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半身浴も兼ねてのんびり湯船に浸かって出た私を待ちかねたと言わんばかりの満面の笑みを貼り付けてメイドさんたちが出迎える。
体に巻いていたバスタオル?あんなものすぐさま剥ぎ取られたよ。今は一糸纏わぬ状態、完全な素っ裸で台の上に寝かされてエステ?マッサージ?そんな感じのものを受けてます。痛い。なんか絞られてるしごりごり言うし痛い。御苦労遊ばされたのですね、って何言ってるのかよくわからないから日本語……じゃないか、パトラシャーナ語でお願いします。今以上の苦労なんて思い浮かばないから!
体に塗りたくられてる液体は何となくボディローションとは違う気がした。何なのか気になって聞いてみたところ、香油というらしい。つまりはアロマオイルってこと?よくわかんない。ああでも、ごりごり言ってるのはリンパを詰まらせてる老廃物なんだって。へー。
エステもマッサージも終わったら、今度はドレス。あれやこれやと着せられていく。当然、コルセットも着用。着替えが終わる頃には上手く息が吸えなくて軽い酸欠状態の私が出来上がりました。
そして、せっかく着飾ったのに顔色悪くっちゃ話にならんとばかりにあれやこれやとまた塗りたくられる。―――かと思いきや、メイクに関しては拍子抜けしてしまうほど何にもされなかった。いや、ちゃんとメイクされてますよ?ただ、ゴッテゴテに盛られまくるのかと思ってたのにナチュラルメイクだからすごい驚いてる。確かに盛るよりナチュラルの方が手間暇かかるんだけど、パーティーとかの華やかな場には相応しくないような気がする。外国の人とかならまだしも、私は普通の、どこにでもいる、平平凡凡を具現化したような日本人ですから。
「ねぇ、メイクってこんなに薄くていいの?」
不安になったから尋ねてみる。自分でも本当にメイクしてるのかわからなくなるくらい薄いから、他人から見たらスッピンとしか思えないでしょ。
だけど、周りのメイドさんたちはみんなこれでいいのだと言う。
「さつき様は元々見目麗しくていらっしゃいますから、本来ならばこんな薄化粧ですら余計になってしまいますわ」
「でも、お素顔のままでは美しすぎてよからぬ思いを抱く輩が出ないとも限りませんものね………ああ、心苦しいわ。この美貌を敢えて損わなければならないなんて!」
…………………アア、ハイ、ソウデスカ。
もう何も言えない。意識が遠のいた。息苦しさの余り頭からすぽんと抜け出てたみたい。そうだよね、ここの人たちの美的感覚って、そうなんだよね。油断してたから余計ダメージが半端ない。
すっかり黙り込んだ私に、お控えのメイドさんたちが飲み物や小さなお菓子を勧めてくれた。小ぶりなクッキーやプレッツェルが可愛らしい。そのなかで、一種類だけ形が不揃いなチョコレート菓子が目に付いた。
「これ、何ですか?」
他の物と比べると幾分か大きいそれを指さして聞いてみる。お菓子を勧めてきたメイドさんは、さすがにお目が高いと笑顔で褒めちぎってきた。
「レオハルト領名産の目玉もどきのショコラです。そのまま食べても大変美味なのですが、天日干ししてからですとわずかにアルコールを含有してボンボンのようになるのです」
コラーゲンが豊富ですので美容にも大変よろしいんですのよ、と朗らかに語ってくれる彼女に頬が引き攣るのを必死で堪えた。
ここでも出るのか、目玉もどき!チョコレートコーティングされてあのグロテスクな見た目が隠されてるとはいえ、やっぱり最初のインパクトが絶大過ぎて頭から消えてくれない。食べるのにかなりの勇気がいる。




