてこんな電波の世界でも気を遣わないといけないんだろう。知らない人だからこそ顔を合わせた時にそういえばと謝罪も出来ない。其の人も私をフォローから外したりしなかった。外したりしてくれる方がよっぽど、楽なのに。


『別垢で悪口言う人うっざ!』

 そう呟いていたのはアイドルが好きな女の子で、私はドキドキした。それから連投された内容を読むと、友達かもで表示されたのが私の別のアカウントだったらしく例の呟きが彼女にバレていたのだ。ドキドキした。手が震えた。ベッドに携帯を投げたけれど落ち着かず、またツイッタ―を覗く。ほんの数分しか手放す事が出来なかった。


『電波の世界って怖い。姿も知らない人達が好き勝手に呟いて、自意識過剰になって、疑心暗鬼になって。嗚呼、もう、どうしよう。』


 誰からの返信も、なかった。

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