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短編集  作者: オスカー
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眠れない少年の独白

 瞼を落とした黒い世界に、それでも僕の電気信号は鳴り止まない。心臓だか脳みそだか、そんなものが必死こいて生きているのだろう。なんのためにって、なんのためでもなく、消極的に、死ねないから生きているだけなのだ。いつだって止まってもいいのに、僕の電波はいつだってどこかに向かって発せられている。僕の電気信号がチカチカと、黒い世界で点滅する度、僕は生について考え、絶望し、頭の中で何度も何度もこの魂を切り刻むのだ。

 軽い衣擦れの音がする。布団を被ると温かいけれど、心地の良いものではなかったか。薄っぺらい重みでさえ、僕にはひどく鬱陶しく思えるのだ。何かに包まれたり触れたりしていると自分という無意味な物体の実体を把握せざるを得なくなる。動かそうと思えば動く手、何かを発しようと思えば声を漏らしてくれる口、機嫌を損ねてぐるぐると不快な痛みを訴えるお腹。僕の身体完璧で、完全で、何の欠損もないのだ。この世界にただの人間として存在して、今現在、何かに向かって電波を発しているくせに、この信号は、誰にだって届かない。


 傷付いたと言いふらす子供。大人は、という子供。次は自分だから、という子供。

 楽をして稼ぎたいから水商売へと身体を落とす女。

 セックスしたからただ子供が出来ただけという、未熟な、親。

 勉強をしていないことを言い訳にするため、まるでそれが素敵で格好いいことのように自慢するクラスメイト。

 やればできるからという、どこからか訪れる自信という現実逃避。


 世界はただただいつだって可哀想だった。僕ら人間が可哀想なのではなく、地球が可愛そうなのでもなく、抽象的な世界はいつでも冷たくて、どこにでも選択肢があるように思えても、いつも僕らは正しい方を選ぶことが出来ない。


 こんな親の元に生まれるつもりなんてなかった。

 子供をつくるつもりなんてなかった。

 こんな成績を取るつもりなんてなかった。

 こんな人間になるつもりはなかった。


 どこかの、正しい、正義感のある、人間的な誰かはきっとこう言うだろう。怠惰だと。自分自身が悪いのだと。衣擦れの音がした。布団が僕の身体を巻き込んで、蓄えていた熱の面が逃げ、冷たくなった。

 僕らの身体が電気出来ていて、僕らが電波を発しているとするならば、規則正しく決められたコンピューターの回路みたいに、僕らは、選択なんてほとんど出来ない。あのひし形が右と左に分かれて、イエスかノーの世界で、いつもどちらかに振り分けられいるだけ。選択ではないのだ。選択しているならもっといい方に動いている筈なのだから。誰だって、僕だって、世界だって。

 生きていたくない。

 生きていたくない。

 世界が呼吸を止めてくれないだろうか。僕の周りの酸素が一斉になくなってしまわないだろうか。

 寝返りを打った。

 目を開いた方が、この世界はずっと、暗い。

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