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「なんだったの、あのお………マダム」
思わず口をついて出かけた単語を無理やり引っ込めて置き換える。たった一音でも全貌は丸見えだったようで、エルザさんに冷ややかな微笑で窘められた。すいません。
「マダム・マクシーナは旦那様の母君の弟の嫁の従妹の次男の種違いの姉の再従兄の姉君であらせられます」
「…………つまり?」
「血の繋がりなんて無いと言っても過言ではありませんが戸籍上は多少縁のある遠すぎる親戚、ということです」
言いにくいだろうこともはっきり言ってくれるローザさんが本当に大好きです。きゃーっ、オットコマエー!茶化してみたらドヤ顔された。女にもモテる女ってローザさんのことだよね。
「マダムはご覧になった通り、非常にアクの強い御婦人でして……しかも厄介なことになまじ高い身分をお持ちですから対処もし辛い方なのです」
今回はさつき様がいらしたから面目も立ちましたけれど、普段ならまだまだ続きますよ、とぼやくのを聞いてゾッとした。なにそれ怖い。世の中には面倒くさい人もいたもんだ。
「でも、あの人結局何しに来たの?」
あのマダムがこの部屋に来てからしたことと言えば、レディーとは何かと声の大きすぎる一人言をこぼしていったことくらいだ。わざわざ他人の控え室に足を運んでまですることなのだろうか。
それもレディーの嗜み?と聞いてみれば四方八方から全否定された。あれは悪い例だと口を揃えるみんなの勢いが凄まじい。
「おそらく『ご降臨あそばしてからまだ間もない天女様は下界の機微に疎くていらっしゃるはず、私が後ろ見となって教えて差し上げなければ!』とかなんとか思い立たれたのではないかと。旦那様の身の回りにもよく口出しなさってますから。つまりは権力者に阿りたいだけの者だと認識して頂いて差し障りございませんわ」
「なんだそりゃ」
思考回路からして世界が違った。本当にそうなら迷惑過ぎて開いた口が塞がらない。私の中でマダムが馴れ馴れしいおばちゃんになった。次会ったとき近寄んないで香水臭いとか口走らないか今から不安だ。
「ん……?てことは、あのレディーの嗜み云々って別に気にしなくてもいい?」
「あ、それは是非とも気にしてください。品性には非常に難ありですが、それについては間違ったことは言ってませんでしたので、ご安心くださいね」
おぅ、まじか……。あわよくばと言うのは甘すぎる考えだったらしい。逆らえない笑顔で釘を刺されてしまいました。
ここの人達ってみんなお腹に一物二物当たり前に持ってるよね。全員分の猫合わせたらどのくらいになるんだろう。……いや、考えるのはやめておこう。辛くなるだけだから。しょっぱいよ。
何も知らなかったあの頃が懐かしいよ、まったく。




